012 別れる者。
こんにちは、ボンバイエです。
ドンドンとモノを憶えておく事が苦手になってきました。
歳の所為ですかね?
そんな事を言うと、私よりも年上の人に怒られますかね?
とはいえ、徐々に自分自身にとって興味があるモノ以外の記憶が薄くなり易くなってきました。
メモが必須になってきたのは間違いありませんね。(・∀・)ニヤニヤ
「ジャック様。そろそろお時間です。」
アーニャに呼ばれて僕は顔を上げる。
以前の様なおどおどした様子はなく、ミーリアさんの様に落ち着き払った様子のアーニャが立っていた。
その顔は自信に満ち溢れている感じがする。
彼女もこの二年間でメイドとしての再教育をミーリアさんにより施され成長しているのだ。
あの自信のなさそうなアーニャがもう見れないのかと思うと少し寂しい。
「ジャック様。どうかなさいましたか?」
「いや。何でもない。」
僕は立ち上がり窓の外へと視線を向ける。
淡い桃色の花の蕾が木々に色合いを与えている。
そう『桜』が咲く季節というわけだ。
そもそも『桜』だった事に驚きを隠せなかったが、それも三度目になるわけだから、そこに驚きはなくなったが、胸にくるモノがある。
「今年も綺麗な花を見せてくれそうだね。」
「そうですね。来週ぐらいには皆様が集まってお花見を開催するとお聞きしています。」
「そっか。大騒ぎなんだろうな。」
昨年・一昨年の花見を思い出したのか、『ですね。』と苦笑いを浮かべるアーニャ。
皆さん『花より団子』?いや花より酒かな?
「よし、行こう。」
「はい。」
僕はアーニャを後ろに従えて下へ降りて家を出る。
家の外にはザバルティさんとミーリアさんとギンチヨさんが居る。
「準備は出来ている。気を付けて行っておいで。」
「はい。本当に、本当にありがとうございました。」
ザバルティさんはいつもの笑顔で無言でうなずき返してくれる。
ミーリアさんもザバルティさんの横で微笑んでいる。
「ふふふ。本当にあの時に比べて見違えるほど二人は成長しましたね。よく頑張りました。ですが、これからが本番です。」
「はい。」
ビシッと背筋が伸びる様な感覚になる。
別に怖い訳では無いのだが、ミーリアさんに発破をかけられると気合が入るのだ。
「次に会う時には、お主の武勇伝を聞かせよ。期待している。」
「いやいや。なんでそうなるんですか?ギンチヨさん。ハードル高くないですか?」
ギンチヨさんは最後まで僕に背伸びをする様に言ってくる。
揶揄っている訳では無く、それがギンチヨさんの平常運転だから困る。
当のギンチヨさんは『お前なら出来るし、期待しているのだ。』と言って笑っている。
「ジャック様。そろそろ出ましょう。」
「そうだね。皆さん、アーニャを宜しくお願いします。そして、ありがとうございました。」
僕は改めて感謝を述べ頭を下げる。
三者三様のお見送りの言葉を頂き、アーニャが御者をしてくれる馬車へと乗り込んだ。
アーニャには最寄りの街まで運んでもらう事になっている。
そこからは、平民らしく乗合馬車で目的地を目指す事になっている。
アーニャは、ザバルティさんの元でメイドを続ける事になったので最寄りの街であるディックまで送ってもらう事になっている。
「行っておいで。いつでも帰ってくると良い。」
「いってらっしゃい。」
「楽しんで来い。」
「はい。行ってきます。」
僕はこうして、ザバルティさんの元から旅立ち王都にある学院へと向かったのだ。
◇◇◇◆◇◇◇
桜に覆われた丘を出て街道に入る。
先ほどまであった桜並木ではなく、ここら辺の森にある普通の木々の近くを見ながらの行程は静かで平和な道のりだ。
「ジャック様。」
「うん?何?」
寂しそうな背中を見せているアーニャが僕を呼んだ。
「本当に大丈夫なのですか?」
こちらを振り返る事も無く、アーニャが言葉だけを僕に投げかける。
「ああ。もちろんだ。」
「ですが・・・。」
「僕は本当にアーニャには感謝しているんだ。アーニャには生まれた時よりずっと面倒をみてもらった。そんなアーニャには幸せになって欲しいんだよ。」
「・・・。」
「僕はアーニャの選択を尊重したいんだ。僕もザバルティさんの元で色々学んだし、一人で生きていけるよ。それに、王族でも貴族でもなく平民なのにメイドが居るのは変だろ?」
「・・・はい。」
「大丈夫さ。やれば出来るよ。」
「・・・わかりました。変な事を言ってすみません。」
「いや。心配してくれてありがとう。」
僕は本当に感謝している。
感謝しているからこそ、僕の中の寂しさに対しては堪える必要があると思っている。
その後は、無言の旅路が続いた。
とは言っても、苦しい無言では無く、過去を振り返る優しい無言の時間だった。
◇◇◇◆◇◇◇
「それではジャック様、私はここで失礼します。」
僕とアーニャあ何度か来た事のあるこの街中で軽く昼食を済ませた。
昔ばなしの談笑をするもカップルが別れ話をするようなムードになりお互いに口を閉じてしまった。
そこからは沈黙の時間だった。
「うん。アーニャ、本当にありがとう。」
「ジャック様・・・こちらこそ、不甲斐ないメイドで・・・すみま・・・せんでした。」
気丈に振舞うアーニャの言葉は涙声だった。
僕の胸はギュッと掴まれる感じになる。
「では、また。」
「うん。またね。」
アーニャが会計を済ませ、店を先に出た。
僕はそれをずっと見守った。
彼女の姿が見えなくなるまで。
今生の別れでも無いのに、この胸の苦しさはなんだろう?
