016 抜け出す者。
こんにちはボンバイエです。
この間まで、よちよち歩きで無邪気な笑顔を見せてくれていたはずなんですけどね。
いつの間にか、ファンキーお姉ちゃんになっているんです。
驚きと共に自分が歳をとっている事を実感させられますね。
朝陽がカーテンの隙間から顔を覗かせ、心地良い風が窓の隙間から入り込む。
清々しい朝・・・のハズが、部屋を見回しうんざりする。
時間もお昼になっているのではないか?と思う。
転がる死体の数は総数4体。
どれもこれも酒という毒によって死体と化している。
「・・・酒臭い。」
僕は鼻を摘まみのそっと起き上がる。
昨日はあれから僕の事をツマミに盛り上がった四人が転がっている訳だ。
つうか、盛り上がり過ぎて僕は逃げれず、そのほとんどの時間をこの四人の介抱に使った。
ここは冒険者ギルド受付嬢であるアーネットさんの家で、一軒家である為にここが選ばれた。
というか、何次会迄すればこの人たちは気が済むのだろうか?
夕食ついでに入ったお店から連れまわされ最終的にこの家に来た訳だが、僕はその間一滴も酒を飲んでいない。
そりゃそうだ。
この世界ではまだまだ大人ではない。
12歳の子供なのだ。
例え中身がオッサンでも。
そう言えば、煙草が喫いたいと思っていた二年前が懐かしい。
今では喫いたいとは思ってないな。
僕は一度背伸びをしてから、部屋を出て洗面台へと向かう。
アーネットさんの家の中はある程度、把握してしまった。
かなり動き回ったからね。
蛇口をひねると冷たい水が出てくる。
冷たい水をバシャリと顔にかけて顔を洗う。
ひんやりした水が気持ち良い。
蛇口から出ている水を止めて、僕は部屋に戻り自分が持って来ていた鞄を拾い肩にかける。
毛布がはだけている死体の毛布を直しつつ玄関へと移動する。
四体の死体は動かない・・・死んでいる様だ。
という感想を持ちつつアーネットさんの家を後にした。
残念ながら、清々しい朝ではなくお昼に近い時間になっていたので街は賑わいを見せている。
行き交う人々は日中という事もあり、ふらふらと歩く人よりも目的を持って歩く人の方が多い様子が伺える。
また道の中央にある歩道ではない車道では馬車が絶えること無く走っている。
街中だからか、ゆっくりとした動きの馬車が多い。
その隙間を縫って人が渡るという感じが何処かで見た様な気がする。
あぁ、あれだ。
歴史映画などで見る事のできる西欧の様子だ。
イイ匂いがする。
香ばしい肉の焼けた匂いとスパイスの香りだろうか?
鼻腔をくすぐる香りとお腹の減り具合がマッチングしてしまったのか、グ~という音がお腹から鳴る。
恥ずかしいと思いつつ、香りの元になる所が何処なのか周辺を見渡した。
僕の眼に飛び込んできたのは牛に豚に鳥が描かれた看板だった。
これは肉が食べれるのだろうと思い、その看板を見ながら車道を越えてお店へと向かう。
お店の扉を開けるとカランコロンとドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」と言いつつ店員さんが寄ってきた。
僕は「はい。」と答えて席に案内してもらい席に着くとメニュー表が渡された。
「何がおススメですか?」
「今の時間ですとおススメは、今日のランチですかね?」
店員さんは僕の横からメニュー表のランチセットを指し示しAとBとCの説明をしてくれた。
「私としては値段もそこそこしますけど、やっぱりCランチセットが良いと思います。」
「じゃあ、それください。後は果汁炭酸水。」
「かしこまりました。」と店員さんは厨房の方へと向かっていった。
ガヤガヤとしている店内は沢山の人で賑わっている。
静かな高級レストランというよりは大勢で騒ぐ庶民的なレストランという感じなのかもしれない。
まぁ、この世界でドレスコードを必要とする場面があるとするならば、貴族が通う店か貴族が催す会での話だろうな。
「お待たせしました。Cセットと果汁炭酸水です。」
「ありがとう。」
少しして僕の眼の前の机には三つの皿と一つの大きなコップが置かれた。
三枚の肉が乗せられた大きな皿とサラダが乗せられた深めな皿とパンが乗せられている平皿に柑橘系の匂いがする炭酸水が入ったジョッキサイズの木のコップだ。
お腹に指示されるがまま僕の手は動き出し、次々と僕の口の中へと入っていく。
三枚のお肉は牛・豚・鳥の三種類だ。
鶏肉はトロトロとしたタレをつけて焼かれている。
豚肉は茹でられた様で白くなっていてソースがかけられている。
牛肉は網目のついた焼き目があり胡椒が使われている。
つまり鳥の照り焼きに煮豚と網焼きステーキだろう。
とにかく旨い。
トーストされたパンに乗せて一緒に食べるとこれまた旨い。
