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3−3

 そそくさと、その場を後にするリオンの親戚の背中を見送っていると、リオンが私の隣に並んだ。そして、私と同じく娘の去りゆく背中を眺めながら、呆れたような口調で、こう言った。


「浅はかなんだから、あんまり虐めてやるな」


 庇いもしなかった貴方が言うことじゃないと思いますがね。


 ……まあ、あの子は多分、家督がどうのこうのといった政治的なことではなく、リオンに近い位置にいる私のことが目に障っただけだろう。

 そんなこと、心配する必要ないのに。


「貴方が優しくしてあげれば丸く収まったのでは?」

「誤解されたくないし、子供には興味ない」


 ほー。誰か誤解されたくないような相手でもいるのだろうか。初耳だ。私が協力してあげるから、是非教えてほしいものだ。しかし、これだけは言っておきたい。


「私から見れば、貴方も子供だけど」

「六歳の歳の差なんて、同年代の範囲内だろう!?」


 即座に反論された。

 別に私から子供扱いされたからって、リオンにとっては何の問題もないはずだし、そんなにムキにならなくても。


 それはともかく。


「やっぱり貴方が、こんなことしちゃダメだよって、やんわりと言ってあげたら角が立たなかったんじゃない?」

「そんなことをしたら、俺がいないところで、お前に突っかかっていくだけだ」


 んー。確かに、それもそうかもしれない。


「お前に完膚なきまで叩きのめされて、エレナ怖い、近寄るべからずって思わせないと収まらないだろう?」

「私は怖くないですよ」


 即座に訂正しておいた。私は人畜無害です。


「ん? 何か言ったか?」


 真実を訴えただけなのに、華麗に流された。どうしてだろう。私が首を捻っていると、リオンが溜め息混じりに口を開く。


「というか、お前、名前ぐらい覚えてやったらどうだ?」

「ちゃんと個体は認識しています。リオンのお祖父様のお父様の弟の妻のお兄様の子供の従兄弟のお孫さん、よね」

「そっちの方が覚えにくいだろう……」


 心底呆れた、という顔で突っ込まれた。





 さて、私はリオンと別れ、一旦、自分の部屋に戻ってきた。

 そして、ここまで持ってきた黒ずんだ指輪を机の上に置いた後、金庫の前に立った。


「……」


 鍵がかかっていない金庫。大事なものは、ほとんど置いていなかったけれど、唯一、隠していたものがある。


 私は、金庫の二重底になっている部分をそっと取り外す。その中には番号錠がかかった引き出しがあり、私はそれを解錠した。


 中に入っているのは、一通の手紙だけだ。念のため引き出しの上に貼り付けておいたのだけれど、ジーク様から私に宛てられたものだった。

 何度か読んだそれを、私は、もう一度、読む。



『親愛なるエレナへ


 君が、この手紙を読んでいるということは、私は、もうこの世にいないということだろう。君には苦労をかけることになる。すまない。


 リオンは私の唯一の息子だが、君も知るとおり親族があのようだから、周りに信用できる者が少ない。他にも懸念すべきことが、数多くある。

 どうか、エレナ。君がリオンを側で支えてやってくれないか。リオンが本音で話せる相手は、君しかいないのだ。


 どうか、よろしく頼む』



 実際の手紙は、もっと長いんだけど、要約すると、こんなところだ。

 なお、私がこれを読んだのは、ジーク様が亡くなった日の翌日だった。ジーク様直属の使用人ラーラから渡された。

 この「リオンを支えてやってくれ」というのは、もっと精神的なもので、たまに話し相手にでもなってほしいとか、そういった類のものだと思っていたんだけど。


(なかなかの実力行使でしたよ、ジーク様)


 まさか遺言に明記しているなんて思わないですし。


(それにしても……)


 改めて考える。

 ジーク様は、どうやら己の死期を感じていたようで、だからこそ、こうして手紙を残すことができたわけだが。


(ご病気だったなんて……)


 しかし、こうも思う。病の事実を誰もーー息子すら知っていなかったなんて、何故だろう、と。また、どうして、そこまでして隠し通したのだろう、と。

 だけど、余計な詮索はやめておきたいとも思う。何故ならジーク様は、その死を受け入れていたのだから。


 しかしジーク様。遺言の件については、やっぱり、ちゃんとリオンの意思を確認しておくべきだったと思うのです。


 そもそも本音で話せる相手と書いてあるけれど、嫌われているから、ずけずけとものを言われているだけのような気もする。あんなに私とジーク様の婚約を反対していたし。


(あ、そういえば……)


 一つ、確認しておきたいことがあるから、もう一度リオンの部屋に行こう。

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