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火の使用を禁じらた世界  作者: 兜 九郎
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序章

2045年 銀座


あたり一面倒壊した建物の瓦礫と焦土と化した銀座四丁目の倒壊したビルの上に一人の男が立っている。倒壊したビルには倒壊後に人為的に置かれた時計がかつてここがの銀座のシンボルだった和光の面影を残していた。男はタバコを吸いながら瓦礫から物資を掘り起こしてる10人ほどの部下を見守っていた。


一人の少女が瓦礫を登って男の後ろから近づいてきた。少女の身なりは良く下で作業している者たちとは身分が違うように見えた。


「隊長さん、私にもなにか仕事ないかしら?」


隊長と呼ばれた男が振り返ると少女はぎょっとした表情で

「タバコなんて吸って!死にたいんですか!」

とたしなめた。


男はタバコを少女の前に差し出し

「電子タバコ」

と悪びれる様子もなく吸い続けた。


少女は憮然とした表情で

「電子機器も大気爆発の火種になるから禁止のはずでしょ?」

と食い下がった。


男はため息をつくと

「電子機器が爆発の火種になることはまれだが 

ま、いいでしょう。大事なお客様だから従いましょう」

と言って電子タバコをしまった。


「地上は廃墟ばかりね。父から言われてきたけど一体なにを見せたいのかしら?」


「お嬢さん、地上は初めてかい?」


「ええ、そうよ」


「学校で教っただろう?20年ほど前に突如大気が可燃性ガスに変質し、焦土と化したことを」


「ええ、習ったわ。でも原因は今でも不明なのでしょう?」


「一般的には環境破壊の影響と言われているが、陰謀論者の連中は米中戦争を止めるために武器を使えなくするために何者かが人為的に科学物質を大気に放出した結果だと信じてるようだな。


ま、君の親父さんの依頼で連れてきてるのだからよーく地上の状況を見ておくんだな」


「隊長さんは陰謀論を信じているの?」


「まさか。だがこの大気おかげであらゆる武器が使えなくなったおかげで有史以来地球上から戦争がなくなったのは事実だ。世界中の大気が核爆弾の次に破壊力がある気化爆弾の着火前の状態になっちまったからな。銃弾一発でその一体は大爆発だ。戦争がなくなった代償が世界人口の90%以上が焼け死んだのはあまりにも代償が大きすぎる。ハイリスクすぎて陰謀論はありえないだろう」


