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オプティシャン・エニグマ  作者: 塚口悠良
第1話:見れども視えず
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1話 ep.1

 大学終わり、帰路についたトキはなんとなく普段と違う帰り道を選ぶことにした。いつもは通らない道に少しだけ浮き足立ちながら歩を進める。大通りから一本入った路地、普段なら気にすることはないであろうアンティークな装いの個人商店。しかし、なぜかその店がひどく気になって、足を止めた。視線を上げた先に掲げられていた看板を凝視し、トキは呟く。

「……お、ぷてぃしゃん? 何屋だ……?」

 看板に書かれていたのは”Optician ENIGMA”という文字。言葉の意味が分からず首を傾げたトキだったが、好奇心は治まってはくれない。逸る心臓の音を聞きながら、ドアに手を掛けた。


 扉の先に広がっていたのは外観に違わない空間だった。木目調の柱やフローリング、落ち着いた雰囲気の店内には大小様々な島什器が置かれており、その上には整えられたメガネフレームが並んでいた。店内には人影がなく、ゆったりとしたジャズ調の音楽がBGMとして流れているのみだ。入り口からすぐ目に入る場所に置かれた一本立てのスタンド。そこに掛けられたフレームはどこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。そのフレームにトキの視線は釘付けになる。一見なんの変哲もないシルバーのオーバルフレームだが、光の当たり方によってキラキラと色を変える。反射光が紫や黄色、青と違った表情を見せた。

「いらっしゃいませ。よろしければお手に取ってお試しくださいね」

 いつの間にかすぐそばにいた年若い店主がトキに声をかける。スリーピースのスーツをかっちりと着こなした男はスタンドミラーをトキの前に移動させ、音もなく離れた。

 トキはメガネ屋に用事があったわけではない。視力も悪くない方である自負があったため、帰りづらくなる前にと踵を返そうとしたところでふと違和感を覚えた。

「……みえない」

「それが、大多数の人間の物の見え方ですよ」

 ボソリと呟いたトキの言葉に店主が答える。まさか返答があるとは思いもしなかったトキは弾かれたように店主の方を見やった。

「怯える必要はありません。あなたが望む世界、ご覧に入れましょう」

 感情の見えない完璧な笑みを浮かべた店主は胸に手を当てお辞儀をする。

「ようこそ。オプティシャン”エニグマ”へ」

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