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オプティシャン・エニグマ  作者: 塚口悠良
第2話:思いの重み
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2話 ep.4

 メジロはトキに微笑み掛け、ぽんと肩を叩く。そのまま測定室へ向かい、女性のタブレットを受け取った。

「ご協力ありがとうございます。それではサクラ様、こちらのカルテを元に問診を行います。少々踏み込んだお話もさせていただきますので、答えたくない場合はそう仰っていただけると助かります」

「……分かりました」

 タブレットをスワイプしながら内容を確認したメジロは、通常の見え方の確認から行っていく。遠く、手元の見えづらさ、像のぶれがないか。疲れやすい感覚はないか。そういった設問を終える。回答の中には特段度付きのレンズが必要そうな兆候はなかったが、念のために、ということで測定室のすぐそばにある屈折率を測る機械に案内する。手早く数値を測り、数値的にもレンズでの矯正は必要ないことを確認した。

「それでは、改めて質問させてください。サクラ様は、見たいものがあるんですね」

「……えっと、見たい……というか、知りたい……というか」

 メジロの言葉に視線を落としたサクラは言葉に詰まりながらもなんとか応答する。

「かしこまりました。それでは、あなたの望みを、お見せいただきましょうか」

 そう言ってメジロがサクラと目を合わせる。妖しく光った緋色の瞳を最後に、サクラの意識はぷつりと途切れた。


 大好きな人がいた。この人のためになら、自分の人生を捧げてしまっても構わないと思えるほどに。いろんな奇跡が重なって、恋人という関係になることができたけれど、人の欲望は際限がない。付き合う前は、彼と恋人になれればこれ以上の幸せはないと思っていた。だけれど、恋人という立場を手に入れてからは、自分を彼の一番にしてくれないと耐えられなくなっていた。どうしても、彼の一番が欲しい。自分だけを見て欲しい。私を、本気で愛して欲しい。そう願ってしまった。彼は優しい人で、私を愛してくれていた。大切に扱ってくれた。一番にしてくれた。でもそれは、恋人ととしての時間が過ぎるごとに、特別でなくなっていった。デートの誘いも、夜のことも、記念日のお祝いだって、いつも私から。いつでも一緒にいたはずだったのに、彼は何も言わずに外出することが増えた。悲しかった。苦しかった。もう、終わりなのかもしれない。そんな予感が頭を過ったとき、神様は私に最後の希望を授けてくれた。愛した人との宝物。この報告を自分の誕生日に出来るだなんて。あまりにも嬉しくて、なにより、とても怖かった。この事実を告げたとき、彼がどんな反応をするのか。喜んでくれなかったら。拒絶されたら。そう思うと、家に帰ることができなくなった。

 私はただ、彼に愛して欲しいだけなのに。

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