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 先程の支配人が馬を用意してくれていた。

「気の利く支配人ね。あなた!私のところに来ない?メイドにしてあげるわよ。私があなたに一から貴族のことを教えてあげるわ」


 支配人は『フッ』と相手を馬鹿にした笑いとも呆れともみえる表情をした。そして小さな声で『1週間あれほど教えたのにまだ分かってないわ』


 ホテルを出て急いでユルイノ男爵邸に馬を走らせた。


「あら、バリケードに札がかけてあるわ」


『ミリアへ

 これより先に入ることを禁ずる。

 もし入った場合、命の保証はしない』


 まあ!きっと冗談よね!

「この程度のバリケードは馬で一つ飛びよ」


 一度下がって馬を走らせようとしたら矢が数十本飛んできた。まだバリケードは超えてないわよ。

 バリケードには矢が突き刺さっている。

 本気のようだ。

 私は世界で一番不幸だわ。

 ここまで来るのに月明かりだけの森を抜けて来たのだけど全く怖くなかった。だけど帰り道の森はとても怖い。


 馬にしがみつき走らせる。早くホテルに戻りたい。

「ガサッ」

「キャーーーー」

 何何?オオカミ?

 怖い。早く森を抜けたい。行くときはとても早かったのに!

「カサカサ」

「キャーーーー」


 風になびく葉がこすれる音だった。

 もうだめ。精神的に耐えられない。

 とうとう火の玉が前方に現れた。


「ギャーーーーー!!!」


「大丈夫ですかー?」

 私に向かって馬を走らせた人が声をかけてくれた。

「誰?」

「ホテルの支配人から頼まれてあなたを追いかけてきました」

「あ~よかった」

「ホテルまで送ります」

「はい、ありがとうございます」


 助かった。顔ははっきり見えないが、若いように感じる。もう誰でもいい。側にいてくれるだけで怖さがまぎれる。

 彼が一緒のせいかわりと早く森を抜けることができた。


「ありがとうございます。怖かったのでとても助かりました」

「気にしないでください。ただの旅行者です。暇を持て余していましたからいい余興になりました。まあ嘘をつくのはよくないですが、手紙一枚で婚約破棄をするのはよくないですよね」

「あの~どうしてそれを知ってるのですか」

「ホテルの者は皆知ってますよ」

「誰から聞いたのですか?」

「あなたが、大声で『婚約破棄されたーーー!!』と叫んで手紙をそのまま捨てるからですよ。みんなで手紙を読んだのですが、ホテルの支配人がユルイノ男爵の二男は顔がいいだけで金と地位にしか興味がなくて、平気で平民をいたぶると言ってましたから、あなたのことが心配になりました」


「え!私にはとても優しかったですよ」

「ははは、それは、あなたが騙されてたのです。ジゴロの常套(じょうとう)手段ですよ」


 傷の上からカラシを塗られたような気分だわ。


「彼に比べたらあなたの嘘などかわいいものですよ」


 恥ずかしい。穴があったら入りたい。


「今、穴があったら入りたいと思いましたか?あそこに熊の穴ぐらがありますよ。入りますか?」

「意地悪言わないでください」

「はは、元気でましたね」


 森からホテルまで馬でのんびりと帰ってきたのにとても短じかく感じた。

 灯りの元に行くと彼の顔がはっきりと見えた。

 美男子だった。歳は15歳前後だ。落ち着いていたから20歳ぐらいと思っていた。


「お礼をしたいのですが?」

「お礼など不要ですよ」

「いいえ、どうしてもしたいのです」

「では、一緒にお食事でもどうでしょう?」

「そうですね。気づきませんでしたわ。お腹が空きました!」


 レストランで食事をすることにした。周りのお客さんが私の方を気にしている。言いたいことはわかる。あの顔は私を心配している顔だわ。


「自己紹介をしていませんでしたね。私はアントニー・ハッカネンといいます。ハッカネン辺境伯の七男です。跡取りとは全く縁のない者ですよ。だから無理して嘘をつかなくていいですよ」

