3話 ep.6
ヒイラギは出来上がったメガネをかけ、満足げな笑顔で出口へ向かう。
「トキくん、一緒にお見送りを」
先導していたメジロに声を掛けられ、トキは慌てて後を追う。出口でショッパーを手渡したメジロが口を開く。
「本日はお時間いただきありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。……ああ、そうだ。キミ」
ヒイラギがメジロの隣に立っているトキに向き直って声を掛ける。
「最初によく分からないことを言って困らせたことを詫びたいと思っていたんだ」
「え、いや! そんな、大丈夫です!」
「話を聞いてくれてありがとう」
ヒイラギからの感謝の言葉に大きく目を見開いたトキは勢いよく頭を下げた。
「本日は、ありがとうございました!」
初めてもらったお客様からの感謝の言葉にトキはえもいわれぬ達成感を覚えたのだった。
ヒイラギが帰ったあとのフロアを整理していると、メジロが声を掛ける。
「クリップオンのフレーム、よく把握していましたね」
「暇すぎて毎日フレーム拭いてるんで、まあ」
「日々頑張ってくれていて嬉しいですよ」
にこりと微笑んだメジロにトキは気になっていたことを口にしようか逡巡する。その一瞬の間を読み取ったのか、メジロは笑みを深め口を開いた。
「頑張っているご褒美に、なんでも質問に答えましょう。疑問があればどうぞ?」
「……心読んでんの?」
「おや、そんなことでいいんですか?」
「あー! 違う違う! さっきのは独り言‼」
ぽつりと呟かれた言葉に答えようとしたメジロを大声で制してトキは改めて店内を見回す。いつだって閑古鳥が鳴いているような、普通に考えれば店として成立するのかも怪しいようなこの店。経営はどうしているのか、もう少し客を増やせるような工夫をすべきなんじゃないのか。そんなことも疑問として浮かびはするものの、今最も気になっているのはそんなことではなかった。
「……この店にたどり着いたのであれば、みんなこの店の客だって、アンタ言ってたよな」
「ええ」
「それって、どういう意味」
トキ自身、初めはこの店にたどり着いた側の人間だった。その時から妙に感じていたことだった。普段なら絶対に入らないような店に、なぜか吸い込まれるように入店してしまった。これだけ不思議なものを取り扱っている店だ。もしかしたら、この店を見つけるにも条件が必要なのかもしれない。そう、考えていたのだ。
「言葉通りの意味ですが……そうですね。この店を見つけるためには、その人に目的がなければいけない。エニグマを必要としている人に、エニグマは門戸を開く。ただそれだけですよ」
貼り付けたような、いつもの笑み。メジロの表情から何かを読み取ることは出来なかった。