第6話 海外帰国子女
多少の恋愛要素も入れておりますが…
自分自身も鈍い方でして…
秋になって、父から『恋人ができた』と報告があった。
俺よりも祖母の方が心配顔をしている。
「いや、同居はしないでしょう」
と祖母をなぐさめたら
「いや、同居はするだろう、普通」
と父は困った顔をした。
どうやら子供(俺)の事を相談している内に、相手女性の娘の事も相談されて、お互いに相談し合う仲になったらしい。
女の子の声まねをして言ってみた。
「ママを取らないで!」
父と祖母の両方がギョッとした顔をしたので
「そんな事にならない?」
と父に聞いてみた。
「ふ~~~」
と長い溜息を吐き出したあと、父は冷蔵庫からロング缶を取り出して、祖母と飲み始めた。
いつもと同じ、朝5時半に起きて仏壇にお経を唱えてから腕立て伏せを30回。
6時からは中学用問題集に取り組み、7時半に朝食。
夏休みが終わっても、いつもの朝だ。
「はじめは通い婚からかな?」
「おまえは本当に……でも、それも有りかな…」
学校の帰り道、同級生の鈴本たちが学習塾へ入ったあと、俺はそのまま真っすぐに駅前商店街へ行ってから、マンションに帰る事にしている。
例の悪ガキ3人組がいなくなってからは、コンビニATMを目的に商店街に来ていた。
株取引でお金は増えたが、生活資金は必要都度、父から俺の専用口座に振り込んでもらっているからだ。
株取引しているのは俺だが、お金は入出金とも父の名義で俺の物ではない。
もし父が金の亡者だったなら、半分は取られるかも知れない。
また、利益に対する税金は、源泉徴収有りの特定口座にしているので、税率20%ほどで証券会社が代わって支払ってくれている。
コンビニに入っても、買い物はほとんどしない。
ATMでお金を下ろしてから、売れ筋商品がどんな変化をしているか、そんなチェックをしている。
スイーツの確認をしていると声を掛けられた。
「石山くん?」
振り返ると6年生になってから転校してきた女の子がいた。
「え~と、あり…『有本です』…そうだった。何かな?」
「スイーツに見とれてる子が、クラスの石山くんだったのが衝撃だったから」
「いや、見とれてたわけじゃないよ。飽くまで市場調査さ」
微妙な顔をして、納得していない事をアピールしているのかな…。
「ここじゃ~じゃまになるから、喫茶店でお話ししない?」
「えっ、喫茶店? コーヒーショップじゃなくて?」
「引っ掛かるのはそこ? 驚くのはわたしよ」
コンビニの支払いを済ませた彼女は、商店街の古びた喫茶店に俺を案内した。
「この店は、わたしのお爺さんがやってる店なの」
「へ~ 手伝ってるって事?」
「まさか…」
カウンターの向こう側のおじさんと目が合った。
あの人が有本さんのお爺さんになるのか…
「俺はホットコーヒーを!」
「えっ コーヒー飲めるの?」
「家にコーヒードリッパーがあります。父のだけどね…」
「私はレモンティーを!」
なんだかおじさんは笑顔になった。
(ま~俺も一応お客さんだし…)
まるで自己紹介のように話し出した彼女は、いわゆる海外帰国子女で、オーストラリア人の父と日本人の母の間に生まれた子だ。
将来の事を考えて、彼女を日本に帰国させて、日本で大学まで過ごさせようとしているらしい。
父親は日本食の熱烈なファンだそうで、老後は日本で暮らしたいらしい。
帰国してからの話も聞いたのだが
……早い話が、私と同じで友達がいないあなたに、私が友達になってあげる?
「ん?どういうこと?」
「学校でいつも一人だし…隠しても分かるわよ」
なんだか得意げに話す鈍感力には、感心するしかなかった。
もしかして断ると、泣いちゃうパターンか?
そんな事になると、おじさんが怖いんだけど…
「そういえば、この店のスイーツもお勧めよ!」
「いや、だから、あれは市場調査だって言っただろ…」
そう言って、小さなメモ帳をランドセルから取り出して見せた。
人気商品ランキングとかいって、3位までを過去から陳列していたのをメモしている。
食べない人だからこそ、商品名と価格はメモしているのだ。
「ふ~ん」
とりあえず、コーヒーの味は悪くない。
豆の劣化を起こさないためには、1日最低でも100杯は売れないと維持ができないと聞いた事があるが、この店はその水準を守れているらしい。
各種の簡単なランチも出しているので、固定客が一定数いるのだろう。
もしかして、料理の腕前がいいのかも知れない。
利益率は食品の方がいいのかな?
「ね~ どうするの?」
「ん~ いまのところ友達はいらないんだけど…」
あ!顔が凍り付いている気がする…