表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

その他いろいろ

何をどうやっても破滅コースにしかならないクソゲーの悪役令嬢に転生した可憐な乙女は、クセのありすぎるイケメンにそっと…キスを、ねだる

作者: うぼぐぁ〜


 青い空には柔らかそうな白い雲が浮かび、心地よく吹く風は緑の木々を穏やかに揺らしている。素朴な花々が美しく咲き乱れる長閑な丘の上には、三人の子供達と一人の女性の姿が、見える。


「あ、あった!四葉!」

「やった!これで花冠の…完成っ!」


 柔らかい草の上に腰を下ろし、シロツメクサを編んでいる子供達が…とびきり美しい女性を囲んで楽しげな声をあげた。


「…ッ、すごく綺麗ね!ステキ…」


「うふふ!自信作!」

「ふふ、お姫様にしてあげる!」

「あっ…動かないで!」


 子供達が嬉しそうに笑いながら、(こしら)えたばかりの冠を女性の頭にそっと乗せた。


 …美しく輝く銀髪に、薄緑色のティアラが良く映える。

 子供達に慈愛の眼差しを向けるその姿は、まるで突如世に現れた、伝説の美の女神のようだ。


「アストリット様っ!すごくよく似合うよ!お嫁さんみたい…アッ!」

「アス様、王子様はいつ迎えに来るの?求婚されたんでしょ?」

「ヤダよぅ、アス様お嫁に行かないで、ずっとナンセンにいて!」


「う、うん…、心配しないで!私はずっとここにいるから、ね?」


 涙をこぼした少女の(まなじり)をお手製のハンカチで優しく拭ったこのご令嬢は、名をアストリット・グドブランズドーテル=ナンセンという。


 腰まである艶やかでサラサラとしたストレートロングのプラチナブロンド。揺らめく魅惑の瞳は、空の青が霞んで見えるほどに美しい瑠璃色。シミひとつないきめ細やかな肌はウサギのように白く、華奢な体躯(たいく)は思わず抱きしめたくなるような儚さがある。


「…さ、さあッ、風が冷たくなってきたわ、そろそろ…お帰りなさい。また明日、一緒に遊びましょう?」


 アストリットはまだ涙ぐんでいる少女の背をそっと撫でながら立ち上がった。プルプルとした桜色の唇がほんの少し震えているのは、目の前で泣いてしまった子供達の気持ちに触れて…胸を痛めてしまうほどに優しい心根の持ち主であるせいだろう。


「絶対、絶対よ、約束!」

「王都には絶対行かないでね?オーラヴ様のあと継いでね?

「あの王子、女好きってパパが!ちょっと怪しいってママが!」


「うん、約束する。王子様の事は断るし、私はお父様のあとを継ぐって決めているの…明日、きちんとお話…」

「「「ほんとに?!」」」


 つい二秒前まで泣いていたというのに、子供達は目を丸くして手を取り合い喜んでいる。よほどうれしかったのだろう、元気に丘を駆け下りていった。

 それを穏やかに見届けた可憐な乙女は、一人物憂げな表情を浮かべて…丘の上にある砦の中の屋敷に向かった。


 ここは立憲君主制王国ノシュクルのディアヴィナス西岸にある長閑な村ナンセン…、王都から二つほど街を越えた大陸の端にある、資源と人材に恵まれた平和な村である。


 この村をまとめているのは、オーラヴ・グドブランズドーテル=ナンセン辺境伯…アストリットの父である。大きな体と広い心をもち、少々豪快ではあるものの人情家で義理堅い性格で…身分を気にせず心と心が触れ合う統治を始めたのは17年前の事だ。寂れた土地を魅力溢れる村にした最大の功労者は、村民から多大なる信頼を寄せられている。


 娘であるアストリットは、領民と机を並べて学び、労働をし、同じ食事を楽しみ、ここで育った。時に村民たちの孫として、娘として、お姉さんとして、妹として、仲間として、先生として…愛されて、美しく成長した。


 今から17年前、オーラヴがまだ王都で当時第一王子だったハルフダンの護衛をしていた時に、アストリットは生まれた。


 ―――こんな輝きは見たことがありません!

 ―――なに、これは…いったい?!

 ―――落ち着いてください!オーラヴどの!

 ―――わ、私の赤ちゃん、あ、あか…う、ぅう…。

 ―――お、奥さまっ?!気を確かに!


