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オプティシャン・エニグマ  作者: 塚口悠良
第3話:記録と記憶
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3話 ep.2

 老爺はメジロからの問いかけに首を傾げる。心当たりはない、と言いたげな老爺を半ば強引に誘導したメジロはフロアの片隅にある度数を測るための機械に老爺を座らせた。

「こちらに顎を。ここに額をつけてください」

 有無を言わせぬ流れに老爺も無言で従う。カチカチと音を立てた機械からレシートのような紙が出てきて、メジロはゆったりと微笑んだ。

「あちら、おかけになってお待ちください」

 フロアのテーブルを指し、測定室へ向かったメジロから案内を引き継ぎ、トキが老爺をテーブルへ案内した。

「こちらで、少々お待ちください」

 トキは席に着いた老爺にそれだけ伝え、測定室にいるメジロに話をしに行く。

「メジロさん、あのおじいさんお客さんじゃないですよ」

「いいえ。うちにたどり着いたのであれば、皆一様にうちのお客様ですよ。あの方にとって見なければいけない物がある。だから、ここにたどり着いた」

 釈然としない思いはあるけれど、妙に自信を持って言い切るメジロに返す言葉が見つからず、それ以上の言及はしないことに決める。代わりに、先ほどの老爺との会話で得た情報をメジロに伝えることにした。

「あのおじいさん、お孫さんにもらったウサギの粘土細工を探してるらしいですよ。急になくなってしまったと言ってました」

「ふぅむ……失せ物探し、ですかねぇ?」

「そんなんメガネ屋の仕事じゃないだろ……」

「ははは。そんなことありませんよ。”見えるモノ”なら、全てうちの領分です」

 愉快そうに笑うメジロに怪訝な視線を向けるトキだったが、店主が請け負うというのなら従業員に口出しする権利はない。肩を竦めため息をついたトキは、黙ってカウンターに引っ込んだ。測定室から出て行ったトキを見送って、手元に完成したメガネの試験枠を見る。あの老爺の本音は分からないが、メガネ屋としての本分も忘れるわけにはいかない。より良い視界を手に入れてもらうのもこの店の存在価値なのだから。

「お客様、まずはこちら。かけてみてください」

 フロアのテーブルについた老爺に作った試験枠を差し出す。しかし老爺は眉根を寄せ受け取ろうとはしなかった。

「わしはメガネを作りに来たわけじゃない。探しているものがあるんだ」

「ええ。ですから、そのためにも」

 煩わしげに説明をしようとした老爺の言葉の隙間に差し込むようにしてもう一度試験枠を差し出した。

「探し物には、良い視界が必要ですから」

 いぶかしげにしつつもメジロの手から試験枠を受け取った老爺は、渋々己の顔に掛けた。

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