「地上の様子は想像と違っていたかい?」

男が少女に訪ねた。


「そうね。実情は授業で習っていたけど映画をみてるととても信じられなかった」


「そうだろう。我々は君たちが観たりたり読んだりする映画や本を地上から持ち帰る仕事をしているんだ。それは命の危険と隣り合わせな大変な仕事だ」


少女が

「私は・・・」

と言いかけたときに男は会話を遮った。


「下が騒がしいな」

そう言うと瓦礫の上から下の様子をうかがった。


「またか。歌舞伎町の盗人どもめ」

そう吐き捨てると


「いいかお嬢さん、ここから動くなよ。俺はこれから下のもめごとの対処をしなければならない」

そういうと双眼鏡とトランシーバーを渡しながら


「ここからが本当の社会科見学だ。よく見ておきな」

そう告げると男は下に降りて行った。


現場に向かうと3人の男たちが手にライターを持ち、男の部下たちに掘り出した物資を渡すように迫っていた。


「副長、彼らは?」

若い長髪の男に声をかけた。


「あ、隊長。彼らが我々の物資を引き渡せと脅してきています」


「なるほど」

男は彼らの手にあるライターを凝視しガスが入っているのか確認したが、握りこまれているので見えなかった。


「おい、君たち。穏便に話し合おうじゃないか?私はこの物資調達隊の隊長の佐藤だ。

君たちの要求を聞こうじゃないか」


3人のライターを持った男のリーダーと思われる者がライターを突き出しながら

「こ、こちらも爆死は本意ではない。そ、そちらの物資をすべて渡してほしい。

物資を持ち帰らないとコミュニティーで待つ家族が危険な目にあう」


彼らの言い分から歌舞伎町一体と新宿サブナード地下街を拠点とする歌舞伎町コミュニティーの一員と推測できる。


「君たちは歌舞伎町コミュニティーの住民だな?」


「そ、そうだ。そこまで知っているならわかるだろう?我々の立場が」


「ああ、ヤクザどもが牛耳ってるのだろう。大方家族を人質に取られて物資調達をやらされてるのだろう。違うか?」


「そうだ、だから手ぶらで帰れないのだ。そこまで理解しているなら物資を渡してほしい」

歌舞伎町コミュニティーの男たちは今にも泣き崩れそうな状態だがライターから指を離してはいなかった。


「隊長、全部渡すのはダメですよ。アレが見つかったからアレは持ち帰らないと」

副長が隊長に耳打ちをした。


隊長は副長の顔を見ると副長は軽くうなずいた。


今回の物資発掘作業の目的のブツがみつかったとなると危険を犯しても死守する必要がある。


「わかった。食料や衣類、食器などはすべて渡そう。だが本は渡せない。それで手を打ってくれ」

そう言いながらどこかに手で合図を送った。


「・・・わかった。それでいい」

こわばったリーダー格の男の表情が少しゆるみ、

その右隣りにいた男も


「よかった。これで家族の元に帰れる」

と涙ぐんだ。


部下たちが物資を彼らに渡そうとしたとき

もう一人の男がケチをつけてきた。


「ちょっと待て!渡せないという本を見せてみろ!」

そう言いながら本が積まれた台車に近づいてきた。


副長が口パクで合図をおくるが隊長は首を横に振った。


「どれどれ、本と言っても漫画が多いな。」

そう言いながら本をひっくり返していく。ある漫画に目が留まり男が叫んだ。


「これは!ワンダーピースの152巻じゃないか!」


ワンダーピースとは国民的人気のある漫画で最新152巻発売数日前に可燃性ガスが全世界に広まっため店頭に並ばず消失した幻の一冊である。あらゆる産業・生産設備が崩壊した世界では


歌舞伎町の男たちは色めきだった。

「なあ、佐藤隊長さんよ。他の物はいらないからこれはいただいてくぜ」

歌舞伎町の男たちはライターを突き出し迫ってきた。


その時、どこからともなく弓矢が放たれ歌舞伎町の3人の腕を貫いた。

男たちはうめき声をあげライターを手放した。

その刹那、隊長が手を挙げると一斉に部下たちが3人に飛び掛かった。


ここで大きな誤算があった。彼らの武器がライターだけではなかったのだ。

一人が銃を抜き発砲した。銃口が火を噴いた瞬間、それを着火点として大気爆発が起きその場にいた全員が吹き飛んだ。





銀座からほど近い倒壊したNTT霞が関ビルの瓦礫を取り除いた入り口の前に自衛隊の歩哨が立っている。彼らは89式小銃に銃剣を装着している。


「なあ、さっきでかいのがあったから今日は誰も戻ってこないんじゃないか」


「だとしても俺たちの役目は変わらないだろ。交代まで集中しろ」


「了解!」


「しっ誰か来た。止まれ!お前たちは何者だ!」


「物資回収業者の佐藤だ!」


「佐藤さんか、ご苦労様です。先度爆発がありましたが大丈夫でしたか?」


佐藤隊長はドックタグを歩哨に見せた。

「直撃食らったよ。おげで7名死亡だ」


「それは大変でしたね。では帰還手続きをします」

と淡々と手続きを始めた。


社会科見学の少女が彼らに嚙みついた。

「大勢の人が亡くなったんですよ。なんでそんなに冷静でいられるんですか!」


歩哨に自衛隊員がきょとんとした表情で

「この子はなにを怒っているんですか?それにこの子は誰?」


「この子は民自党幹事長の娘さんだよ。今日はじめて地上にでたんだよ」


「ああ、なるほど。箱入りならぬとう道入り娘ですね」


「そう言うことだ」


歩哨と佐藤隊の生き残りが笑い出すと少女は不機嫌な顔をしていた。


「手続き完了しました。ではどうそ」

歩哨がゲートをとしてくれたので佐藤隊長、副長、歌舞伎町盗賊を弓で射た3名の隊員、少女の6名が現在の首都「とう道」に降りて行った。


とう道とはNTTの電話および光回線のインフラを収容する地下トンネルである。東京都の地下50mの大深度にあり最深部は大江戸線の六本木一丁目駅よりも深い。全長290kmにもおよぶため生き残った日本国民の生活の場となっている。