 ノシュクルには、稀に体に輝きを纏って誕生するものがいる。


 その神々しい姿から、『神の呼(かみのこ)』と称される赤子は、生まれる前に神に呼び止められ、世を良くするために尽力せよと使命を与えられた者と伝承される、選ばれし存在である。


 生まれ落ちた瞬間に輝くオーラが身を包み、その光が収まるまでの5分ほどの間に、神から生涯限定で特別な能力…スキルが貸し出されるとされている。スキルは、魔法を発動したり、特定の能力を持っていたり、特殊技術を使えたり、変身できたり、飛ぶことができたり、モノを生み出したりするもので…実に多種多様であった。


 能力を与えられ生まれた、恩恵をもたらす神の呼。すべての神の呼は五歳になる年に王都にある全寮制の【神の呼学園】に入学し、12歳になるまで能力開発をしながら教育を受けることが義務付けられている。力を持つがゆえに、全ての神の呼は…国に保護される運命にあった。手厚い保護と教育を施さねば、おかしな思想に染まって多大なる被害を生む恐れがあるため、監視が必要とされていたのだ。


 神の呼は、纏う光の色の違いで能力を見分ける事が可能とされている。しかしアストリットは生まれ落ちた際、未だかつて一度も見られた事がない桜色の光を纏っており、混乱を呼んだ。出産に立ち会った出生立会師が慌てて【世界神の呼総本山】に連絡を入れ、世界に二人しかいないというスキル鑑定士が緊急派遣される事になった。ノシュクル建国以来、初の出来事である。


 ―――お嬢様のスキルは…〈ゼンブシッテル〉です。

 ―――ゼンブシッテル?!なんだ、それは!

 ―――分かりません、未知の…言語だとしか!


 このヨルドという星の上で一度も確認されたことがない、初お目見えのスキル名に、父オーラヴ、母オースタ、識者、国王…たくさんの人々が、戸惑いを隠せなかった。


 この、聞いた事もなければ、意味も分からない、不思議なスキル。

 愛に満ち溢れたものなのか、悪に通じるものなのか、それとも。


 関係者が集まり、会談を重ねる日々が続いた。


 一般的に、神の呼は生まれてすぐの頃は魔力が安定せずスキルを撒き散らすものであり、それに伴い能力の正体を伺い知ることがほとんどであった。

 ところが、アストリットはごく普通の大人しくて可愛らしい赤子であるだけで、注意深く観察を続けたものの生まれた時に光を纏ったこと以外は、一向に能力らしいものを窺わせる気配がなかった。


 とりあえず物心がつく五歳までは様子を見ることに決まったのだが、初めて出現したスキルに恐れをなし、処分をすべきだ、おかしな存在は幽閉すべきだと声を荒げる者もいた。

 未知の恐怖があるからという根拠のない言いがかりのような理由で命を奪うなど、とても許される事ではない。しかし、不安をあおるような噂があとからあとから湧いて出て…王都に不穏な空気が流れるようになった。


 ―――オーラヴよ、ナンセンの地に赴き、開拓をしてくるのだ!

 ―――大自然あふれる中で、のびのびと娘を育ててみよ!

 ―――あの広大な土地であれば、何かが起きても…王都までは影響がないはずだ!


 王都各所でピリピリとしたムードが漂い誰もが辟易するようになった頃、王がオーラヴに辺境伯の地位を与えた。

 人嫌いの獣人や精霊たちが多く住まう場所であり諍いも多く、誰も好んで訪れようとしない大自然あふれる未開の地…ナンセン。そこにコミュニケーション能力の高いオーラヴを送り込み、開拓と友好の輪を広げるという体で、未知のスキルを持つ幼子を守ろうとしたのだ。


 両親と共にナンセンの地に向かったアストリットは、大変に聡明な赤ん坊だった。


 おずおずと声をあげて粗相を知らせ、愛くるしい肢体を丸めてオムツを替えてもらい、時折中空を澄んだ瞳でぼんやりと見つめながら、何度でも聞きたくなるようなかわいらしい喃語をつぶやき…いつまでも見つめていたい、尊みの極みたるその姿は、実に庇護欲を掻き立たせ、老若男女・精霊・獣人・動物・虫・魚類に菌類までも、虜にした。

