8話
強引に手を引っ張られ礼拝堂から駆け出していく二人だが恐怖や緊張のせいでいつものように呼吸が出来ず息を切らし、立ち止まってしまった。呼吸を整える為大きく息を吸うと、真っ白になっていた頭の中が徐々に収まり元の状態に近づくにつれ、現状がどうなっているのか認識してしまう。
「リリア、逃げちゃ駄目だ。みんながっ。」
「大丈夫。悪魔は必ず契約を守るわ。私を信じて。」
彼女の言う通り悪魔は契約に対して人よりもに忠実であり、公正であると聖書に書かれていた。商人や貴族のように後から文句を言い報酬を減らしたり、立場を利用して内容を強引に捻じ曲げたりなどせずに、お互いに了承した契約に対して必ず履行を求める。
つまり、エルルゥが何か出来るのはフィンに対してだけであり礼拝堂の中の人たちには手が出せないはずなのだが、噂話ぐらいで実際に悪魔と契約した人など聞いた事など無い。もし、書かれていた通りでなければ礼拝堂の中は想像を絶する事なり、一緒にいるリリアも同じ目に合うだろう。
息を吸い冷静に成ると、悪いことばかり浮かんでくる。このまま自分が逃げていては犠牲になる人が増え取り返しのつかないことになる。身寄りの無い自分を良くしてくれたこの町が自分のせいで無くなってしまう事など絶対に許せない。
「リリアのことを信じているよ。ならエルルゥとの契約を履行すれば彼女は地獄に帰るはずだ。」
「馬鹿なこと言わないで。悪魔何かにフィンを地獄に何か連れて行かせないわ。」
ここで言い争いをしてエルルゥに捕まれば2人とも地獄に連れていかれるかもしれない。同じ年齢ながら既に多くの奇跡を行使出来る彼女が成長すれば、自分みたいに馬鹿なことをした人を助けれるはずだ。小さな声で聖句を唱え彼女を思いっきり突き飛ばし後、光の壁に閉じ込める。神父様やリリアほど強力では無いが時間は稼げるはずだ。背後からリリアの聞いたことが無いような声が聞こえる。突き飛ばしたことを謝りたいが、その間にエルルゥがここに来てしまっては意味がない。心の中で彼女に謝り礼拝堂へ引き返した。