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 朝食は軽めにハムエッグとパンとオレンジジュースのセットにした。アントニー・ハッカネンさんも同じものだ。でもしょうがない。ここの朝食はこれしかないのよ。

 昨日の私はどうかしていた。だから『私の好きな男性のタイプや好みの食べ物、それに得意な科目などを当ててみて?』とからかったのだけど、全部当てたのよ。もしかして彼と赤い糸で繋がっているのかしら?ちなみに彼のタイプは私だった。食事がおいしい。


 そんなとき、私たちの前に見るからに悪そうな男が現れた。


「ここにミリア・ロレンヌはいるか!!」

「そんな知らないような言い方しなくても目の前にいるじゃないのよ。わかってるのでしょ」

「一応お決まりだ。お前がミリア・ロレンヌだな。よくも息子を騙してくれたな。弁償金をもらう。お前は伯爵でもなんでもないだろ。伯爵を騙すとは大した度胸だ。ここで殺してもいいが、もっといい方法がある。売春宿で金を稼いでもらう。儂と一緒に来い!!」

「痛いわ。引っ張らないでくれない!」

「彼女に勝手に触るな!」

 アントニーが男の手を握った。

「お前はなんだ、関係のない者が口を出すな!!」

「昨日から関係者だ」

「なに訳分からんことを言っている!!儂をガラワル・ユルイノ男爵と知って逆らうのか?!」

「男爵程度で僕に喧嘩を売るのかい?」

「なんだと!」

「僕はハッカネン辺境伯の七男だけど、身分だけで言うならあなたより上ですよ。うちと戦争でもしますか?」

「たかだか七男だ。構わんやれーーー!」


 男達は剣を抜いていた。10人近くがアントニーにかかってきたが、アントニーは強かった。素手だけであっという間に倒した。残ったのはガラワルだけだったがカウンターパンチ一発でダウンした。全員に水を掛けて起こすと、ガラワル・ユルイノ男爵は怖い顔をして

『憶えてやがれ。お前程度、俺はコシギン・ブルーノ公爵と知り合いだからな。辺境伯程度が後悔するがいい』と後ずさりしながら逃げていった。


「『ガラワルーーーありがとう!!』私初めて聞いたわ。逃げながら叫ぶ悪党の決まり文句が聞けて感激だわ!」


「君は自然に喧嘩を売るね」

「あら、本当のことを言ってなにが悪いの?」

「コシギン・ブルーノ公爵かあ~。やっかいな人物だなあ。まあなんとかなるだろう」


 王都までは貧民街などを訪問しなかったので1週間かからなかった。行くときは老婆と一緒だったから精神的には疲れた。今は毎晩ここちよい疲れがある。


「ねえ、あなたは決まった人はいるの?」

「ははは、辺境伯の七男には貴族学校の者は誰も寄りつかないよ」

「だったら、私と婚約しない!」

「突然だね」

(驚いた。僕から婚約の申込みをするつもりだったのだが。これでなんとか廃領は免れることができそうだ)


「そうなの。実は16歳になるまで自分で相手を見つけないと親に決められてしまうから、早く見つけたかったのよ。私たちはそういうこともしたからいいでしょ?」

「いいですけど、僕は七男ですから辺境伯夫人の地位には絶対になれないですよ」

「そんな地位なんていらないわ」

「そう。だったらいいよ。決まった人はいないし、何かの縁だね」

「だったら婚約指輪をちょうだい」

「僕は七男なのであまりお金を持ってないから夜店の指輪程度でよければ今すぐにでも買うけど?」

「それでいいわ」


 本当に夜店で指輪を買った。こんな安物見たことがないわ。石もただの瑪瑙でできたものだけど一応指輪だから許すわ。ふふ、でも本当は嬉しかったわ。だって夜店に来たのも初めてだったし、一緒に買い物したことなどなかったもの。高額な指輪なんてお家にゴロゴロあるから必要ないしね。これで『婚約成立』ね。明後日が16歳だから間に合ったわ。


 これでお父様から婿取りを押しつけられることはない。だってコシギン・ブルーノ公爵の子が相手よ。嫌に決まってるわ。言いたくはないけどあれはないわ。いくら容姿で決めるものではないといっても『チビ、デブ、ハゲ、油ギトギト、45歳』ありえないわ。


