塀の猫
玄関を開けて数分
いつも塀の上にいる
「おい、何見てんだよ」
完全に八つ当たりではあった
自覚はあった
それでも当たった
「・・・」
猫からの返答はない
そりゃそうだ
人間の言葉なんて通じない
雨の日もそいつはいた
「おい」
「なにしてんだよ」
言葉が通じないことを良いことに
ここで鬱憤を晴らすことにする
「最近さ・・」
独り言のように話し始めた
そいつはずっと無視を決め込んで、
ただじっとこっちを見ている
「じゃあな」
塀を後にする
そんな日々が毎日続いた
人間関係の悩み
上手くいかない仕事
将来の不安
家族のゴタゴタ
ありとあらゆる事を話した
返事をしないことがありがたく
ずっと話していたいと感じていた
そいつはいつもいた
こっちを見ている
「おい」
いつもの挨拶
「なんで、いつもこっちを見るんだよ」
「ニャー」
驚いたことに返事が返ってきた
するとどこかに歩いて行ってしまった
なんだよと思いながら
仕方がないので
話すのを明日にしようと思った
会社に向かう
次の日
そいつはいなかった
いつものように塀を見上げる
「おい」
癖になっていた
いなくても気が付いたときには声に出ていた
慌てて周りを見渡す
誰もいないし、何もいない
肩を落として会社に向かう
自分でも毎朝会えること
それが楽しみになっていることに気が付いた
何を言うわけでもなく
ただじっとこちらを見ているだけだけれど
それが良かった
新しく社会人になれたのだが
上手くいかなかった
自分は出来るやつだと思っていたから
なおのこと
頭を下げる
「すいませんでした」
そういう度に少しずつ
上げる顔の角度が下がっていった
俯く道端
そんなときに君に会った
どんな話でも聞いてもらえている気がして
肯定してくれてるような気がした僕は
浮かれていたし
顔も上を向けるようになっていた
君がいなくて
もう数週間がたとうとしていた
僕はと言うと
会社でもようやく褒められることがあった
君のおかげだねなんて
君も褒められているような気がして
倍嬉しかった
もしかしたら、君は気付いたのかも知れない
僕がもう一人で大丈夫だって
僕はもう少しいてほしかったけどね
でも君からもらったエール
忘れないで頑張るよ
「また辛くなったら話しても良いかな?」
君がいたはずの塀を見て思う
終わり
あなたにとっての塀の猫はなんですか?
もしよければ教えてください。




