010 挨拶する者。
こんにちは、ボンバイエです。
遂に、普通の日々が再開されてしまいました。
日々仕事に追われる日々の始まりです。
仕事が無いと食べていかれないので必要なんですが、やっぱね?
暖かい食事と暖かい寝床。
その二つを与えられた僕とアーニャは気を緩め、ゆっくりと寝る事が出来た。
翌日、朝起きて顔を洗い下の階へ降りてダイニングキッチンへと入ると、そこにはザバルティさん以外に二人居た。
「おはようございます。」
「おはよう。早起きだね。」
そう言うとザバルティさんは他の二人に僕を紹介してくれた。
一人は銀色に輝くロングヘア―を後ろで結んでいるが、結び目は肩より少し低めにしてあり、巫女さんがしている様な髪型で、真っ白と表現が出来る程に肌は白い。
眼は髪と同じく銀色で、あり澄んだ瞳をしており神々しさを持つ美女だ。
「我は誾千代と申す。よろしく。」
印象としては女武将のイメージが湧く。
「私は、ミーリアと申します。ザバルティ様のメイドをしております。お客様がいらっしゃっていたのに不在で申し訳ありません。何かお困りごとはありませんか?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。
もう一人のミーリアさんは、ギンチヨさんと同じく神々しさがあるのだが、和では無く洋を感じさせるモノだ。
女神様のイメージ・・・そうアテナ神様のイメージだ。
輝く黒髪に透き通る白い肌の澄んだ黒目の美女。
日本人が持つ特徴と西洋人が持つ堀の深さが合わさりミステリアスな印象を強く受ける。
隙が無いメイドさんという所だろうか?
ザバルティさんと並んでいる神々しい美男美女の様子は絵になる。
「そうですか。それは良かったです。」
『ふふふ。』と上品にわらうミーリアさん。
視線が離せなくなってしまうほど美しい。
これは気をつけねば。
「よし、アーニャさんも起きたみたいだから、朝ご飯にしよう。」
「わかりました。準備いたします。」
その後、ザバルティさんがおっしゃった通りにアーニャが降りて来た。
僕やザバルティさんが先に起きていた事を恥ずかしく思っている様で気落ちした様子だ。
アーニャは僕と同じ様にザバルティさんに二人を紹介され挨拶を交わした後にミーリアさんと食事の準備を始めた。
僕はザバルティさんに誘われて外へと出た。
強く指す朝陽が木々の葉に隠されてキラキラしている。
朝霧があった後なのか、草花に水滴がついており太陽の陽射しを反射している。
「気持ちいいね。」
「そうですね。」
久々に自然を感じるゆっくりとした時間。
城の中で窮屈な生活を送った為なのか、開放的な気分になり自然と笑みが零れる。
昨日と同じ森のはずなのに、見え方が違うのは気の所為だろうか?
玄関の逆側、家の裏には畑がある。
その畑が目の前にある。
昨日はよく分からなかったが、沢山の種類の野菜が植えられているみたいだ。
「少し、採取するから手伝ってくれるかな?」
「はい。」
ザバルティさんについて畑に入っていく。
ザバルティさんに言われて、赤く実っているトマトをいくつかもぎ取りザバルティさんに渡すとザバルティさんは肩に下げていた鞄に入れていく。
「それ、もしかして魔法鞄ですか?」
「うん?そうだよ。重宝しているよ。」
無造作に入れても傷がつかないのだと、ザバルティさんが教えてくれた。
その後も、キュウリやレタスにキャベツなどの野菜を収穫していく。
そしてジャガイモを引き抜き取り終えた。
「よし、今日はここまでだね。戻ろう。」
「はい。」
ザバルティさんと僕は家に戻り鞄をミーリアさんに渡す。
『ありがとうございます。』とミーリアさんは受け取った。
『何か手伝おうか?』とザバルティさんが言うのだが、『後はサラダだけですので大丈夫です。』と断られたので、ザバルティさんと僕は席に着いた。
ザバルティさんと僕は雑談を交わしながらミーリアさんとアーニャの働く後ろ姿を見ながらアーニャが準備してくれた飲み物を飲んだ。
徐々に食卓へと並べられる料理。
大皿に乗せられた料理では無く、一人ずつ用意されている。
目玉焼きにベーコンとハムにソーセージにサラダ。
サラダは先ほど収穫した野菜だろう。
パンにスープとヨーグルトに果物が入ったデザートまで用意されている。
緩やかな湯気が立ちホカホカなのが分かる。
全員分が用意され、皆が席に着き『いただきます。』と食べ始めた。
「「美味しい!」」
僕とアーニャは昨日と同じ様に感想が重なった。
「お口に合って良かったです。」
ミーリアさんが『ふふふ。』と上品に笑って『まだ沢山ありますから、お替りしてくださいね。』と言ってくれた。
食事を終えた所で、ミーリアさんがコーヒーを用意してくれたので全員でくつろぐいでいると、ザバルティさんが口を開いた。
「ジャック君。これからどうしたい?」
「どうしたいですか?」
「うん。そうだよ。どうしたい?」
ザバルティさんの真剣な眼差しが僕を射止める。
僕はどうしたいのだろうか?
