013 旅立つ者。
こんにちは。ボンバイエです。
なかなか筆が進みません。
筆ではなくキータッチが・・・ですかね?
『勢い良く』って時もあるのですが、一つ悩むとあれもあれもとなってしまいます。
やっぱ、小説を書くというのは難しいですね。
昨日は、シャルマン商会ガルート支店内をぶらぶらして色々な物を見て回った。
宝石をあしらった装飾品から儀礼用の剣や鎧など飾る物からナイフや包丁などの実用品。
珍しい調味料からいつも使う食品に古文書の様な古そうな本から週刊誌の様な大衆の娯楽的要素の多い雑誌みたいな物。
美術館の様な建物の中に多種多様な商品が揃えられ並べられていた。
時間を忘れて見て回ったのだが、何も買わなかった。
『ウインドウショッピング』というやつかな?
その後、屋上にある所謂『和食屋』で『天ざる』を注文して一人で食べた。
そう、この世界には日本食?地球食?というモノが流通している。
理由は簡単で、地球からのとりわけ日本からの転生者や転移者がこの世界に居るからだ。
居たというのが正しいのかもしれないが、そこはまだ確認が取れてない。
そして宿泊施設で早めに寝て今を迎えている。
早朝という事からガルートの街は静かだ。
その静けさがまた気持ち良い。
「おはよう。」
ドパームさんの声に気がついて声がした方へと僕は顔を向けた。
そこには、朝も早いのに眠たそうな様子を見せないドパームさんがベンチに座って居た。
「おはようございます。」
ニカっと笑うドパームさんの笑顔が眩しい。
朝の清々しさを体現している様な雰囲気が、好感を持たれる人物なのだろうな。
ドパームさんと話をしていて取り過ぎる人々がドパームさんに挨拶をする姿をよく見たが、どの人もドパームさんに笑顔で挨拶していた。
「ジャック君の席は先頭から数えて三台目の前側だ。予定通りに30分後には出発するからそれまでには出れる準備を完了してくれ。」
「はい。」
僕はドパームさんに教えられた三台目の寄り合い馬車へと向かう。
寄り合い馬車とは馬車の荷台部分に乗るバスの様なモノだ。
とは言え、シャルマン商会の寄り合い馬車は他とは違う。
そもそも馬車ではない竜車と呼ぶ方が正しい。
地竜と呼ばれる竜の一種で魔物に分類される生物に運ばせる車なのだ。
そして、荷台は大きく広い。
地球では、家を車で運ぶコンテナ的な家が登場していたが、その運ぶ状態と寝台列車の中間的なモノになるのではないか?と思う。
車輪の部分にはタイヤが使用されており、木ではなく鉄製のシャフトと車輪であり、強度があるモノの様で、スプリングなども整備された揺れの少ない仕様の様で、地球では近代技術と呼ばれるモノがあちこちに散見される。
その荷台部分はというと寝台列車の様に寝台が設置されている。
それも個室という形と寄り合いという形など様々な形態の部屋が用意されている。
今回、僕に用意された部屋は相部屋タイプで二段ベットと簡易的な机が一つに椅子が二つ置かれた部屋だった。
船の部屋にある様な小さい窓が着いているその部屋には先客が居た。
僕はチケットを改めて見る。
【Ⅲ-前-2-下】と書かれているので、この二段ベットの下が僕のスペースとなる。
「おっ?君が下のベットの人?」
部屋の中から、こっちに振り返り先客の人が聞いて来た。
「はい。ジャックと言います。」
「俺はアルベロだ。よろしく。」
銀色の髪に褐色の肌に尖った耳。
細身の体にピチッとした鎖帷子から出る腕や足は細いながらもしっかりと筋肉がついており細マッチョである事が分かる。
整った顔に爽やかな微笑を浮かべてアルベロさんは僕に手を差し出した。
差し出された手を握り挨拶を返す。
「よろしくお願いします。」
「君はどこまで行くんだい?」
「王都です。」
「じゃあ、降りる所は一緒だな。」
アルベロさんは冒険者であり、今回は移動と共に列車の護衛の依頼を受けているそうで、『部屋にはあまり居ないからゆっくり旅を楽しんでくれ。』と言われた。
このアルベロさんの様に、移動費を安く済ませる為に護衛依頼を受ける冒険者は少なくないらしい。
護衛依頼も、このシャルマン商会の寄り合い列車の人気は高いそうで、なかなか受ける事が出来ないとアルベロさんは言う。