「もしアントニーと婚約しなかったらコシギン・ブルーノ公爵の子が婚約相手となっていたわ。よかった」

「君の父上はなぜコシギン・ブルーノ公爵の子を婚約相手とすることになったんだろうか」

「私もあんな黒い噂のある相手の子をなぜ婚約相手とするのか聞いたのよ。でもなんか変な話なのよ」


『1年前のことよ。お父様がコシギン・ブルーノ公爵邸の主宰するパーティーに招かれたのだけど、そこで体中に青い斑点が出来て倒れてしまったのよ。黒魔術の呪いにかかっていたようで、ちょうどコシギン・ブルーノが黒魔術解除の妙薬をもっていたから助かったのよ。そのときに助けられた褒美として私が成人する16歳になったらコシギン・ブルーノの子と結婚するように約束させられたのよ。私も抵抗して自分で相手をみつけたらコシギン・ブルーノの子と結婚しなくていいことになったわ。それからは一生懸命相手を探したのよ。でもいつもいいところで黒魔術の呪いで父と同じように体中に青い斑点ができて相手が死ぬのよ。それからは誰も私に近づかなくなったわ。

 そんなときにジャン・ユルイノに出会ったの。あのときの私は焦ってたのよ』


「一つ聞いていいかい?」

「もう婚約者だからなんでも聞いてちょうだい」

「その青い斑点を治した妙薬だけど『黄色と赤の混ざった朝顔の種』のようなものではなかったかい?」

「よくわかるわね。そのとおりよ」

「やっぱり。それは黒魔術の呪いではないよ。もしかしてパーティーは12月頃ではなかったかい」

「なぜわかるの?」

「季節外れの桃が出なかったかい?」

「すごいわね。あなた、透視能力があるの?」

「違うよ。あれは偽桃といってハッカネン辺境伯領で極寒の時期にしか生らない実だ。普通はお尻のように一つしか割れてないが偽桃は4つに割れてる。見た目ですぐに判断できるが皮を剥いてしまうとまったく区別つかない。ただ甘すぎるのでハッカネン辺境伯領の者はすぐにわかるんだけどね。解毒方法は偽桃の種を割ると中から『黄色と赤の混ざった朝顔の種のようなもの』があるから、それを飲めば解毒できるよ」

「ということは、お父様は偽桃を食べさせられたの?」

「そうだと思うよ。きっとコシギン・ブルーノの自作自演だろうね。急いで公証人役場に行くよ」

「何しに?」

「証拠作りだよ」



 お家に帰ってきた。両親からは雷が落とされた。特にお父様からは

「コシギン・ブルーノ公爵からクレームが来たぞ。それに男爵の子と一緒だったらしいな。子供ができるようなことはしてないだろうな」

「彼とは誓って何もありません」

「そうか。それならいい。うんうん」

「あ、そうだ。お父様!婚約者を見つけてきましたわ。だからコシギン・ブルーノ公爵の子とは結婚しないですわ」

「なんだと!どこの馬の骨だ!確かにコシギン・ブルーノ公爵の子は気持ち悪いから賛成したいやつではないとは思っていた。だがやつには恩義がある。勝手に決めてくるな!!」

「自分でみつけてきたらいいと言ったでしょ」

「それは言葉の綾だ」

「お父様がコシギン・ブルーノを宰相補佐官に任命したのもそのせいよね」

「ああ、やつは宰相にしてくれと言ったのだが、あまりいい噂を聞かないから補佐官で決着したが、見返りとしてお前が16歳になるまでに相手が見つけられなかったらやつの子と結婚することになった」

「見つけてきたからいいのでは?」

「結婚相手は公爵家からしか許さん」

「お父様は公爵家ではなかったでしょ?」

「それは……だが身分相応というものがある」


 お父様は、ああ言ったが私は絶対にコシギンの子なんて嫌だ。明日お母様に相談しよう。


「あの~お母様、相談があるのですが?」

「何の用ですか?」

「私の婚約者の件なんだけど、昨日お父様が私の選んだ人とは結婚させない。コシギンの子と結婚しろと言われたのです。公爵家ではないと身分が合わないと言われました。でも私は嫌です。辺境伯の七男でアントニー・ハッカネンというのですが、とてもいい子なんです。それにもう夜明けのコーヒーを飲んでしまいました」

「心配しなくていいですよ。その件はすべて片付いています。安心しなさい」

「ありがとう。やっぱりお母様が一番だわ」

「そうでしょう。そうでしょう。確か身分がどうのこうの言ってたわね。のら犬のように捨てられていたのを私の母様に拾ってもらったことを忘れているようね」

「お父様は?」

「あの人は氷で顔を冷やしてるわ。昨日誰かに両頬を殴られたみたいよ」


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