001 転生した者。
先ずは、一話目です。
よろしくお願いします。
私の身の上に起こった事。
それは俗に言う『異世界転生』だった。
◇◇◇◆◇◇◇
特に前世の記憶が残ったまま赤ちゃんとして転生し意識があった訳では無い。
つまり赤ちゃんの時の記憶は無い。
物心ついた頃、つまり五歳頃より断片的な思い出があるという程度だ。
だが、10歳の誕生日を迎えた日に高熱を出した。
周りの人が何をしてもその高熱は収まる事は無く、魔法ですら対処のしようがなかったらしい。
らしい。というのはその時の記憶が全く無いからで、意識がない状態が一週間も続いた。
僕が意識を取り戻した時には、この前世の記憶がある状態になっていた。
この一週間の意識を失っていた間に、脳内に記憶をダウンロードされたのではないか?と思っている。
逆に言えば、脳に負荷がかかり過ぎて意識を失う必要があったという事だと認識している。
意識があれば、現実に起こる事に対する処理が必要になる。
その分の処理能力を含んだ脳の処理能力全てを前世の記憶のダウンロードに費やしたのだと思っている。
で、その前世の記憶は?と言う事になる。
前世の記憶は『地球という星の日本という国で44歳まで生きた男』の記憶だ。
しかし、男記憶の中には人の名前に関するモノが無い。
黒く塗りつぶされた様な感じだ。
それも自身を中心にした人間の名前が無い。
芸能人などの有名人と認識されるモノは分かるのだが、自身の名前も家族の名前も憶えていない。
ある存在の介入により塗りつぶされた文章を読まされて記憶に刷り込まれている感じだ。
違和感があるモノの、こればかりはどうしようもない。
では、この状態で何故自分の前世と言えるのか?という疑問があると思う。
『神様にあった。』とか『啓示を受けた。』とかは無い。
いや、あるのかもしれないけど、覚えがない。
つまり確かめる手段は無いのだが、どうも感ずるモノがあるのだ。
自分が経験したモノだと思える記憶なのだ。
前世の記憶の中でも特に他人の記憶とは思えないのが、死の間際の記憶だ。
家族に囲まれて死ぬという経験は胸をギュッとさせるものだ。
嬉しくもあり、悲しくもあるその思いをどうやって表せば良いのか分からない。
ただその時の事を思い出すと、勝手に僕の頬をツーっと伝う雫が出来てしまう。
そして、そのシーンで僕の手を握り凛とした佇まいを持ち、目に涙を溜めながら笑顔を向けてくれる女性がいる。
その女性は前世での僕の奥さんだ。
『最後は笑ってくれ。』と言った僕の想いを形にしてくれた愛妻。
名前が出てこないのが腹ただしいが、その思い出はつい先日に起こった事の様に鮮明に脳裏に焼き付いていて、思い出す度に胸が締め付けられる。
「ふぅ~。」
大きな溜息を吐く。
今も思い出してしまい、胸が苦しくなった。
気持ちを入れ替えないといけない。
何故なら今は緊急事態だからだ。
「殿下。お気を強くお持ちください。」
「分かっているよ。大丈夫だ。」
僕付きの専用メイドのアーニャに笑顔を向けて頷くとアーニャはホッとした顔になる。
心配をかけてしまったようだ。
主人としては失格だな。
この世界の移動手段は馬車や徒歩といった程度の低いモノしかないらしい。
今はこのガタガタと揺れる馬車に乗っている。
しかも、移動スピードはかなり無理をしている状態での様で縦揺れだけでなく横揺れもしている。
「お前は大丈夫なのか?無理してついてこなくても良かったのだぞ?」
アーニャは僕の言葉を聞くとフルフルと首を横に振り決心している顔を僕に見せた。
「私は殿下の専属です。何処までもお供致します。」
「そうか。・・・迷惑をかける。」
「いえ。迷惑などと思っておりません。何なりとお申し付けください。」
「ああ。そうさせてもらう。」
「はい。」
悲壮感を漂わせたアーニャの顔を見るとそれ以上は何も言えなかった。
何故なら、僕はこの国から逃げている身なのだ。
しかも、つい昨日の朝に意識を取り戻したばかりだというのに、今日には逃げ出さなければいけなくなってしまったのだ。
僕はバウエン公国の現第一王子で、将来はバウエン公国の公王になる予定の存在。
厳しく育てられた記憶がある。
ただ、父と母の愛情を感じた事は無かった。
一緒に食事をした記憶も無いのだから当然かもしれない。
何故なのか?