果汁炭酸水は柑橘系を使用しているのだろう酸味が効いておりスッキリするので口の中のリセットに一役かってくれる。
バクバクと目の前に並べられた食事をたいらげていく。
「ふぅ。美味かった!」とついつい独り言を言ってしまった。
その声を聞きつけたのか店員さんが「良かったです。」と僕に向かってニコッと笑顔を向けてくれたのだが、それで初めて声を出していた事に気が付き顔が熱くなるのを感じたが、それも仕方ないと諦めれる程、美味しかった。
支払を済ませて店の外へ出ようとすると、店員さんから「これがメニュー表にもなっていて。」とチラシを渡された。
「店の名前は、【肉のドワル】か?」
「はい。また来てくださいね。」
「ありがとう。また来るよ。」
「お待ちしてます。」とニコニコ笑顔で店員さんが手を振ってお見送りをしてくれたので、『また来よう』と思いつつ僕も手を振り返して店を後にした。
ここは四層目に近い地域だからなのか、周辺も食事処が多くある。
ちなみに、四層目は下町【ミルドメア地区】と呼ばれており、肉体労働者が多いと聞いたので食事処と言っても【肉のドワル】の様に安価で量が多いお店が多いいのではないだろうか。
ちなみに、この三層目の中町【ジルドメア地区】は商業施設などが多くあり比較的富裕層が多いエリアだそうで、ギルドもこのエリアに設置されている。
街とは言ってもかなり大きいので、地区を動く場合は定期便の寄り合い馬車を使う人も居る。
市内バス的な感じだろうか?とても安価に利用出来る様だ。
僕が通う事になっている【パルメア学園】は上町【ガルドメア地区】にある。
上町は二層目で貴族が済む貴族街や兵士達が住む場所や文化的なモノに関する建物が多く存在するという。
僕の今日の予定としては、【パルメア学園】に行く事だ。
予定は未定とよく言っていた人が前世に居たが、僕の予定では昨日には行くハズだった場所。
定期寄り合い馬車で行くか、歩いて行くかで考え、歩いていく事に決めた。
各層を遮る壁の門は基本的にずっと同じ道の上に繋がっているらしい。
利便性を重視した結果だと聞いている。
だから、向こう側にある大きな道を真っすぐ王城に向かえば行けるはずだ。
てくてく歩く。
この世界に来て思う事が一つある。
前世では、直ぐにへばっていたのだが、この世界に来てそこはかなり改善された。
煙草を吸わないからとか、若いからとかあるのだろうが、それだけではない気がしている。
例えば、魔力という別の力が働いているからなのかもしれない。
あとは単純に、歩く事が基本である生活だからなのかもしれない。
とにかく、歩く事が嫌では無いし、例え嫌であったとしても歩くしかないのが現状だ。
まぁ、ザバルティさんみたいに魔法が上達し空を飛べるようになるかもしれないが。
ゆっくりと第二層と第三層目を分ける壁にある大きな門が見えてくる。
あの立派な門の先に僕の新たな生活の拠点になる学園があると思うと何かこう胸に来るものがある。
前世ではそんなことを考える事はなかった。
ただ、エスカレーターのごとく周りの人間と同じように敷かれた上を歩いていたからなのか?
普通に小学・中学・高校・大学と進んでいたからなのか?
卒業する時以外には特に感じる事は無かった学校に新たに行く事が何かワクワクするしやってやると思えてくる。
『アニメの主人公じゃあるまいし。』と思う自分が居るのはたしかだけど、この世界に来て以降、あの前世の日本という国のありがたみを感じる。
もちろん、同じくらいにオカシイ国であったのだと思うのだが。
今は、ありがたみを噛み締めだけにしよう。
当たり前だったモノが当たり前じゃないモノに変わったからこそ、思える事なのだろう。
僕は門番の人に学生証を見せると門番さんは「頑張れよ。」と声をかけてくれた。
そう、僕は頑張って生きる事に決めたのだ。
一生懸命生きてみせる。
「はい。頑張ります!」
「おう。我らが【パルメア学園】はこの門を抜けたら直ぐに見えるはずだ。青い塔が見える筈だからそれを目印に進みな。」
「ありがとうございます。」
僕は門番さんに答えた後、門をくぐるり門を抜ける。
すると門番さんが言っていたように青い塔が見える。
「おぉ~!」
第二層は落ち着いた色合いの景色が広がっていた。
空気まで違うような気がするから不思議だ。
「よし!」
僕は両頬を叩き気合を入れなおし、青い塔へ向けて歩き出したのだった。
ここで、一区切りですね。
次回更新は2月1日予定となっております。
僕に学園物が書けるのか?!
そこが問題です。
どうしても学園の外に目が行ってしまうんですよね~。
う~ん。難しい。
あとは、濃いめのキャラを用意しないとですね。
あははは。( ̄▽ ̄)