確かに、アーニャの事は好きだ。
大切な人だ。
彼女のおかげで僕は生きる事が出来たと言えなくはないと思う。
生まれてからここまで一緒だった人だ。
だけど、それだけだろうか?
いや、今はそんな事を考える時じゃない。
進む為の一時の別れだ。
感傷に浸っている場合じゃない。
僕は歩き出す。
寄り合い馬車が出るのは明日。
今日はここで一泊するつもりだが、先ずは寄り合い馬車を確保しよう。
僕は寄り合い馬車を取り仕切るシャルマン商店ガルート支店を目指す。
シャルマン商会とは世界企業である。
何処の国にも所属せず、何処の国にも支部や支店を構えている大店である。
お店構えは地球のデパート・百貨店の様に美術的な要素を取り入れた建築を使用し高級感のあるお店になっており、貴族ご用達のお店の顔を持っている。
『庶民が全く関係ない』のか?というとそうではない。
庶民であっても貴族であっても対応レベルに差が無い事もシャルマン商会の特徴である。
防犯的に対応が違う面もあるにはあるが、だからと言って庶民を無下に扱うという様な事はないのだ。
『お客様』という括りによって、同一のサービスを受ける事が出来る様になっている。
もちろん、横暴な者や無茶を通そうとする者はそれ以上の力で追い出される事になる。
何故なら、シャルマン商会は冒険者の集まりであるクラウンも経営しており、世界的な冒険者を何人も抱えるクラウンなのだ。
つまり、商会の支店がある所にはクラウンの支部がある。
ある意味で、冒険者組合に匹敵する規模の活動なのだ。
そのクラウンが商会の後ろ盾になっており、痛い目を見た地方貴族や国があるという話もある程だ。
それなのに、国を支配するという様な動きは一切見せない。
そこが、彼等が信用される所である。
ある意味で国より怖い存在でもある。
また冒険者クラウンは国同士の争いには参加しない事も明言しており、事実冒険者ギルドもそれを認めており、参加したという履歴はない。
今回、僕がお世話になる予定の寄り合い馬車は、シャルマン商会主導のモノで、物流担う場所が集めている寄り合い馬車となる。
冒険者クラウンがその護衛を務める事で安心安全な移動が出来る為、人気の移動手段となっている。
真似をする所もあるみたいだが、人気度合いが違うらしい。
「やぁ、ジャック君。よく来たね。」
「あっ、ドーパムさん。今回はよろしくお願いします。」
「ああ。道中はウチの所の冒険者達が護衛する事になってるから、安心して旅を楽しむと良い。」
「はい。ありがとうございます。」
この厳つい人はドーパムさん。
シャルマン商会のクラウンに出入りしている人で、シャルマン商会の人だ。
見た目は若々しいけど、ハーフエルフである為、年齢は分からない。
『ほい。』とドパームさんからチケットを渡された。
そのチケットには日時と僕の名前が記載されていた。
『ありがとう。』とドパームさんにお礼して僕はシャルマン商会ガルート支店の美術的建築物の中へと入った。
どうでしたか?
やっぱ、別れってツライですよね。
心を許した相手であればある程に、つらさが増しますね。
恋人との別れや、親友との別れ、そして親との別れ。
別れには色々ありますが、どれも経験しなくて良いのならしたくないモノだと思います。
が、絶対に別れはあります。
それがどんな形であっても。
だからこそ、その別れは大切にしたいですね(>_<)
・・・真面目か?!