「人気の高い理由は簡単さ。襲われにくいからさ。シャルマン商会を敵にしたい賊はなかなか居ないし、そもそも専属の冒険者が居てな。シャルマン商会が運営する冒険者クラウン【シャルマン】に所属する彼奴等は腕が良いから信頼できる。つまり安全性が高いんだ。」
専属冒険者が指導する護衛団にはアルベロさんの様な臨時の冒険者を加えて50名になるそうだ。
列車護衛専属が10名程度で別口の冒険者クラウン【シャルマン】の冒険者が20名程度。
それ以外の20名程度を一般護衛任務で募って集まった冒険者達という構成で組まれているそうだ。
「列車護衛専属の奴らはスペシャリストでな。あいつ等が他の護衛任務をする時は、相当な依頼料になるって話だ。それに今回は、冒険者クラウン【シャルマン】の方からはS級冒険者グループである【赤鳥】も参加しているからな。」
そんな話をアルベロさんから聞いていると、部屋の外から女性の声がした。
「アルベロ。準備は出来たか?」
「いけね。ちょっと待ってくれ。」
どうやら、アルベロさんは呼ばれていたらしい。
慌てた様子のアルベロさんは小声で『待たせすぎると怖いからな。』と呟きながら、レザーアーマーを纏い弓に矢筒を背負いロングソードを手に取り『じゃあ、またな。』と出て行った。
残された僕は、自分のスペースとなる二段ベットの下の方へと身を投げる。
「ふぅ。」
一息入れて、ベットの周囲を見渡す。
ベットの頭の方にはちょっとしたモノが置けるスペースがあり、足元には荷物が置けるスペースがある。
鎧なども入れれる程、荷物置場は広くなっているし、結構しっかりした造りの扉がついておりその中にはちょっとした金庫もある。
自己責任とはなるだろうが、少し離れる分には中々の防犯設備だと思う。
少しでも快適な旅が出来る様にとの配慮だろうか?
もしそうなら、サービス精神が高いなと思う。
こういった所も人気が高い理由だろうな。
そのままボーっとしていると、トントンと部屋の扉をノックする音が聞えたので、ガバっと起き上がると、扉の入口に駅員の様な制服を着た人が立っていた。
「え~、ジャック様でよろしいですか?チケットの確認をさせてください。」
乗組員というやつだろうか?
制服の胸の所にはシャルマン商会の名前とロゴマークが入っている。
紺色の制服は上下と帽子がセットの様であり、地球で言う所のつめ入りの制服に長ズボンと学生帽の様な出で立ちだ。
僕の眼の前に居る人は声の感じから女性だと分かるが、男女兼用の制服なのかもしれない。
言われるがままにチケットを見せると、改札鋏を彷彿とさせる物を取り出し切った。
返されたチケットを見ると小さく『シャルマン商会』と切り抜きされており、まさに改札鋏なのだと思った。
地球では僕が死ぬ頃には切符を通すか電子カードをかざすだけになっていたが僕が子供の頃は改札鋏を見かけた。
当時は古いなとしか思わなかったが、改札鋏を目の前にすると何か情緒的なモノだったのだと感じる。
「ふふふ。面白いですよね?記念にとチケットを持って帰られる方も居るようですよ。」
と乗組員の方が教えてくれた。
さらに『降りる際に見せて頂く必要がありますし、この列車の中では身分証の代わりにもなりますので、無くさない様に気をつけてくださいね。』と教えてもらった。
優しく教えてくれた乗組員さんは笑顔のままお辞儀をすると『失礼しました。』と次の部屋へと向かって行った。
僕はチケットを手に持ったまま部屋に置かれている椅子に座った。
前世において『ドリームチケット』という言葉を聞いた事があるが、今僕の手の中にあるこのチケットが、今世における僕の『ドリームチケット』の様な気がしてきた。
特に、このチケットを手に入れるのに苦労した訳では無いし、何が待っているって王都の学園に通う事が決まっているだけだ。
そもそも、ザバルティさんに出会った事が最大の『ドリームチケット』であった様にも思う。
情緒的な改札鋏を見た所為なのだろうか?
どうにも、この手にしているチケットが『ドリームチケット』に感じるのだ。
『ピー』という音と共に『ガタン』という音がしたと思ったら、ゆっくりと窓の中から見える景色が動き出したのだった。
いい歳こいたオッサンなので、電車で移動する事に何となく情緒的なモノを感じるのです。
僕だけですかね?
もしくは、僕の経験がそう思わせているのでしょうか?
どっちにしても、竜車列車は発進しました。
ところで、私は進んでいるのでしょうか?
う~ん。わかりません!(>_<)