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第3話 綺羅星の如く、彗星の如く

 一人目がかぐやの前に連れてこられる。彼の名はG・S・アシーナ、ただ彼の場合は「顔無し」(ノーフェイス)という名前のほうが有名である。

世界各地で絵を描き、詩を詠う、世界で最も著名な芸術家である。有名だが一切顔を出すことなく、メディアなどへの露出もない「厭世の孤独な芸術家」、それが世間から彼への評価である。でもそれは正しくない。正確には人が怖い、動物が怖い、すべてが怖い、究極の怖がりである。怖がりゆえに幼いころから誰にも関わらず、それゆえに誰も彼の動向も素性も見つけられなかった。でも彼にはそれを補って余りある芸術への天賦の才能があった。詩を詠めば万の民衆が飛びつき、絵を描けば億を超える金が右から左へと動く。

そんな彼が唯一誰かを求めた。それがかぐやであった。自分と同等の才能を持ち、同等以上に世間に認められている彼女には恐怖を超えた好奇、いや親愛を示した。だからこそ彼は自分を隠し続けたベールを自ら脱ぎ捨てた。


「は、初めまして。かぐやさん」

「ふん、あんたが顔無しとやら?」

「はい、お会いできて光栄です」

「ふぅん、存外に小心者なのね。まぁこの際、そんなことはどうでもいいのよね」

この場で必要なのは身体や心根ではない。かぐやへの愛を認められること。手段も理由も問わない。要は気に入られればいいだけである。

「それで?何となく想像はつくけど。あなたは私への愛をどうやって示すわけ?」

「ええ、あなたのご想像通りです。あなたへの愛を私は絵と詩で表して見せます」

「へぇ?」

「幸いこうして今日あなたに直に会うことが出来ました。お任せください。私の愛、余すことなく表して見せます」

「ふぅん。どれぐらい時間があればいいのかしら?」

「一週間もいただければ作り上げて見せます」

「いいでしょう。必要なものは全て用意するわ。私を魅せてみなさい。顔無し!」


退室する顔無しを見送り、その美貌が実に酷薄に薄ら笑う。

「顔もない分際でどれだけの物を見せてくれるのか楽しみね」

「お嬢様」

「分かってるわ、こんな顔どこにも出すわけないでしょ」



 そして約束の一週間が過ぎた。彼は文字通り魂を注いでその作品を作った。彼の言った作品は完成することもなく、提出されることもなかった。彼は何一つ言葉を発することなく、かぐやに会うこともなく、家を退出した。

そしてその足で入水し、二度と帰ることはなかった。今ゴッホと謳われた天才は彼女の美に何を見、何を感じたのか誰にも伝えることなくその生涯を閉じた。


一人目が脱落したことはすぐに報道され、世間は天才の喪失を嘆き悲しんだ。そしてすぐに次の候補者へと興味を向けた。世界が望んだのは結果のみであって、脱落者のその後に興味などない。そして始まる次のショーに気を取られ、全ては忘却の彼方に追いやられる。

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