014 考える者。
こんにちは。ボンバイエです。
寒さが身体に沁みるこの頃です。
寒い時には鍋ですね。
鍋が美味しい季節でもあります。
皆さんはどんな鍋がお好きですか?
列車の旅は順調そのものだ。
トイレは一台につき一つ共用で付いていたし、シャワールームもある。
一つ難点は防衛面の観点から、窓が小さい為に外を伺う事が部屋から出来ない事だが、荷台屋根の上に上がれる様になっており、そこから見渡す事が出来る様になっている。
もちろん、自己責任が問われるし、雨風はしのげないので偶に上がる程度だ。
ちなみに竜車は30㎞/時から40㎞/時ぐらいのスピードで走っている。
シャルマン商会が整備したらしい道路を走るので、他の馬車とは走る道が違う。
安全性も考慮されているのだろう。
ただ、所有地でもなく線路がひかれている訳でも無いので、他の馬車が走っている時もある。
なので、衝突や邪魔になる様な事が無い様に先触れ的な役目を持つ護衛隊の一部が一キロ程先行している。
薄暗い雲が空を覆う中、『ガタゴト』と音を発しながら今日も快調に竜車は進んでいる。
今日は休憩地点としてキックレスの街に寄る事になっている。
ガルートから王都の間にはいくつかの街が存在する。
ガルートはダリューン王国内では端に位置しており、王都ダマスは中心部にある。
その国内の流通にも寄与している竜車は荷揚げ荷下ろしを途中途中の街でおこなっているので数時間の休憩になるし、長い時では一日かける時もあるそうだ。
今回のキックレスの街ではお昼を挟んで5時間程度の滞在時間が設定されている。
「ジャック。今日はどうするんだ?」
「そうですね。ランチは食べに出たいですね。何かいい所ご存知ですか?」
相部屋の相方であるアルベロさんが、今日の予定を聞いて来た。
ここは竜車についている食堂だ。
竜車列車は連結されており行き来が出来る様になっているので、今は5台目である一番後ろの食堂が設置されている場所で朝食をとっているのだ。
「なら、私達と一緒しない?」
誘ってくれたのはアルベロさんとパーティーを組んでいる人でエミリさんだ。
アルベロさんとは幼馴染であり同族なのだそうで、ハーフダークエルフであり銀髪の褐色肌を持ち耳が尖っているという特徴も一緒だ。
そして整った顔は美しく、アルベロさんと一緒に並んでいると絵になる。
「良いんですか?」
「もちろんよ。ねぇ?サミュ。」
「うん。」
小さく頷きながら、銀色の髪をかき分けて笑顔を見せるサミュさん。
サミュさんも同じく幼馴染なのだそうだ。
ただし、ハーフダークエルフではなく、ハーフドワーフなのだそうで、背が低いという特徴が出ている模様。
というのも、ドワーフでなくても人間でも低い人は居るし、年齢も確認した訳じゃないのでよくわからない。
整った顔は他の二人と比べても遜色がない。
ただ背が低い分だけ可愛らしさが先に立つ。
ある意味で一番モテるタイプではなかろうか?
アルベロさん、エミリさんにサミュさんの三人。
美形の三人組のパーティー名は『灰色髪』。
まぁ、髪の毛が銀色であるのは目立ちやすい上に三人一緒の特徴だからとは思うが、安直なネーミングだと思った。
最初、教えて貰った時には思わず笑ってしまったほどである。
だが、後で他の冒険者の方に話を聞けるタイミングがあり『灰色髪』は結構有名な冒険者パーティーなのだそうで、ランクこそC級ではあるが実力はA級とみられており、もしかしたらS級に届くのではという噂があるそうで、知っている人は『最高の灰色髪』と呼んでいるそうだ。
色々訳アリなのかもしれないなと思っているが、僕も訳アリなのでそこは追求していない。
僕の訳アリもこの大陸に居る間はたいして意味は無いかもしれないけど。
うん?