「はい、私も自己紹介しないといけませんね」

「いいえ、いいですよ。手紙を見てますから、あなたのことをこのホテルの全員が知ってます」


 本当のことを言おうと思ったら止められた。あの手紙の私の名前は偽名なんだけど……。

 食事が終わるころにアントニーさんが質問をした。

「あなたは私とそう変わらない年頃のようですがこれからどうされるのですか?」

「はい、両親に内緒で飛び出しましたから、親元に戻って貴族学校に行きます」

「ジャン・ユルイノとはどこで知り合ったのですか?」

「1週間前に学校帰りに門の前で迎えを待ってましたら一度に春が来たような事を言っていただけました」

「もしかして、たったそれだけで結婚しようと思ったのですか?」

「ええ、これまで私に近づく殿方がいませんでした。でも警戒したのですよ。だから伯爵の子と言って嘘をつきました。でもそれでもいいと言っていただいたので、結婚する気になりました」

「それって、単にナンパに引っかかったんですね。失礼ですが肉体関係までいきましたか?」

「はい、無理矢理手を握られました」

「あの~それって、もしかしてジャン・ユルイノのことは愛していないのですか?」

「愛?もちろんそれはないです。でも彼のことは好きでしたよ。私を褒めてくれますもの。あのときは赤い糸が見えたのです」

「は~、あなたはこれまで見た人の中で一番バカだ」

「私のことをバカと言う人がバカです」


「お二人ともよろしかったらお店からサービスです」

 支配人がお店からのサービスといってドリンクをサービスしてくれた。これまで飲んだことない甘美な味だった。


「まあ、いいでしょう。それだけ元気になればもう安心だ。早くお家に帰った方がいい。ご両親が心配されてますよ」

「はい。内緒で黙って出てきましたから、明日にでも帰ります」

「同じ方向であれば送るのですが、私は王都の貴族学校に通ってますから無理ですね」

「え~そうなんですか。私も貴族学校に通ってますよ」

「お見かけしなかったですね」

「嘘はついてませんよ!公務が忙しくて最近はあまり行けてないのです。一応授業の内容は家庭教師がやってくれますからいいのですが友達に会えないのが辛いです」

「では一緒に戻りましょうか?供の人もいないようですし、安全面が心配です」

「いいのですか!よかった。お婆さんもいないし、一人でどうやって帰ろうかと思ってました」

「いいですよ。では明日朝ここで朝食をとってから出ましょう」


 部屋の戻ろうとしたら頭がふらふらした。お酒を飲んでないのに、酔ったような感じがする。それに体が火照る。『暑い』

 アントニーが部屋まで送ってくれることになった。でも足元がふらついてしまい、部屋の中まではいってもらったわ。どんどん体が火照(ほて)って私の意思に反して我慢できなくなってしまったの。アントニーに抱きついてしまった。それからは流れに任せてしまい朝のコーヒーは一緒に飲むことになったわ。こんなおいしいコーヒーは飲んだことない。し・あ・わ・せ。


 ◆上司と部下◆

 僕の上司は鬼軍曹だ。僕の名はアントニー・ハッカネン、王妃直属の秘密機関で働いている。鬼軍曹は王妃だ。僕はしがない辺境伯の七男だったのだけど、なぜか王妃に気に入られた。そして貴族の不正を暴く秘密機関に無理矢理入れられた。誓約書には『一生涯王妃の命令には逆らいません。逆らえば一族路頭すべて斬首されても文句を言いません』

「次の王妃にもですか?」

「当然よ!!」


 僕は一生王妃の犬となることを誓わされた。


「心配しなくてもいいわ。国王もあなたと同じ私の犬よ。代わりはいくらでもいるわ」

「?」

「まあいいわ。とにかくある子の監視をしてほしいのよ。それからその子に求婚しなさい」

「会ったことのない子に求婚するのですか?」

「そうよ。ミリア・ロレンヌと名乗っているわ。いいこと期限はその子の16歳の誕生日の前々日よ。婚約契約書も交わしなさい。もししくじったら辺境伯領は消えてなくなると思いなさい」


◆支配人とアントニー◆

「早くあの子を追いかけなさい」

「やはり行かなければなりませんか?」

「当たり前じゃないの。あの子に傷一つ付いたら、あなたの帰る領地はないわよ」


 彼女の僕を見る目は鬼軍曹とそっくりだ。さすが姉妹だ。


「いいこと、連れて帰ったら食事にしなさい。私が媚薬を入れておくから部屋まで送りなさい。これは初代様から続く儀式だから楽しみなさい。自然とそういうことになるわ。あの子の食事はこの1週間私と一緒だったから女の子を生むための食事にしてあるわ。体が動けなくなるまでがんばりなさい。あなたも私の馬車を護衛していたから同じものを食べたでしょ。国の安定のためには次の次の王妃候補を作らないとね。この国では国王はただのおかざりよ。国名だって国王の名ではなく、初代王妃の名前だからね」



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