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ジェーンのお話(前)

ジェーンの番です。

ゆるっとお読み下さい。

 

 クリストファーからパズルの贈り物を受け取ってから、四年後——


「この小包を、クリストファー・マシューズ様がいらっしゃる騎士団の兵舎まで送り届けて下さいませんか」

 ジェーンは、パズルのピースを木箱に詰め、紙で何重かに包んだ後、メイドの一人に頼んだ。

 彼女は今、人生最大の勇気を振り絞っていたのだった。


 * ~ * ~ *


 小さい頃からいつも一緒にいた、クリストファー・マシューズ。

 その彼から距離を置こうと言われた時、ジェーンは頭から冷水を被った様な気持ちになった。

 口が一才言葉を発せられない状態にまでなってしまった。


 実の所、クリストファーの周りにいる時、ジェーンはいつも何も話せないでいた。

 そして、いつもそんな自分を恥ずかしいと思っていた。


 クリストファーは典型的な「陽キャ」であった。

 明るく、暖かく。いつも笑って、どこに行っても色々な人と親しく話していた。

 家族はもちろん、街にでた時も、様々な人達に声をかけられていた。


 それに代わって、ジェーンは典型的な「陰キャ」であった。

 人と会話をするのが苦手。長い時間社交に励んでいると、必ずと言っていい程その夜は頭痛や眩暈に襲われた。

 一日に最低一、二時間は一人でエネルギーを充電し、その日の出来事について考えないと、次の日は使い物にならない程だった。


 子供の頃からそうだった。


 ジェーンはセンチュリオン子爵家の一人娘でありながら、他の貴族の子供達と一緒に遊ぶのが大の苦手だった。ある意味、子供より大人と時間を過ごす方が気が楽だったかもしれない。

 会話下手で子供の遊びが得意ではないジェーンを、他の子供達は悪意がなくとも仲間外れにしがちだった。


 だが、クリストファーは違った。


 彼は、いつもジェーンの目をしっかりと見て、微笑みかけてくれた。

 彼女の側に座って静かに遊んだり、彼女の為に魔術を使って色々な遊びを考えてくれた。

 そうやって、彼女に色々な世界を見せてくれた。


 ジェーンは、両親がクリストファーとの縁談を考えている事を知っていた。そして、クリストファーの両親も同じ気持ちだと言う事も。

 だが、自分が余りにもクリストファーとは釣り合わないとジェーンは自覚していた。

 絵画の様な容姿を持つクリストファーに代わって、自分は華やかさの「は」の字も持ち合わせていない人間であった。

 少し赤みがかかった鼠色の髪の毛。瞳は黒かとも言える程暗い茶色。

 標準的な背丈のジェーンは、体つきにもメリハリがなかった。

 要するに、クリストファーの隣に立つ資格を持つ女性ではなかったのだ。

 と、そうジェーンは信じていた。


 だが、そんな子供時代を過ごしたジェーンも、やっと自分が自信を持てる唯一の事を見つけた。

 それが、勉強だった。

 余りパッとしなかったが、まぁ、背に腹は代えられない。

 そして自分が勉強すればする程、自分ができる物の範囲が広がって行くのが嬉しく思えた。


 ジェーンは小さい頃から動物の声が聴こえ、理解もできた。

 まだ幼い時も何度か怪我をした鳥や動物の手当てをして、その度に暖かい気持ちが胸に込み上がって来るのを感じた。

(将来はこの力を活かして、何か周りの人達の役に立てる仕事に着きたい)

 ジェーンは自然とそう思う様になって行った。


 だが、勉強や仕事の他に、ジェーンは誰かと恋をする事にも興味を持っていた。

 いくら自分が御伽噺のお姫様ではないと分かっていても、この社会の一員である限り、「恋」については嫌でも聞かされ、「結婚」に関してはもっと干渉されるであろう。

 そんな中、自分がもう既に恋をしている相手がクリストファーだと気づいた時には、もう遅かった。


「・・・嬢」

「はい? クリストファー様、今何か?」

「だから、ジェーン嬢」

「? はい?」


 それはジェーンが十四歳の時だった。家族全員で、広い花畑にピクニックに来ていた時だった。クリストファーとジェーンは、大人達から少し離れた所で、花を摘んでいた。そうしながらも、クリストファーは周りの花たちの花弁を虹色に変え、ジェーンの眼を楽しませていた。

 だが、突然・・・


「その、『ジェーン嬢』だと呼びにくいから・・・『ジェーン』と呼んでもいいかな?」


 クリストファーは、少し頬を染めながら、ジェーンにそう尋ねた。

 その時、ジェーンは何と答えたのか覚えていない。ただ俯いて、小さく頷くのがやっとだった様に思える。


 友達が少ないジェーンのために、わざわざ親しく接してくれる。クリストファーはなんと優しいのだろう。

 ジェーンの心は、はち切れそうなほど喜びで膨らんでいた。


 ジェーンはクリストファーが自分を特別扱いしている等とは、決して思っていなかった。

 ただ、少しでも彼の側にいられたら、とは思っていた。


 そんなクリストファーと接する中で、ジェーンは少しずつ自分が歩みたい方向を決めて行った。

 高等学校は十六歳まで。そこからジェーンは、研究学院に進んで、医学部に入る事に決めた。


 この社会では、医学部に在籍する学生は「人間」、「動物」、そして「魔物」全てについて学び、そしてその上でどの専門分野に進むかを決めるのが方針だった。

 ジェーンは最初の一年目を終えた時点で獣医学に進む為の試験を受ける予定だった。

 未来の事を考えれば考えるほど、ワクワクしていた。

 たとえ少しずつでも、クリストファーと釣りあえる人間になれるかもしれない。

 そう考えていた。


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