(4)最終話
誤字気をつけたつもりがありました。
ご報告ありがとうございます。
~貴族学校~
「グロリア、おはよう」
「あら、エスティーナ、めずらしいわね。1週間ぶりかしら」
「ちょっと他領の視察に行ってたのよ」
「そうなの~。おかしいわね~あんた妙に色気が出てるわよ」
「そんなことないわ。いつもどおりよ」
「まあ、そういうことにしておいてあげるわ。でもまわりを見てご覧、みんな気づいてると思うよ!化粧もしてなかったのに口紅までして、スカートも膝下だったのに巻き上げてるしね」
「わかった。ふふ。それはそうと、隣のクラスが騒がしいわね」
「ああ、あれね。宰相補佐官のコシギン・ブルーノ公爵がガラワル・ユルイノ男爵とその従者に暴力をふるったとしてアントニー君を捕縛したのよ」
「えーーーー!!彼は無実よ」
「あら!なぜ彼を知ってるの?」
「秘密」
「貴方の妙な色気の原因はアントニー君ね」
「よくわかるわね」
「あんた、もろわかりよ」
「無実だからすぐに出してもらうわ。ごめん。今から帰るね」
「はいはい、がんばって!」
「お父様!彼は無実です。あれはガラワル・ユルイノ男爵が私を売春宿に売ろうとしたのを止めただけです。それに彼は私の婚約者です。お父様の力でなんとかしてください」
「そうしてやりたいが、証人がいるんだ」
「誰ですか」
「ガラワル・ユルイノ男爵の子のジャン・ユルイノだ」
「彼はいなかったですよ?」
「だが、その証言を事実だとコシギン・ブルーノ宰相補佐官が認めたんだ」
「だったら私が証人となりますから、ここにアントニーと関係者を呼んでください」
「エスティーナ、お前がかわいいから言うのだが、世の中というものは、はいそうですか、とはいかないものだ。そんなことはすぐにはできん」
「お願いします。彼は無実です」
「だが、無理だ。手続きを踏んで、それから物事は始まる。いいな」
「あら、あなた。娘に世の中の仕組みを教えてらっしゃるのですね。いいことですよ。だったら最後まで教えなければね。あなたなら臨時法廷くらい開けるでしょ。あなたが嫌なら私が開いてもいいのですよ」
「わかった。30分後に臨時法廷を開こう」
お母様はお父様の顔が腫れていると言ってたけど、そんなものではなかった。右目の下は青痣で鼻も少し曲がってるいるような気がする。唇も切れているし、お父様に暴力を振るって罪にならない人ってこの国にいるの?
~30分後~
私は学生服のまま傍聴席にいる。こんな重要案件なのに傍聴人は他にはいないの?
いた!馬車に乗せてくれた老婆が手を振ってる。
結局傍聴人は私と一緒に旅をした老婆だ。
臨時最高裁判官となったお父様が宣言する。
「これより、ガラワル・ユルイノ男爵と従者に対する殴打事件について審議する。臨時検察官のコシギン・ブルーノ公爵は今回の証人に事実確認をするように」
「ではジャン・ユルイノ君に証言をしてもらいましょう」
「確かに私の目の前でそこにいるアントニー・ハッカネンが父とその従者を殴っていました。ホテルの人たちも見てます」
「弁護人何か反論ありますか?」
裁判長は弁護人のドッテラ宰相に訪ねた。
「いいえ、確かにホテルの人達もそのように答えておりました」
臨時弁護人のドッテラ宰相はお母様が指名した。
「では、もう決まりですな。アントニー・ハッカネンに3年間の懲役を要求します」
検察官のコシギン公爵は勝ち誇ったようにニマリと笑った。
「ではアントニー・ハッカネンを懲役3年の刑に……」
「おーーーい!裁判長は、被告人の言い分を聞きなさいよ!!」
お婆さんが傍聴席から裁判長にクレームを言っている。確か傍聴人は静かにしてないといけないのでは?