報復がしたいのだろうか?
たしかに腹が立つし仕返しがしたくないとは言えない。
本当に酷い仕打ちだった。
だが、別に王様になりたいと思ってはいない。
じゃあ、何がしたいのだろうか?
特にこれと言って無い事に気が付く。
唯一言えるのが、アーニャには安全に幸せになって貰いたい。
正直巻き込まれただけの彼女。
僕が立派に王位を継げればそれなりに安全な生活が出来たかもしれない。
だからこそ、彼女の幸せを求めたい。
自分の事はその後だな。
「彼女、アーニャに幸せになって貰いたいです。」
「ふむ。それは願いだね。したい事ではないね。」
たしかにザバルティさんが言う様に、したい事ではないか。
また、僕は沈黙し考える。
真面目な眼差しに応える為に、真剣に考える。
僕のこの世での人生の分岐点の一つの様な気がするからだ。
だが、いくら考えてもこれだというモノが出てこない。
前世の記憶にある少年の時の夢・・・『プロサッカー選手になりたい。』というのが少し頭を過ったが、この世界ではそんなモノがあるのかさえ知らない。
そもそも異世界に来たのだ。
どうせなら、この世界を旅をするのはどうだろうか?
前世では、なかなか世界を回る旅などは出来なかった。
いや、現実にはしている人が居たが、僕は普通の生活を送った。
普通とは違うかな?
一般的という方が良いのかもしれない。
高校を卒業して就職し、結婚して子供を得て、そして死んだ。
だから、旅とは無縁だった。
「・・・旅がしたいです。出来ればこの世界を見て回りたい。」
「うん。良いね。旅か・・・となると、どうしても必要になるモノがあるね。」
「はい。今の僕には足りないモノです。」
「うん。分かっているようだね。」
「はい。」
ニッコリとザバルティさんは笑う。
そして言葉を続けた。
「今日から12歳になるまでは、ここに居ると良い。12歳になったら学校に行って色々と勉強すると良い。その準備をここで行おう。そして卒業したら一人立ちだ。好きな事をしたら良い。それまでは面倒を見るよ。それで良いかな?」
「はい!ありがとうございます。でも本当に良いのでしょうか?」
「ふふふ。気にする事は無いよ。ただの気まぐれ。・・・よしみさ。困ったときはお互い様だよ。その代わり、ここに居る間は色々協力をしてもらうから宜しくね。」
「は、はい!」
「さて、アーニャさん。君には彼が学校を卒業するまでは、メイドとして働いて貰いたい。もちろん給金は与えよう。良いかな?」
「もちろんです。ありがとうございます。」
「よし、話は決まったね。ミーリア、アーニャ君を頼むよ。ギンチヨ、ザバルティ君を頼むね。私はちょっと出かけて来るよ。夕食までには戻るから。」
「「かしこまりました。」」
深々と頭を下げるミーリアさんとギンチヨさんの様子を見るとザバルティさんとの関係性はどうも主従関係の様な気がする。
ザバルティさんは玄関から出てそのまま消える様に居なくなった。
もしかして転移魔法とかだろうか?
「さぁ、二人とも。話が決まりましたから、ここからはお客様では無く家族です。」
「そうだぞ。これからはビシバシ行くからな。」
「「はい!」」
「良い返事です。」
「うむ。では早速動くとしよう。」
「「はい!」」
僕はギンチヨさんと共に外へ。
アーニャはミーリアさんに付き添い部屋の奥へ。
こうして、僕等の新しい生活が始まった。
ここで、一区切りって感じでしょうか?
とりあえず、転生王子は助かりそうです。
不遇のアーニャも一緒に平和な時間を過ごせそうです・・・。
でも、本当にそう上手くいくのでしょうか?
いくだろうって?物語が終わるだろって?
・・・そうですね。
私には悲惨な物語は書けそうにないですもんね( ̄ー ̄)ニヤリ