王さまと魔法のジープ
お子様用に漢字にはルビをつけています。
晩ごはんを食べたあと、ごちそうさまをしたユメちゃん。
ちゃんと歯をみがいて眠る準備が出来ると、お母さんがご本を読んでくれます。
ユメちゃんはお母さんの聞かせてくれるお話しが大好きなのです。
きょうはお手伝いをいっぱい頑張ったから、ユメちゃんがお気にいりの王さまと魔法の国のお話しです。
だから急いでおふとんに入って、目をつぶる必要かありました。
魔法の国へは夢の世界に行かないと、お話しを聞くことが出来ないからです。
◯。 。◯ ◯。 。◯ ◯。 。◯
「へ〜ィ、ユメちゃん。大人しくおふとんで眠って来たようだね」
やって来たのは、とても元気で陽気な王さま。
ギザギザの金ピカ王冠に、まんまるのお顔から、真っ白いおヒゲを生やしてる。
「こんばんわ、王さま。きょうはどこへ連れて行ってくれるの?」
ユメちゃんの目は期待に満ちて、キラッキラです。
「きょうは十年に一度しか見られない、とっておきを見せてやろう。さぁ乗りたまえ、ユメちゃん」
王さまは、乗って来た乗り物のドアを開け、ユメちゃんをクッションと背もたれのあるイスに座らせてくれた。
「王さま、この乗り物は何ていうの?」
「はっはは〜こいつは魔法のジープさ。シープじゃないぞぉ、ジープだぞ」
ニヤリッ────っとユメちゃんの反応を待つ王さま。決めゼリフがユメちゃんに伝わらずガックリします。
でもそこは王さま。何事もなかったようにジープに乗りユメちゃんの隣へ座ります。
「いよぉ〜っし、出発するぞぉ──────!」
テンション──アゲッ♪ア〜ゲッ♪やっほほ〜────♪
王さまが機嫌よく、大きな声で歌いだします。
ヤッホホ〜──ヤッホホ〜〜♪
ユメちゃんも楽しくなっていっしょに歌います。
「そぉれ、こっから星屑通りをゆくぞ。ユメちゃん、揺れるから、しっかりつかまってな」
流れ星が砕けて出来たデコボコ道もジープなら転ばずに走ってゆけます。
お母さんが来た頃は、お馬さんの馬車で、大変だったみたい。
────揺れるジープの中でユメちゃんはウトウトしかける。
「ユメちゃん、もう少しだからガンバレ!」
魔法の国は夢の世界にあるので、眠ってしまうと元の世界へと戻ってしまいます。
「……ユメ、ガンバる!!」
「そうだ、その意気だ!」
ユメちゃんはお母さんと約束していたのです。
◇
────夢の世界の魔法の国では、新しい年を迎えた日の夜にしか見ることの出来ない景色があるそうよ。
お母さんはまだ見たことがないから、ユメちゃんが見ることが出来たら教えてね────。
◇
「よぉ〜しユメちゃん、よくガンバった。あとはあの大巨人岩を登るだけだ」
王さまの指を差す方向には、いまにも動き出しそうな山のように大きな岩がありました。
「こわくても目をつぶっちゃダメだぞ、ユメちゃん」
そうユメちゃんに注意をすると、王さまはジープのスピードを目一杯にあげます。
目の前に大きな岩がせまり、ユメちゃんはぶつかるッ! と思いました。
「ふぅ〜〜んぬゥ!!」
王さまが気合いの雄叫びをあげると、ジープは大巨人岩をスルスルと登っていき、あっという間に頭のてっぺんまで到着しました。
「ほらユメちゃん、お空を見てごらん」
王さまに教られるままに、ユメちゃんはジープからおりて上を向きました。
ユメちゃんのいた世界は夜でしたが、魔法の国は青空が広がっています。
────あれっ!?
ユメちゃんは驚ろきました。お空は明るいのにお日様が透けて見えないのです。
そして大きな雲が龍のように、お空の端っこから泳いできて、お空を二つに割ったのです。
「……お空に海がある!!」
龍の通った道には、お空より色濃い海の道が広がっていきました。
まるで鏡のように、大空には海と島々が浮かびあがったのです。
「どうだいユメちゃん。あれはこの世界と同じ世界なんだぞ」
お日様を中心に龍が大きな輪をつくるように、ひとつに繋がっている世界。
ユメちゃんは言葉を忘れ、お空に浮かぶ世界を眺め続ける。
────お日様が輝きを取り戻し眩しい光を放ちます。
王さまはユメちゃんの目を手でふさぎました。
「さぁ、きょうはここまでのようだ。戻ったらお母さんにいっぱい話してあげたまえ」
……残念ながら時間切れのようです。
もっと眺めていたかったユメちゃんは目を開けようとしますが────
◯。 。◯ ◯。 。◯ ◯。 。◯
目をさますとユメちゃんは自分のおふとんでした。
お母さんはとっくに起きていて、朝ごはんの仕度をしていました。
忙がしいお母さんの邪魔をしたくはありません。
ユメちゃんは王さまと会ったことや魔法のジープに乗ってお歌を歌ったことを忘れないようにお絵描き帳にかきました。
あとでお母さんにいっぱいお話しを聞かせてあげるために……。
──── おしまい ────
お読みいただきありがとうございます。冬の童話祭2024 六作品目となります。
なんとなく初夢と辰年を絡めた、ノリの良い明るい童話が書きたくなりました。
お楽しみいただけると嬉しいです。