「いやまだ決まっていない。アントニー君の話も聞きたい。コシギン・ブルーノ検察官それでいいよな」
「まあいいでしょう。アントニー被告を連れてきましょう」
「アントニー君に聞きたいのだが、ガラワル・ユルイノ男爵と従者を殴打したのかな」
「はい、それはミリア・ロレンヌという女性を売春宿に無理矢理連れていこうとしたからです」
「その女性はどこにいるのかな?」
「今授業中ですから貴族学校にいるはずです」
「ふぁっはは!!そんな人間はおらぬわ。ここに生徒名簿があるがミリア・ロレンヌなどおらんぞ。裁判長!この男は虚言癖があるようですな。さらに2年追加で投獄を要求します」
「アントニー君、確かに生徒名簿にミリア・ロレンヌという女性はいないぞ。虚言と言われても仕方ない」
「彼女は僕の婚約者だ。嘘をつくはずはない」
「それは証拠にはならないな。もうこれ以上証拠も出ないようなので結審する。アントニー・ハッカネンを禁錮5年……」
お婆さんが許されるなら、私だって。
「裁判長、待って!!!」
「傍聴人がむやみに裁判に口を出すものではない」
「あら、お婆さんはよくて私は駄目なの?」
「わかった。それで何かな?」
「お父様酷いじゃないのよ。私が証明します」
「君はミリア・ロレンヌではないだろう?」
「そうだけど。偽名を使っていたのよ、証人として認めて!!」
「それはできない。これで閉廷する」
「ちょっと待ちなーーー!!」
老婆が立ち上がって叫んだ。
「裁判長、さっきから聞いてりゃ、あんたやる気あるのか?引きずり下ろすよ。実家に帰ってただの人になる?あんたの代わりはいくらでもいるんだよ!」
(お、お婆さん、そんなこと言ったら、ここには憲兵隊員も数十人いるのよ。連れて行かれるわよ)
どうしたの?誰も老婆を止めようとしないわ。
「わかった。わかりました!認めよう」
裁判長はお婆さんの言い分をあっさりと認めた。
「では、証人はそのときのことを話してください」
「はい。ねえドッテラ宰相!ガラワル・ユルイノ男爵を連れてきてくれない?」
「もうそこにいますよ。拷顔が変形して気づきませんでしたかな?」
「あら!ほんとう。お顔がだいなしね。でもこんなになるまで拷問しては法に反すると思うよ」
ドッテラが『くすっ』と笑って応えた。
「それは拷問ではありません。家族の復讐ですよ。彼は捕まえたらすぐにペラペラ喋りましたよ。ですがあの方を怒らせたようで、1時間近く殴られてましたよ。
彼の供述はすでにとってありますが、ここで供述してもらいましょう」
ガラワル・ユルイノ男爵は今回のことがコシギン公爵の命令だったことを供述した。
ガラワルが供述する間に憲兵達がジャンを囲んでいた。その中をお婆さんが入っていった。ときどき『ウッ』とか『ギェ』とか聞こえるけど誰も何もなかったように知らない顔をしている。
「それではもう一度ジャン・ユルイノの証言を求めます」
裁判長はジャンをもう一度呼んだ。
ジャンの姿が変わり果てていた。何者かに殴られているようで口が切れて腫れていた。
「ジャン君は口をきけないようなので、弁護人は供述書を読み上げなさい」
「はい、では読みます『私、ジャン・ユルイノは供述書の内容が真実であることを認めます。私は父が殴られる現場に居合わせていませんでした。私はコシギン・ブルーノ公爵から頼まれてミリア・ロレンヌを連れだして婚約をし、誕生日の前々日に婚約を破棄するよう命令をされました。目的はミリア・ロレンヌが満16歳になるまで婚約相手を決めさせないためです。』
「ふむ、では、そのミリア・ロレンヌとは誰かな?口がきけないみたいだから指し示してくれないか?」
ジャンは私を指さした。
裁判長は私の顔を見て、
「エスティーナ、どういうことかな?」
「裁判長!私がミリア・ロレンヌです。偽名を使ってました。でもこれで私がミリア・ロレンヌと証明できましたね」
「裁判長!」
「検察官、何ですかな」
「どれもこれも証言や供述のみで信憑性がありません。エスティーナ様がミリア・ロレンヌという証拠書類もありません。裁判では認められません」
「そうだな。儂もそう思う。ではこれで閉廷とする」
「こらーーー!!今度やってみろ。顔だけで済むと思うな。玉潰してたたき出すぞ!!」
(おお、お婆さん、そんなこと言ったら絞首刑になるよ!!)
