004 人間が嫌い
およそ真上からの日差しがビル群の硝子窓のせいでキラキラと眩しい昼時の街。
目の前のファストフードチェーン店のウィンドウに〝私〟の姿が反射する。
真昼でも、夕暮れでも夜でも朝でも、女よりも女らしい。
その身を包むのは、黒を基調とし襟や袖に赤色が走る、キュートさがありながらカッコいい印象の女子学生制服。
男であるオレが女子制服を着ているのは、ジェンダーレス制服制度によるもの。――ジェンダーレス制服制度とは、簡単に言えば、女の子でも男の子の制服を着てもいい、男の子でも女の子の制服を着てもいい、という、いわゆる性的マイノリティに配慮した制度。
それを利用した〝私〟は、傍から見れば誰もが女だと思う。女子高生だと。
いまも目の前、ファストフード店のなか、窓際の席でドリンクを手にする棒人間――昼休憩に訪れて食事をしていたのだろうスーツ姿の会社員――若い男のその手は止まっていてその視線は思わずといったいった様子で〝私〟を見ており。立ち止まった〝私〟を好機と見てか棒人間――午前の授業が終わった大学帰りと思われる――男ふたりが「君、一緒にどう?」「おごるよ?」と声をかけてくる。状況が、事実が、それを物語る。
〝私〟は息を吐き。歩み寄ってきたふたりの男の顎をスカートを翻して振りあげた脚の爪先で打ち抜き。失神し崩れ落ちる男たちを見て目を丸くするウィンドウの向こうの会社員そして制服制帽姿の棒人間――従業員。それらに一瞥もすることなく再び歩きだす。
オレが男と一緒に食事をするわけがない。男も嫌いなんだ。
それに、なにをおごると言われても、オレはそれを食べることができない。
潔癖症。否、潔癖病。
潔癖の性格なんて表現じゃ生温い。患いであり宿痾であり病。
オレは、人のつくった食べ物を食べることができない。
ファストフード店の食べ物だろうが、一流の料理人がつくる三ツ星レストランの料理だろうが、あるいは製造が機械のコンビニ弁当だろうが。
オレは自分でつくった食べ物しか口にすることができない。それは、他人のつくったものを信用できないから。他人の行い、他人を、信じられないから。
製造が機械のコンビニ弁当も食べられないのも、その機械をつくったのは人間だから。その機械を清掃するのは人間だから。人間の手がどこかで触れているから。
言いはじめるとなにも食べられなくなってしまうためある程度は妥協してるが。
人間不信が理由。そしてそれは人間嫌いからきているもの。
口のマスクがそうだ。これはいまも周りを往来する棒人間たち、それらが吐く息を、空気を、直接吸いたくないためにつけている。それは人間が嫌いだから。
人間が嫌いで、その人間の吐く空気を直接吸いたくない――それは、人間が空気を触っていてそれに直接触れたくない、と言え。
つまるところ、オレは人間が触ったものを触りたくない。――オレがまた手袋をしている理由だ。
棒人間――メイド衣装に身を包んだ女が、前を行く棒人間におそらく彼女の働く先のビラを配っている。ひとりの棒人間が足を止め、それを素の手で受け取った。ありえない。
それを横目に通りすぎたオレの目の前、先を歩く棒人間がその隣を歩く棒人間の手を握る。手を握られた棒人間がきゅっと握り返す。ちゃんと見てみれば男女のカップルで、お互いのその手は素手。もっとありえない。
見るだけで吐き気がする……他人が触れたものを触るなんて、ましてや他人の手を肌を直接触るなんて。おえ……気持ち悪い……水、水……。
オレは自販機に歩み寄り。手袋越しにボタンを押し、手袋越しに取りだし口を開けて、手袋越しにペットボトルを手に取る。支払いは手袋の外側に仕込まれたICカードで済ませている。――潔癖病患者は他人が触れた可能性のあるものを触るときは決して手袋を外さない。手袋に仕込まれたICカードはそのためのもの。
この世界には良いところが3つある。
1〝私〟の存在。2基本的には比較的衛生的。3そして水が美味しいこと。
これは正確には、日本に、だろうか。
ドイツの科学力が世界一であるならば、日本の水は世界一だろう。
なかでもオレはいろはす天然水を愛している。
オレは〝私〟を愛している。オレだけは〝私〟を愛している。その〝私〟の次に愛していることから、オレがどれだけ愛しているかわかるだろう。
今日も美味しい。ありがとう。
喉を、精神を潤わせながら。オレは精神の汚染となった原因を、人間を。
目の前の棒人間たちを見る。――棒人間。オレには他人がそう見える。
オレにとって、他人は、人間は、誰も彼もどれもそれも。
塵芥。有象無象でしかない。みんな等しくみんな同じ。
男であろうと女であろうと、顔がイケメンだろうとブサイクだろうと、ファッションがイケてようとダサかろうと、すべて同じ。一緒。
棒の手足にのっぺらぼうの、棒人間。
ちゃんと見なければ、ちゃんと確認しなければ、どんなファッションをしているのか、どんな顔をしているのか、どんな人間なのか、わからない。
いつからか、オレの世界は、オレの見る他人は、そうなっていた。
いまもまたひとりの棒人間がオレの前を通り過ぎていく。ひとりの棒人間が運転した車が前の道路を走っていく。それが右へ左へ、繰り返される。
確かに光景に色はあって、様々なものがある。
だけど、やたら白黒に見えて……色のないように見えて。
それがオレの見ている世界で。
そんな世界のなかで。やはり、口に含む水だけは美味しい。
色のない世界のなかで、無色透明なこの水だけは、味がする。
いろはす大好きです。
七咲逢お嬢と双璧をなすアルティメットかわいい後輩ヒロインですよね。
・芍丹百高等学校
主人公の通う学校。都立。ジェンダーレス制服制度を導入している。
ジェンダーレス制服制度を導入しているがその『意識』は不完全。(全国的にジェンダーレス制服制度が普及されつつあるものの、世間的には未だ『男なのに』『女なのに』のような差別的な意識は取り払われてはいない。芍丹百高校でもそう)
現在芍丹百高校において制度を利用しているのは主人公ともうひとりの2人しかおらず、もうひとりは女子生徒だがスカートが嫌でズボンにしたというもの。ガチな主人公はそれはまぁ浮いている。浮いた。
主人公がこの高校を選んだのは『ジェンダーレス制服制度が導入されている』それと『制服がかわいい』から。……最近だと明日ちゃんが改めてセーラー制服の良さを教えてくれましたが、そう白もいいけど、個人的には黒セーラーが至高なんですよね。最初のイメージではキル〇キルの鮮血制服をイメージしてましたが久しぶりに確認したらトップス版ガーターベルトみたいなへそだしとんでもデザインでたまげた。ブル〇カ正義実現委員会の制服が一番イメージに近いです。襟まで黒なのが好きですね。
高校名は『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』からつまみつまみ。……この言葉大好きなんですけど、この言葉で『UMR!UMR!』って頭のなかが騒ぎだすんですよね。私の悲しきパブロフの犬のひとつ。