そう、ここは僕が産まれた国でも大陸ですらない。
別大陸なのだ。
この世界には確認されている大陸は五つある。
その内、僕が産まれた大陸はアーダム大陸であり、僕はその大陸の小国の一つバウエン公国だ。
そしてここは、イグナシオ大陸である。
ここイグナシオ大陸はこの世界の中心にある大陸とみられている大陸であり五つの中でも一番大きな大陸だ。
イグナシオ大陸は、魔族の王である魔王が所有する土地が大陸中央に存在する。
魔王と言っても、異世界モノにある様な討伐対象という様なモノではない。
あくまでも魔族の王を指す様だ。
ただ、鎖国を貫く国であり、軍事国家であり、この世界の中で最強という称号を持つ大国である。
鎖国をしつつも、他国に攻め入るという様な侵略もしない国。
その国の名は『エンデ魔王国』。
その昔、統一国家を築いた帝王の後を継いだエスクダートという名の魔族の系譜を継いでいると言われる一族が治める国である。
そして、そんな国から独立した魔族の最強国家がもう一つある。
都市国家スパルタである。
その名の通り都市一つの国なのだが、その都市が世界に類を見ない規模であり世界一の都市として有名なのである。
そして『エンデ魔王国』と同じく軍事国家であり超軍事国家の名前を欲しいままにしている。
世界一の規模を誇る都市の名は『ヨコダテ』。
『エンデ魔王国』の魔王と同じく、エスクダートという名の魔族の系譜を継いでいる魔族が王だという。
この都市国家スパルタの独立にシャルマン商会が深く関わっているという。
そして、独立を認めさせた程の実力を示した国家なのである。
今ではその力を利用して世界の中立国家としての役割を持ち、世界に影響を与える大国の一つである。
この二つの魔族の王が存在する大陸がイグナシオ大陸の大きな特徴だろう。
そして今僕が居るダルドメア王国は大陸の西側にある大国の一つだ。
王様が統治している王制敷く国であり、貴族が幅を利かせる国だ。
その為に選民意識はかなり高いのだが、この国の貴族は一辺倒の種族でも民族でもなく他種族で構成されている為、種族による差別は少ない。
そもそも、王族がハーフエルフである。
よってそういう差別に対する風当たりが強い国であるので差別を表立ってする者が少ない。
ただ、差別とは人間の持つ根源的な感情なのか、全く無いという事にはならないのは何処も一緒である。
人間は自分と姿形が違うモノに対して強く意識が働く。
それはより違いを感じさせ、感情に影響を及ぼす。
それが好意的であれば、好感を得る事が出来る。
しかし、それが逆に作用すれば、嫌悪感を産んでしまう。
嫌悪感は時に拒絶を産み、拒絶は悪意を産む。
その連鎖に入ってしまうと、差別が起こる。
時に悪感情は、恐怖感が支配している事が多い。
自分と違うが為に理解できず、猜疑心を産み恐怖するべき対象にすら見えてしまう。
人間のほとんどの人がゴキブリに嫌悪感を抱くのはゴキブリという存在を忌み嫌い、恐怖感に支配されるからだという話を聞いた事がある。
人間は根底の所で生物として、弱者であると認識しているのかもしれない。
だからこそ、恐怖には勝てず、恐怖が感情を支配してしまう生き物なのかもしれない。
猜疑心と恐怖心は時に大きな成長を人に促す。
しかし、猜疑心と恐怖心は時に大きな障害として人の前に立ちふさがる。
猜疑心と恐怖心が無くなれば、戦争は減るだろうな。
少なくとも無駄な争いはなくなるだろう。
ただ、人間から感情が無くならない限りゼロになる事は無いと僕は思っている。
つまり理想であって現実的ではないと思っているのだ。
人間は複雑だ。
自分の利権の為に他人を巻き込む。
色々な理由をつけて自分の行為を正当化する。
厄介な生き物が人間なのだろう。
僕はどういう人間になれるのだろうか?
そんな事を考える事が出来る程にゆっくりとした時間を過ごしていた。
竜車列車はその間も順調に道を進んでいる。
「おい。もうすぐ着くぞ。準備は良いか?」
「うん。問題ない。」
「よし。」
誘ってくれたアルベロさんの声に我に返り返事を返す。
『間もなく、キックレスの街に到着致します。』
車内アナウンスが流れる。
僕はアルベロさんと一緒にエミリさんとサミュさんが待つ場所へと移動を開始したのだった。
人間の感情は難しいですね。
感情が無いと生物としては欠陥品ですが、あるからこその諍いはなくなりません。
しかし、感情があるからこそ人生は楽しい。
上手く付き合っていく事が求められるもかもしれませんね。