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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
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第1話 ほこら

書きためた話をまとめた物です。

僕の名前は、石山いしやまあきら

小学校の3年生になる時、お寺の住職、遠山健一というおじさんの所に預けられた。


その前は、大阪で暮らしていたんだけど、両親の事はあまり覚えていない。

自分で言うのもなんだが、のんびり暮らしていたので、周囲の事さえも覚えていない。


身のまわりの事は『おばさん』と呼んでいた女の人がやってくれてた。

こづかいをもらっていたので、不自由な事はなく、時々近所の中華料理屋で、一人で食べてた。


だけど突然、奈良の奥深い場所に連れて来られた。

ここは寺で、TVもほとんど映らないし、近所には農家しかない。


お寺に預けられてから、手伝いをいっぱいさせられた。

朝は暗いうちに起きて、本堂の雑巾がけ。

学校でもやっていたから平気だけど、教室よりももっともっと広い。

柱は太くて、抱きついても手と手は届かない。


本堂の掃除が終わると、住職のうしろに付いて、『おつとめ』といってお経をあげる。



1年以上通い慣れた森の中の近道を、ランドセルを背負って学校に通っていた。

そう、もうすぐ4年生になる。


お寺の手伝いで、雑巾がけ、食事の片付け、ろうそくの交換などもして、力が結構強くなった。

力だけでなく、生活環境がぬるま湯からきびしい生活に変わった事もあって、警戒心が強くなった。


山の天気は変わりやすくて、学校の帰りに、季節外れの突然の雷。


『ゴロゴロゴロ ガッ!』

 

近くに落ちたような大きな音とともに、雨が降ってきた。


あわてて雨をさけて、林道の横の洞窟に逃げ込んだ。

そして、ランドセルに付けた防犯ブザーのライトで、洞窟内を照らす。

奥から何かが出て来たら怖いな~。



少し中に入ったところで、壁側の凹んだ場所にほこらを見つけた。

照明がなかったら、見つける事はできなかったと思う。


とにかく、雷もだけど、雨が止むまでは洞窟からは出られない。


とりあえず、給食の食べ残しのパンをランドセルから取り出して、かじる。

短いろうそくと100均ライターもランドセルから出て来た。

花火用として寺からパクった物で、隠し場所はランドセルしか思いつかなかった。


雨が早く止むようにという願いも込めて、ほこらに短いろうそくを立てて火を付ける。

ライターを祠の扉を開けて、中に隠そうとしたら、そこには昔本で見た『勾玉まがたま』が置いてあった。


勾玉の代わりにライターを置き、汚れた勾玉をハンカチで綺麗に磨いていたら、いつの間にか眠っていたようだ。



訳の分からない夢を見ていた。

それはいわゆる藩のお抱え医師が3人の武士に守られて柳生街道を歩く風景で、自分は護衛として付き従う3人の武士の中の一人だった。


突然林道の左右から飛び出して来た男達に対し、医師を守るように前に2人、後ろに自分が付く。

すぐに打ちあう音がして、後ろに下がるが、後方からの気配を感じて振り向くと矢が飛んで来た。


自分に向かってくる矢を打ち払ったのだが、医師の袴には矢が刺さっていた。


「くそっ!」


後方から刀を手にした2人の追手が迫り来る中、矢も飛んでくる。

ならば前方は…と見れば、既に1名は討たれ、万事休す。


やむなく林道を外れ傾斜を下るが、後方からの矢が脇腹に刺さった。

(くそ~ 家老の一派が強硬手段に出るとは…)


男(自分)の心情であった。


夢から覚め、洞窟の出口に戻った時には雨はやみ、外は明るかった。

とぼとぼと歩いて寺に戻ると、消防団の人たちが大勢集まっていた。


住職のおじさんの話から、翌日になっていた事を知った。


行方不明事件として大事おおごとになって、どこにいたのか?とか、学校でいじめにあったのか?とか、いろいろと聞かれた。


翌週の土曜日には、父が迎えに来て、東京のタワーマンションに連れて行かれた。

どうやら、父と母の仲が悪くなり、協議離婚の決着がつくまで親戚である奈良の寺に預けられていたらしい。

もしかすると、行方不明事件が無ければそのまま放置されていたのかも知れない。


僕に関心のない父に代わり、祖母に面倒を見てもらいながら近くの公立小学校に4年生として転校になった。


普段は使っていなかった4畳半の畳部屋を与えられ、布団を敷いて寝ているのだが、洞窟内の祠で見た武士の夢をいまだに毎晩見ている。


柳生の里の武士だったようで、剣の修行をしている夢だ。

持ち帰ってきた勾玉まがたまのせいだろうか…。

武士の夢を見なくなったのは3日目だった。


この護衛武士の思念を受け入れてしまったようで、同級生が急に子供に思えてきた。


祖母にも甘えたいとか、好かれたいとか思わなくなっていた。

武士だったころの記憶はそれほど多くはないが、般若心経は唱えていた。


朝早くに起きる田舎暮らしの習慣が発揮され、畳部屋に鎮座する祖父の仏壇の前で、おいてあった般若心経を小声で唱えたのだが、祖母を起こしてしまった。


「おはよう」


「あっ、起こしてしまって、ごめんなさい」


山寺の暮らしは1年ほどだったのだが、人と遊ぶ習慣はなく、般若心経を唱える変わった小学4年生が出来上がっていた。


「いいのよ、あきら。健一さんの所で般若心経を覚えたのね…あなたが般若心経を読んでくれるのは、とてもうれしい事なのよ。ありがとう」


好かれたいとか思わなくなってから、逆に好かれるとか…なんか不思議な気持ちだ。


『子供らしくない』と祖母に言われたが、とにかく学習意欲が湧いてきた。

武術の稽古しか記憶になかったからかも知れない。

国語、社会、理科、算数など、勉強するのが楽しく、教科書をむさぼり読んだ。


以前の自分とは変わったのか、父は少なからず関心を持ち始めたようで、少し会話をする時間が増えたように思う。



学習意欲は高まったのだが、学校生活は順調とはいかなかった。

同級生の話す内容が、テレビ番組に関するものだったり、マンガ雑誌の内容だったからだ。


何と言っても、我が家では父も祖母もTVなど見ない。


「見てないの?あの番組…」


「そんな時間はないよ…」


授業が退屈だからと演習問題を解いていたら、先生から注意をされた。

(おいおい、注意すべきは他にいるだろう?落書きを描いている奴とか…)


ま~ 理不尽は世の常だが…。



恨まれる原因に心当たりは無いのだが、いじめを受ける事もあった。

だが、身体が覚えた足さばき、身のこなしは、教室内での足の引っ掛けを簡単にかわすし、後方から飛んでくる紙ボールも感じ取れてしまう。



ある日の帰り道、同級生2人が体の大きな3人に進路を阻まれていた。

ガードレールと学校の塀に挟まれ、左右には余裕がない。

そんなところに俺が出くわした。


「石山くん…逃げて!」


「逃がすかよ!」


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