 たまに真っ赤になって布団の中に潜り込むこともあったが、それ以外はごく普通に…ぐんぐんと大きくなった。


 苦悩する大人達の心の騒めきを受け止めるかのごとく、穏やかに微笑み、にこやかに接近しては傷ついた者のそばに寄り添い手を握る…愛らしさの塊、癒しそのものであった。


 ただひとつ…無口である事が、両親の気がかりであった。

 いつも微笑んではいるが、ハイとイイエしか言わず、自分の心のうちを話す事が皆無だったのだ。ただ、大人達の言う事はすべて理解しており、難しい話を聞いては時折悲しそうな顔をしたり喜ぶような表情を見せたので、さほど問題視はしていなかった。


 アストリットが三歳の誕生日を迎え、村をあげて盛大なバースデーパーティーが開かれた日の夜、事件が起きた。


「お父様…お話が、ございます」

「…は、はひっ?!」


 オーラヴは、突然書斎を訪問して流暢にしゃべりだしたアストリットの発言に恐れ戦いた。しかし何があっても動じない強靭な心の強さを持つ人物である。目を丸くしつつも、万が一を考えて遮音魔法のろうそくに火をつけ、愛娘と向き合った。


「お父様、私のスキルと運命について詳しくお話いたします。破滅しないためにお父様の力が必要なのです、お願いいたします、どうか…私の話を、お聞き下さい!」


 愛娘が口にしたのは、『この世界はゲームという創造の物語が礎になっている』という、にわかには信じがたい話であった。


 このナンセン…ヨルドという世界および住人は、【チキュウ】という天体にある【ニホン】という国で開発された【オトメゲー】という機械で展開される【クソゲー】と称された物語の中の存在であり、現時点で救いようのない未来が決まっていると語った。アストリットは物語の中で過酷な運命を与えられた【アクヤクレイジョウ】であり、何をしても15年後…18歳で死亡する運命なのだと涙ながらに訴えた。


「私は五歳になって【神の呼学園】に入学いたします。お父様は私がいなくなった寂しさを埋めるために浮気に走り悪い女性に引っかかり、共謀してお母さまを亡き者にし辺境伯を追われます。私が15になる年に聖女が召喚され、後見人であるアルフ・ノルトヴェイトが辺境伯になります。ナンセンは聖女の政策で潰され、瓦礫と魔物の巣窟になります。私はこの村を守ろうと孤軍奮闘するのですが、お父様もお母様も味方もいなくて…極悪聖女の悪巧みによって追い詰められてしまうのです。純真無垢を装う肉食系聖女の薄っぺらい筋書きに巻き込まれて悪役令嬢として生きることになり、第一王子ソフス、魔術省トップのトリグヴェ、獣人王の息子ハルワルド、異世界人のヤスオに振り回された挙句、最後はどうやっても断罪イベントののちに毒殺、撲殺、幽閉、(おもり)を付けられてヤイツダンド海に放り投げられる事になってしまうのです」


 愛娘の告白を聞き、オーラヴは混乱を隠せなかった。


「むう…それは想像の賜物である可能性はないのか?スキルのせいでおかしな記憶を植えつけられているとか」


 自分は妻オースタを心から愛しているし、娘がいなくなったぐらいで見ず知らずのババアに手を出すことなどありえない、そう考えたのだ。


「では、私の話を信じていただけるよう、心苦しいのですがお父様には耳が痛いお話をお伝えさせていただきます。お父様の初体験は38歳年上のシグリさんで今でもたまに。初恋の家庭教師のマッタさんは男の娘。ベッドの下に愛用の女装グッズ各種が隠してある。お母様との馴れ初めは女装っ子コスプレパーティーの痴漢露出プレイ。いけないバイトの宣材写真および自己満足プレイの記録は引き出しにあるスイッチを…」

「ちょ!なな、はひょふぇっ…?!」


 愛娘が椅子によじ登って、三重にロックをしてある重厚な引き出しをいとも簡単に開けた瞬間、変態違った父は思わずみっともない声をあげて頭を抱えた。


「私は…お父様の隠したい部分も自慢したい気持ちもイェンス牧師との事もどんなプレイが好みなのかも嫉妬に狂ってエロ悪魔と契約するお母様の事も世界の破滅も全部知っているんです!そういうスキルだから!運命はお父様が私の話を信じて共に戦って下さったら変える事ができるはずなの!お願い!私の話を…信じて!」


