3話
しばらく席に座って待っていたが誰も怪我人が来ないため思わず欠伸が漏れてしまった。
怪我人がいないのは良いことだかこのまま何もしなければ、度々様子を見に来る睡魔に負けてしまいそうだ。
さすがに奉仕活動中に次の奉仕活動の予定を立てるようなことが不味いことはよく分かっている。せめてもの抵抗として、前の担当が付けた日誌を見ながら時間を潰していたところ、まだ神様に対してお祈りをしていないことに気づいた。
誰かに話しかけられる前に済ませようと、神様に祈りを捧げようと手を合わせたところ声を掛けられた。
タイミング悪く怪我人が来たようだ。中断し大きな声のする方へ視線を向けたところ、
「ガハハ。魔物に不意に背中から襲われて痛いのをもらってな。すまんが見てくれ。」
髭面の男がフィンに向かって赤く染まった背中を向けた。服はズタズタに破れ、正直大怪我にしか見えない。このような怪我の治療の経験など無く、緊張で手が震え、自分の心臓音が他の人に聞こえそうだ。自分が担当出来る範囲を超えていると思ったが、一先ず血を洗い流し傷の度合いを確認しようと水を掛けることにした。
「水を掛けて血を洗い流し傷を確認します。」
「おう、早くやってくれ。」
この時点で何か変だと思っていだが万が一有ってはならないと背中に慌てて水を掛け血を洗い流す。
そうすると、爪で引っかかられたような5本線のひっかき傷はあるが、想像していたような大怪我では無かった。
「フィンどうだ驚いたか。多少退屈しのぎになっただろう。」
笑みを浮かべながら髭面な男が得意げな顔で言ってきたため思わず素で言い返してしまった。
「ヴァン、質の悪い冗談は止めてくれ。見習いが治せないような怪我をこっちに持ってきたから自分しか治療できる人がいないのかと思ったよ。」
平静を装って会話しているが心臓がいつもより大きく跳ねており、自分は冒険者には到底慣れないと思った。
「悪い悪い。上から来たのをバッサリやったせいで、背中から血を浴びたんじゃ。宿とギルドを何度も往復するのが面倒でな。そのまま来てみれば、フィンが退屈そうにしているとロイに聞いて、いたずらしてやろうと思ったんじゃ。」
「おかげでこれ以上にないくら目が覚めたよ。お礼にヴァンが大怪我してるように見えても、悪戯だから放っておいて良いよって教会のみんなに伝えておくよ。」
「悪かったと言っているだろ。だが、謝罪が足りんと言うなら一つ面白いことを教えてやろう。」
また、神様にお祈りするのが遅れそうだ。