「とう道に戻るときはいつもドキドキしますね」

副長がふざけた口調で話すと


「なんだ、お前は高所恐怖症がまだ治らないのか」

と隊長がいじるように返した。


「そうなんですよ。あの格子床で下が見えるのがどうにも・・・」


「確かにな。とう道は高所恐怖症、閉所恐怖症、暗所恐怖症の人には地獄のような環境だからな」


「そうですね。でも地上はもっと地獄ですよ」


「じゃあ東京駅とか新宿駅のコミュニティーに行くか?」


「駅地下街もねー。浅いから」


たわいもない雑談をしていると最深部に到着した。


「じゃあ副長は先に事務所に戻ってくれ。俺はお嬢さんを送っていく」


「了解しました」





地上では国会議事堂があった場所の地下に議員向けの居住区がある。佐藤隊長は少女を父親のもとに送り届けた。


「佐藤さんご苦労様です。明美も無事でよかった。銀座で爆発があったと報告があったので心配したよ」

と松岡民自党幹事長が出迎えた。


「で、佐藤さん、収穫はりましたか?」


「はい。ご希望のものを手に入れました」

と7名の犠牲を出しながら手に入れた「ワンダーピース152巻」を手渡した。


「おお!これだよこれ!ありがとう」

松岡幹事長は佐藤隊長の手を取り感謝の意を示した。


「お父さん!説明して!」

明美が大きな声で怒鳴ると


「ああ。佐藤さん、娘は地上のことを理解しました?」


「どうでしょう?歌舞伎町の盗人と遭遇して現実は見たと思いますよ」


「そうですか。佐藤さん、娘と話があるので席を外してもらえますか?」


「了解した。事務所に戻りますので報酬は予定通りお願います」

そう言ってたちさった。


しばしの沈黙の後、

「お父さん、その漫画がそんなに大事なものなの?その漫画のために7人が犠牲に、いや、略奪者とはいえ歌舞伎町の人たちを含めて10人も犠牲になってるのよ!」

明美は怒りをあらわに父に詰め寄った。


「いいかい、よく聞いて。この地下社会では娯楽が最大の武器になるのだよ。ローマ帝国のパンとサーカスと同じだ。地下暮らしではろくな運動もできず、やることもないので人々の精神的ストレスは大変なものだ。それをひと時忘れることができる娯楽が本や漫画、映画、ゲームなどインドアの娯楽だ。より多くの娯楽を国民に提供できる者が政治家として力となるのさ」


「そんなことのために人が死んでもいいっていうの!」

娘の問いに父は非常な言葉を言い放った。


「漫画一冊は人の命より重い」


「そ、そんなこと・・・」


「お前はいずれ私の地盤を引き継いでもらう。そのために今日地上の現実を見てもらった。わかってほしい」





「隊長、松岡さんに全部渡さなくてよかったんですかね?」

副長はワンダーピース152巻を読みながら佐藤隊長に問いかけた。


「冊数は依頼に入ってないからな。こいつは別の依頼があればそちらに回すか、まあ、有効に使うさ。今の世の中漫画よりも人の命が軽いからな。狂ってるよまったく」

そう言いながら事務所内の今まで回収した余剰戦利品を眺めながら答えた。


「そう言えば松岡幹事長の娘、なかなかかわいかったですね。あの子も政治家になるんすかね?」

副長が問いかけるとと


「そうかもな。今度は依頼主として接触してくるかもな」


彼女は今日現実を知った。安い正義感に流されるか、それとも現実を乗り越えるか。それは現時点で誰もわからない。わかっているのはすべては地上の瓦礫の下にあり、それを制する者がのし上がるただそれだけであった。






この物語はとう道を中心に文明崩壊後の人々の生活を描いてきます。

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