 己の性癖を把握された動揺はあったものの、オーラヴは泣いて訴える幼い愛娘の言葉を信じる事しかできなかったのである。


 かくして、父と娘の二人三脚の挑戦が始まった。

 これから起こりうる展開を尽く潰していけるようあらゆる事態を想定し、根回しをし、生きる道を探る日々。


 親子はまず、ナンセンの改革をすることから始めた。この大自然しかない場所を愛と魅力に溢れる憧れの地にする事で、荒廃してしまう未来を潰そうと考えたのだ。

 スキル〈ゼンブシッテル〉を駆使し、水脈や埋蔵物の在り処、古代魔法の詠唱文言、力になってくれる精霊の居場所、言葉の通じない種族との交流方法、相容れない種族との距離の取り方…知りたいと思うことはすべて知識となった。オーラヴ一人で持て余していた村の改革は、一気に加速した。


 住人達と共に花を植え、土を均し、領地を区画分けして都市計画をたて、毎日に張りが出るような生き生きとした村にするため心血を注ぎ…やがて努力はすべて実を結んだ。

 ただ広くて殺伐としていただけのナンセンは、人々の心を癒し英気を養う場所となり、住む者たちはみな明るく前を向き、子供達の笑い声が溢れる村になった。


 アストリットが五歳になる頃には村全体のマップが完成し、様々な種族との棲み分けや友好関係が成立し、産業の基礎、娯楽施設などの計画などがすべて整った。


 全てが順調であったかのように思えたが、予想外の出来事がいくつか起きた。


 母オースタが、獣人の青年と浮気をして出て行った。ゲームの筋書きが変わった為なのか、性癖バレを恐れた父が仲間外れにして政策を行った為なのかはわからない。

【神の呼学園】への入学がなくなった。アストリットが何一つスキルらしい能力を披露しなかった事と、父の前以外では極端に口数の少ない…ただの平凡な少女を貫いていた結果である。入学を免れたアストリットは少しおしゃべりになった。


 この世界の礎となった伝説のクソゲー【アナタと転生~こんな僕でも愛してくれる?~】は、おかしな性癖をもつイケメン達と聖女が『健全な恋愛しか認めない悪役令嬢』に邪魔されながらプラトニックラブを貫く乙女ゲーである。癖の強すぎるシナリオを進めると、紆余曲折ののち結ばれ、更なる高みを目指そうと二人揃って懐が深い現代日本のオタ街に転生を目論み、星を大爆発させて二人の愛よ永遠に…で終わってしまうというトンデモゲームだ。


 つまり、聖女が召喚されてしまったら、即この星ヨルドの滅びが決定する。


 聖女を召喚するのは、アストリットを排除せよと声をあげたアルフ・ノルトヴェイトである。オーラヴの人気を妬み、勝手に恨んで全部潰してしまえと暴走した結果、破滅の元凶を呼び寄せる事になる。

 アルフはイケメンのくせに奥手とヘタレをダブルで拗らせている受身100%の男だ。ゲームの中ですんなり聖女の嘘を信じるくらい女性慣れしておらず、声をかけてくれた人をすぐに好きになってしまうほどに飢えていた。

 そこで肉食系のウサギ獣人の女子を紹介したところ、あっという間に幸せな温かい家庭を築いて五人の子持ちになり、子育てに追われるようになった。


 そして…アストリットが16歳を目前に控えた日の朝、聖女が来ないことが確定した。


 聖女の召喚の儀式は、青い月が白い星に隠れる年の満月の夜…アストリットが15の年の、3月と8月にしか行う事ができない。次に召喚の儀式ができるのは80年後、その頃には…悪役令嬢と呼ばれない可能性が高い。


 山場は、越えた。


 しかし何がどう影響しておかしな展開になるかわからない。母親の一件もありアストリットは気を抜こうとはしなかった。聖女(プレイヤー)の攻略対象だった男子との縁をしっかり潰していく事にした。


 魔術省トップのトリグヴェには、軟体タコキメラの女子を充てがった。触手ラブの拘束オタクは、あっという間に吸盤付き触手の虜になって所帯を持ち、若くして24匹のミニタコちゃんたちのパパになった。


 獣人王の息子ハルワルドに、スライム系エルフミックス女子を紹介した。愛する者をかじりたくなる癖は、スライム女子の無限分裂スキルのおかげで心行くまで堪能できているらしい。