今世の僕にはそれが明確に分かっていた訳では無いが、薄々気が付いていた。
母が実母ではなく義母なのだ。
僕の今世での実母は僕を産む際に亡くなっている。
何度かしか会っていない父に『お前の所為で・・・。』と言われた記憶がある。
目にも入れたくないほど、嫌われているのだろう。
そして、義母にとっては実子であるバール第二王子を継がせたいという思いがあり僕が疎ましいのだ。
そんな二人を親として持つ僕が優遇されるはずも無い。
もちろん王家なのだから、普通よりは優遇されているだろう。
それは間違いない。
だけど、第一王子としては冷遇されていた訳だ。
偶々、第一子として生を受けた僕は第一王子として父も義母も育てるしか無かった。
違うな。
『生かしておくしか無かった。』という所だろう。
そんな折に、意味不明な状態になった僕を見て僕を憎む父と僕を疎ましく思う義母達が『排除する口実を得た。』と思っても不思議じゃない。
そしてその思いを実際に行動に移したという事だろう。
僕の暗殺計画が立ち、僕は今日殺される所だった。
それを察知した反公王派の手引きで城を抜け出して今に至る。
その割に落ち着いているのは何故か?
確かに、普通なら落ち込み『何故だ!神は見放したのか?!』と叫ぶ所かもしれない。
だが、僕が最初に思った事は『やはり。』だった。
意識を戻した後に父も義母も会いに来なかった。
報告しに行ったはずの従者も帰って来なかった。
だから、僕を排除する事にしたのだと悟ったのだ。
「殿下。もう直ぐロネクト伯爵領に入ります。後少しの辛抱です。」
「わかった。」
アーニャの僕を安心させようとする気持ちの言葉に返事をして窓の外へと視線を戻した。
何にしても、城の外へ出る事が出来たのは良かった。
城の中に居ては何も出来ないからな。
外を流れる景色はこの世界の状況が分かるモノだ。
この世界で育ってきて教えられたモノとインストールによって補足されたであろうモノによって、この世界が地球でいう所の西欧の中世位の文化レベルである事は知っていたが、それが目の前で確認されている感じだ。
その上で、魔物が生存し魔法がある世界であり、人が生活している地域が少ない未発達地域の多い世界である。
よって、目の前の風景が森や川などの自然風景ばかりだ。
「うん?」
「ど、どうかなさいましたか?」
僕の疑問を伴う言葉を聞いてビクリとするアーニャを見て溜め息が出そうになる。
「・・・いや。何でもない。」
「そ、そうですか。」
そういう事か。
まぁ、それも仕方がない。
僕の後ろ盾はこの公国には居ない。
実母の実家は遠国だ。
その国に頼るつもりなら、大使館に入る方が良いだろう。
がだ、大使館に入ってもこの公国に居る限り助かる可能性は低い。
何せ、地球の中世レベルだ。
国際法なんてあっても証拠さえ残さなければ、色々とどうにかなる世界だからな。
世間が知っている10歳程度の今の僕では、それこそどうとでも出来るだろう。
ロネクト伯爵も匿ってくれるとしても、未来の傀儡としてというつもりもあるかもしれないし、そもそも本当に匿うつもりがあるのかも怪しい。
「少し寝る。」
「は、はい。わかりました。」
アーニャにそう伝え、姿勢を変えずに目を瞑る。
もちろん寝るつもりは無い。
静かにこの胸の痛みを抑える為に目を瞑ったに過ぎない。
そろそろ馬車が止まる頃だろう。
はぁ、それにしても煙草が吸いたい。
どうですか?
ワクワクしましたか?
他の作者の方が良くやっているのを試してみましょう!!
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ただ、作者のメンタルはさほど強くありませんので、厳しいコメントは御遠慮ください<m(__)m>
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以上、ボンバイエでした。
また明日、お会いしましょう♪('◇')ゞ
・・・会うのとは違う気がするけど・・・。