エンディング
あすか:(最終ラウンドの感動的な静寂の中、四人の穏やかな、あるいは晴れやかな表情を見渡し、深く頷く)「ありがとうございました。皆さんの魂の結論、確かに、お聞きしました」
(あすかは、ゆっくりとスタジオの中央へと歩みを進める)
あすか:「『時代が私に追いつくまで』…。もしかしたら、本当は、皆さんが時代を待っていたのではなかったのかもしれません。時代の方が、皆さんのそのあまりに純粋で、強靭な魂に、追いつくのを待っていた…。私たちは、今、ようやくその入り口に立ったばかりなのでしょう。皆さんが遺してくれた地図を頼りに、一歩、また一歩と」
(あすかは、再び四人に向き直る)
あすか:「この場所での対話も、まもなく終わりを迎えます。最後に、この時空を超えた語らいの場で、皆さんが何を感じ、何を得たのか。その最後の声を聞かせていただけますか。…では、ディキンソンさんから」
ディキンソン:(静かに目を開け、かすかに微笑んでいるように見える)「…私の部屋には、たくさんの客人が訪れました。嵐のような画家が二人。それから、雨のように優しい旅人。…私の静かな庭に、たくさんの声が響きました。たまには…こういう嵐も、悪くないものですわ」
あすか:「ありがとうございます。賢治さん、いかがでしたか?」
賢治:(柔和な笑みを浮かべ、少し照れたように)「わたくしは、自分のことで精一杯の、ただのデクノボーでした。ですが、皆さんとお話しして、確信いたしました。時代が違っても、国が違っても、魂の形が違っても…誰もが、自分の星を、必死に輝かせようとしているのですね。この声が届く、未来のどなたか。どうか、あなたのほんとうのさいわいを、見つけてください。心から、そう祈っております」
あすか:「その祈り、きっと届くでしょう。…では、ゴーギャンさん」
ゴーギャン:(ふう、と大きなため息をつき、ふてぶてしく笑う)「まったく、疲れる座談会だった。感傷的な奴は泣き出すし、説教臭い奴はいるし、独り言の多い嬢さんもいた。だが…まあ、退屈はしなかったな。それだけは認めてやろう」
あすか:(微笑みながら)「最高の賛辞と受け取っておきます。では、最後に…フィンセントさん」
ゴッホ:(穏やかな表情で、隣のゴーギャンを真っ直ぐに見つめる)「……ポール」
ゴーギャン:(ギョッとしてゴッホを見る)「…なんだ」
ゴッホ:「アルルでは、すまなかった。僕は、君を追い詰めてしまった。…でも、それでも、また、こうして君と話せてよかった。本当に」
(ゴッホは、心の底から、晴れやかに微笑む。その純粋な言葉に、ゴーギャンは一瞬たじろぎ、照れ隠しのように、わざと乱暴に顔をそむける)
ゴーギャン:「……フン。感傷に浸るのはそこまでにしろ。…次に来る時は、地獄かもしれんがな。その時は、もうちっとマシな絵を見せてみろよ、フィンセント」
(その言葉は、彼なりの友情の証だったのかもしれない。ゴッホは、嬉しそうに、ただ静かに頷いた)
あすか:(その光景を、万感の思いで見つめる)「…皆さんの声、確かに未来へ届けます。それでは、元の時間へとお帰りいただく時が来ました」
(あすかが静かに手を掲げると、スタジオの奥で、再びスターゲートが光の渦を巻いて起動する)
あすか:「ポール・ゴーギャンさん。あなたの揺るぎない魂と、孤高の哲学に、心からの敬意を」
(ゴーギャンは立ち上がると、ゴッホの方を一瞬だけ見て、ニヤリと笑い、誰に言うともなく「じゃあな」と呟いて、堂々と光の中へと消えていった)
あすか:「宮沢賢治さん。あなたの無償の愛と、銀河鉄道の旅が、これからも多くの人の心を照らし続けますように」
(賢治は、全員に深く、深く一礼し、「皆さま、どうかお健やかに」と言い残し、優しい笑顔のまま、光に包まれていった)
あすか:「エミリー・ディキンソンさん。あなたの静かな庭から紡がれた永遠の言葉を、私たちはこれからも探し続けるでしょう」
(ディキンソンは、静かに立ち上がり、誰にともなく、しかし確かに、小さく会釈をした。そして、まるで自分の部屋の扉を開けるかのように、躊躇なく光の中へと入っていった)
あすか:(最後に残ったゴッホに、ひときわ優しい声をかける)「フィンセント・ファン・ゴッホさん。あなたの魂が、どうか、安らかでありますように。あなたの愛したひまわりが、いつまでも太陽の方を向いて咲き続けますように」
(ゴッホは、穏やかな涙を浮かべ、晴れやかな、本当に晴れやかな笑顔を見せる。そして、深く一礼すると、振り返り、自ら光の中へと、確かな足取りで歩んでいった。その背中は、もう寂しくも、苦しそうでもなかった)
(スターゲートの光が静かに消え、スタジオには、あすか一人だけが残される。テーブルの上には、彼らがいた痕跡である、四つのティーカップが静かに置かれている)
あすか:(ゆっくりとカメラに向き直り、深く、長く一礼する)
あすか:「物語は終わりません。彼らの声は、これからも時を超えて、あなたの心に響き続けるでしょう。『歴史バトルロワイヤル』、また、次なる物語でお会いしましょう」
(あすかの静かな声が響き渡り、スタジオはゆっくりと暗転していく)
(了)