 異世界人のヤスオはハーレムモノのラノベが大好きと判明したので、牡を種族で共有するタイプの女子とお見合いさせた。日替わりで美女たちとデートを重ねて喜んでおり、もう間もなく巣に持ち帰られて…一生大切にしてもらえることになりそうだ。


 第一王子ソフスには、今恋人がいる。幼馴染のゴリマッチョ、ニルスである。深く愛し合う二人は…ゲームの中でBLは許さんと王に言われて逆切れし、事故を起こしたのち闇落ち展開だったのだが、今はとても幸せそうだ。偽装結婚の打診がアストリットの元に届いたので、頭の痛い問題にはなっているのだが…。


 クソゲー世界の悪役令嬢という運命を乗り越えて…今、まだ誰も知らない物語の主人公として生きて行く事になったアストリット。


「…私が誰かとお付き合いして、結婚すれば問題解決なのよね」


 美しく可憐で、運命を乗り越える強さを備えたアストリットと、恋に落ちる、…誰か。


「……誰かいないかな!私の事を見つめて、好きだと言って、そばにいてくれるような、人」


 願わくばこのまま、誰とも恋に落ちずに…アストリットの自由な物語を綴っていってほしい。


「…もう、見つかってるんだけどな」


 アストリットが少し頬をピンク色に染めて…空?を、見上げている。


「私…〈ゼンブシッテル〉スキル持ちなんだよ?」


 青い瞳が、見つめて…いるのは?


「ナレーションの…その声、聞こえてるの!」


 …。


 ……?!


「全部、丸聞こえ…ナレーションになってない心の声もゼンブシッテルの!ずっと黙ってたけど…全部バレバレなんだからね?!ずっと私に見惚れて、大喜びしてっ!オムツ替え見ていやらしい事考えてたでしょ?!私のドレスの隙間から谷間を見てお宝認定したでしょ?!どれだけ恥ずかしい思いをした事かっ!この物語…初めから読み返してごらんなさいよっ!」


 ッ、ちょ…、はい?!


「私はのぞかれる人生じゃなくて…一緒に並んで、一緒に時間を過ごして、一緒にいろんな事を楽しんだりしたいんだけど!」 


 で、でも、ただのナレーションで!登場人物じゃないっていうかっ!


「貴方のスキルはね、〈ナレーション〉なの!私の物語をナレーションするのに必死過ぎて気付いてないけど!」


 スキル〈ナレーション〉、まさか、登場…人物?!


「私が頑張って必死になって悪役令嬢の役を降りたように!貴方もナレーションの役目を降りたらいいのよ!」


 そ、そんな事って…?!


「…いい加減私に告白しなさいよっ!好きなんでしょ?!私の事っ!」


 す、好き、好きすぎます、ひゃい!!!


「とりあえず…私の事、抱きしめなさいよ!寂しいんだからね?…こう見えてもっ!」


 真っ赤になって力説しているアストリット…生ツンデレだ!かわいすぎる!


「聞こえてるっ!あーも―!早くこっちに来て!」


 …()は!


 必ず彼女を幸せにすると、決めた!


「ナレーションの役目を放り出し、愛する人の元に…えっと、そのう…、あ、愛しっ、うわあ、かわいすぐる、はぅう…♡生あちゅたんまじカワユス!きゅぅうん♡はう、はぅう♡スキ、スキスキだいちゅき♡」


「ちょっ…!思ってる事、全部言わないで?!あんまり残念過ぎるセリフばかり言ってると…いくらイケメンでもキライになっちゃうから気を付けなさいよっ!人間になったし、きちんとその口で!私への愛をっ!伝えてくれなきゃ、ダメなんだからねっ?!」


「…僕は、この先必ずアストリットを守り続けると心に誓って、そっと桜色の唇に…キスを落とそうと…」


 …ナレーションの癖が抜けない、情けない男を見上げた…最愛の人は。


 はにかみながら、腕の中で…そっと目を、閉じた。


コチラなんと連載作品になりました(*´−`)

よろしければご覧ください。

タイトル:イケボに24時間365日監視実況されてます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] オチにびっくりしました! まさかそっちと結ばれるとは……! アイデアがすごいです。
[良い点] 序盤のお耽美さが嘘のような中盤からの怒涛の展開…面白かったです。 みんななかなかの性癖の持ち主ですが、幸せそうで何よりです。
[良い点] すごい。悪役令嬢への転生ものは多々ありますが、ナレーターと結ばれるのはめずらしいですね。 (まさか、なろう初?)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