断頭台の悪女
◇◇◇
ただ、愛されたいと願っただけだった。
欲しいものを欲しいと願っただけ。そのために手段を選ばなかっただけ。だって私には、自分の身以外何ひとつ、愛しい人に与えられるものなど持ってはいなかったから。
それが罪だと言うのなら、確かに私は罪を犯したのだろう。
「この卑しい毒婦めっ!聡明なる皇帝陛下を誑かし、国を混乱に陥れた罪は重い。その罪、万死に値する!」
ひときわ高い貴賓席から私を見下ろすのは、高貴なるあの人の妃。隣国の第一王女であるアナスタシア様。憎しみに燃える瞳が早く私の目の前から消えろと叫んでいるようだ。知っていた。あの方もまた、あの人を愛していることを。そうでなければ、これほどまでに私を憎むこともなかっただろう。
無邪気で愛らしかったアナスタシア様を変えてしまったのは、ほかでもない、皇帝陛下の愛妾である私だ。陛下との婚姻後も毎夜陛下の寝室に侍る私を、どのような想いで見ていたことだろう。
誰もかれもが、私を憎む。
当然だ。アナスタシア様は隣国の王が溺愛する愛娘。娘に対する皇帝陛下の仕打ちを許すわけがなかった。私の処刑は、隣国からの要請によるものだ。愛する娘からの嘆願に、隣国の王は即刻私を処刑しなければ戦争も辞さないという書簡を送ってきた。もしこのまま武力に秀でた隣国と戦争になってしまえば、この小さな国に勝ち目はない。
私は自らの足で断頭台に上ることを望んだ。あの方は怒るだろうか。失望するだろうか。最後の夜、閨の中で私は陛下に毒を盛った。命を奪う類の毒ではない。けれども、三日三晩目覚めることなく眠り続ける毒だ。次に目覚めたとき、あの方は私の記憶をすっかり失っていることだろう。
何も持たない私は、我が身一つであなたへの愛を示す。
刑場に響き渡る音。今、ひとつの生が終わる。
今回の人生は、なかなか悪くなかった。だって、素敵な恋ができたもの。後悔なんてしないわ。
それにしても、魔女の最後は火あぶりと相場が決まっているのに。例え断頭台で首を落としても、私の心臓は止まることはないだろう。私の意志で止めるまで。
傾国の美女、稀代の毒婦。歴史に名を刻むことなく男たちに愛される私は、そのたびにただひとつの恋に生きる。
古くなった器を捨てて、新しい器に魂を移す。
さあ、次はどんな人生を送ろうかしら。
おしまい
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