世界樹と魔王
世界樹は植えられた 魔王によって 魔王が愛した彼女が愛した丘の上に 墓標とするかのように
世界樹は育った 魔王に見守られながら 数百の年月を重ねて 魔王の悲しむような慈しむような顔を見ながら
世界樹は佇んだ 戦争の音を聞きながら 命の咆哮を聞きながら 民たちの祈りを聞きながら
世界樹は寄り添った 血まみれの魔王を癒すように 静けさを与えて魔王を休ませた 戦争の勝利者の英気を養わせるために
世界樹は見守っていた 魔王の恋路を 少女たちの悲恋を かつてと同じように、これからも同じように 悲恋の結末を知りながら傍観していた それだけが自分の役割であるかのように
世界樹は見ていた 一匹の白鴉が自分の根元に一つの種を植えるのを 魔王も見ていた 世界樹の子だと感じながら
世界樹は育てていた 千に匹敵する年月の果てに咲く花を 魔王が求めている花を これまでの恩に報いるために
世界樹は咲かせた 魔王が千年の間待ち望んでいた花を 死せる彼女を復活させる力を持つ花を 魔王への愛を込めながら
世界樹は祝福した 魔王と彼女の二人を これからの二人の幸せを願いながら 永遠に生きる二人の人生を 魔王が守り、彼女が望んだ楽園、そこに住まうすべての民たちと共にーー
(終)