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梨田 泰造 Ⅲ

 妻のニュースを聞いてからかなりの時間が経っていたようで、私が海岸へ向かう為に外へ出ると、ほんのりと白みがかった世界が広がっていた。


 始発に近い電車を乗り継いで現れたその海岸は朝の陽光を弾かせキラキラとしていた。その生き生きとした輝きは自分の仄暗い心境をより際立たせているように感じさせていた。


 この海岸はタイムマシーンのプロジェクトへの参加や仕事が忙しく煮詰まっている時に妻が提案してくれて一緒に出掛けた海岸で、妻のお気に入りの海岸だった。


 砂浜は縦にそれほど長くはなく、階段状の堤防がありそこに腰かけて海を見ながら話をしていた。穏やかな海は毎日に追われるように生活している私の心をのんびりとした気持ちにさせてくれた。


「あなたの仕事はみんなを幸せにする可能性を秘めていると思うの」


 食べ物を狙う上空のトンビを気にしながら持参したサンドウィッチを食べている時、不意に妻は言った。


「どうしました? 急に」

「いいから黙って聞いて……、あなたが頑張ってお仕事する事で、今後救われる事になる人がたくさん出てくるわ。あなたはそんな人たちの支えになっていくと思う」

「そうですねぇ。そうやって多くの人の為になると思うと頑張る事が出来ますよ」

「じゃあ、そうやって頑張っているあなたは誰に支えてもらえばいいと思う?」

「誰に支えてもらえばいい……か」

「だからね、私はあなたを支えてあげたいの。あなたがみんなの為に頑張ってくれているから、私はあなたの為に出来る事はたくさんやってあげたいと思っているわ。それがあなたの為……ひいては多くの人の為になると思うから」


 妻は私が仕事と、家族との時間の両立にうまく出来ていないと感じている事を見かねてこう言ってくれたのだろう。どんな時も私がそばにいてあなたを支えてあげるわ、だからめい一杯仕事や研究に打ち込んでくれてもいいよと言ってくれていたのだと捉えていた。


 実際妻は献身的に私を支えてくれていた。私がそこまで諸々の事を気にせず仕事に打ち込む事が出来たのもひとえに妻のおかげであった。


 しかし、そう言ってくれた妻に私は何一つしてあげる事が出来なかった。更に今回の出来事だ。今まで妻の為に何もしてあげられなかった私が、今彼女の為にできる事はなんなのだろう。


 未来への希望をなくしたこの私が出来ること。


 以前は二人で座っていたこの堤防に、今は一人で座っている。そう、私は過去に来ている――妻のいなくなってしまった過去だ。もうこの過去は変えようがない。

 

 つまりそれは、妻が生きている人生がない事を示している。以前二人で座って話していた時はあんなにも温かい気持ちでいたのに、今は凍えるように寒さに震えるような気持になっている。もう妻は戻らない、その事が頭の中をグルグルと回っている。その回転は徐々に加速し、熱を帯び、私の気持ちに火種を落とした。その火種は回転によって更に煽られまるで炎が燃え上がるかのように速く、そして強く大きな炎へと変貌した。


――あの男を私の手で……、それが私が妻に出来る最後の事だ……。


 私は決心した。私の手で復讐を成し遂げる事が妻に対して今の私が出来る唯一の事だろう。そうと決まれば犯人の居場所を突き止めなくてはならない。警察から逃げ切った男だ、未だにあの辺をうろちょろしているとも思えない。ましてはあの町からすぐに逃げだしてしまっている可能性も高い。


 私はそう心を決めると、妻と過ごした思い出の海岸を後にした。辺りは既に夕暮れになっている。妻の死を知って以来、思案する事が多く知らぬ間に長い時間が経ってしまっている。多くの時間が流れてしまえばそれだけ犯人にも逃げる時間を与えてしまっている事になる。焦る気持ちそのままに事件のあったあの町へ戻った。


 まずは北野さんから情報を聞き出そうとコンビニへ行くが今日も22時からという事で不発だった。北野さんにしても犯人の男とはコンビニ店員と客の間柄のみなので情報はあまり期待できないだろう。


 周辺に聞き込みといっても事件から日が浅い為警察もかなりの人員が動いているだろうし、過去では異質な存在の私が目立った行動をとる事も出来ないだろう。


 犯人への復讐を決めたはいいが、情報のなさにより八方塞がりとなり、途方に暮れながら歩いていると事件現場付近を歩いていた。カフェの周辺は規制線が張られており、警察や報道関係者でごった返していた。


 現場を目の当たりにする事で、テレビから得ていた情報だけの状況よりもリアリティが高まり、途方に暮れていた私の心に再び激しい炎が灯った。


――なんとかしなくては……。これでは妻に申し訳がたたない。


 歩き回っていても情報を得る事が出来そうになかった為、一度ホテルへと戻る事にした。


 部屋でテレビをつけると例のニュースが流れていたがめぼしい進展は無いようだった。捕まってしまえば私が直接手を下す事が出来なくなるので、捕まっていない情報はありがたいのだが犯人に対する情報が少しでも欲しかった。


 何しろ顔をチラッと見ただけでその他の情報がなさすぎる。現在でもっと注意深く犯人が捕まったニュースを確認していれば良かったと後悔した。


 そう思った所で閃きが働いた。


――現在で情報を集めてもらえばいいのではないだろうか? 犯人の名前や出身地などは逮捕されている現在なら手に入れる事は可能ではないか?


 私は自らの閃きに感謝し、現在と繋がっている事を最大限に活かそうと考えた。


「所長! なかなか連絡がないので心配しましたよ」

「おぉ、西島さん。すみません。なかなか連絡が出来ずに。ちょっとお願い事がありまして……」


 WB LIEに電話して作戦に失敗した事を話した。流石に妻が助からなかった事を伝えた時は絶句していた。私の事を親身になって考えてくれている事に私は多少なりとも救われる気がした。


 ただ、今は感傷に浸ってい場合ではないと自分に言い聞かせた。私の目的はあの男への復讐なのだ。


 しかし、復讐を企だてていると言ってもあの二人は手伝ってくれないだろうと察していた。


「私はあの犯人を逮捕してもらいたいと考えています。なので、警察に提供できる情報をそちらの時代で見つけてきて欲しいのです」

「なるほど! その情報を元に過去で捕まえてもらおうって事ですね! どんな情報が必要ですか?」

「犯人の地元や捕まった周辺などで過去に犯人が潜伏していそうな場所の聞込みをお願い致します」

「了解です! 何か分かったらすぐ連絡しますね!」


 そして電話をきると私の為に頑張ってくれる現在のWB LIEの二人には悪いと思いつつ、これからの戦いに備えて就寝する事にした。

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