ああ!憲兵隊長が老婆のところに行った。
あれ?老婆が憲兵隊長とひそひそ話している。
憲兵が裁判長のところまで行って両腕を抱えた。
裁判長が叫んだ。
「まじめにやります。もう一度チャンスをください」
老婆がまた憲兵隊長を呼んでひそひそ話している。
裁判長を抱えていた憲兵が裁判長を離した。
私は知らなかった。お父様の身分であっても憲兵に連れていかれるんだ。
「審議を再開する。閉廷はしない。証拠は十分だと思うがのう」
「エスティーナ様は我が息子の婚約者ですぞ。義父となる私を無罪で投獄するようなことになってもいいのですかな?ご自身の名声に傷が付きませんか?」
「裁判長!私の婚約者はアントニー・ハッカネンです。ここに婚約指輪があります。これを買ったのは誕生日の前々日です。だからまだ満16歳になっていませんでした」
「ふぁっはは、その夜店で買った指輪など婚約の証拠となりません。本当は誕生日の前日かもしれませんぞ。それであれば満16歳になっている。まあどちらにしても夜店の指輪は婚約した証拠として採用できない」
「そう言うと思ったわ。だから弁護人!証拠を見せなさい!」
「はい、証拠書面2号、婚約契約書です。ここに確定日付があります。エスティーナ様の誕生日の前々日となっています。署名もミリア・ロレンヌことエスティーナ・クロードで記載してありますね。これは婚約された証拠として十分です」
老婆が私の横に座り、手紙を渡してきた。
『国王殺人未遂事件について審議をするように申し出てください』と書いてある。
「お父様!あ、裁判長!この場を借りて国王殺人未遂事件の審議をしてほしいのですが?」
「国王殺人?」
「この国の根幹を脅かす事件です」
お父様!私が言ったのよ。なんで老婆の方を見るの!!
「それならば儂の権限で認める。始めよ!」
裁判長は老婆の方をチラチラ見ては進行している。
「ドッテラ宰相が検察官でいいのかな?」
「はい、いいですよ。指名を受けています。コシギン・ブルーノ公爵を国王殺人未遂事件の首謀者として告発します」
「では、コシギン・ブルーノ公爵を被告席に移動させたまえ」
コシギンはすでに憲兵から後ろ手に縄をかけられ被告席に立たされた。
「ではコシギン被告の審議をする。検察官は証拠の提示と罪状を述べなさい」
裁判長がはっきりと言うようになった。老婆の方もみていない。お父様やる気になったのね。でも、ときどき下を向いている。
裁判長は『カンペ』を見ていた。
さっき宰相と握手したのは『カンペ』をもらったのね。
「はい、罪状は国王殺人未遂と公爵2名、侯爵3名、伯爵12名殺害です。証拠はここにある偽桃の実です。解毒薬と一緒コシギン邸にありました。コシギン被告は邪魔者をこれで殺害していたようです。国王も殺害される予定でしたが、コシギンの息子がエスティーナ様と結婚を望んだので命を救われました。本来はコシギンがクーデターを起こして国王になるつもりのようでした。他にも従者の証言は腐るほどあります」
「コシギン反論はないな。明日コシギン・ブルーノ元公爵の公開処刑を行う。連れていけ!コシギン公爵家は断絶させる。領地は王家が引き取る」
お父様、がんばったね。『カンペ』も読んでなかったわ。
老婆が拍手をしているから、見てみれば……。
憲兵隊長が紙に大きく指示を書いて掲げていた。
それには……『コシギン反論はないな。明日コシギン・ブルーノ元公爵の公開処刑を行う。連れていけ!コシギン公爵家は断絶させる。領地は王家が引き取る』と書いてあった。
あれから1年経って、私とアントニーはコシギン元公爵領に住んでいる。コシギンは悪政を敷いていたのでアントニーの力量をみるために派遣された。アントニーは感心するくらい治領にすぐれていた。一揆が起こる寸前だったが、アントニーが商人の不正在庫を放出させてからは落ち着いた。彼には国王になってもらう。父も入り婿で国王になった。実権はお母様がもっている。私はお母様とは違うからアントニーをたてていきます。老婆も『それでいいですよ』と言ってくれた。時代がかわればやり方も変わるからね。
「あら!もう授乳の時間だわ」
今日はあの老婆が子供のおもりをしにきてくれる。
老婆とはお友達になった。
ときどき下町に連れ出して世間のことを教えてくれる。
そして今は変装の教育を受けている。声は訓練でいくらでも変えられるようだ。
彼女の正体はお婆さんではなかった。あの手紙を届けてくれた支配人だった。なんでも王妃、つまりお母様の妹らしい。お母様に妹がいるなど聞いたことがなかったから、お母様に聞いたら「あら言ってなかったかしら?秘密にしていたからね」
と簡単に白状した。
二人とも顔は似てないけど手のホクロの位置が一緒だ。さすが姉妹ね。
「Fin」
最後まで見ていただきありがとうございました。
よろしければ評価をいただけますと励みになります。