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家庭教師派遣

私はお父様の帰宅の知らせを聞くとすぐにお父様に会いに行った。

「おかえりなさいませお父様」

「ただいま、ティアナ。どうしたんだい?珍しいね」

 キャサリンさんが甲斐甲斐しくお父様の世話をしている。仲の宜しいことで。

「お父様にお願いがありますの」

「ほう?なんだろう。当ててみせよう。新しいドレスかな」

「いいえ」

「違うのか。じゃあ宝石だろう」

「いいえ」

「これも違うのか。ではどこかに行きたいとかかな」

「いいえ」

 ネタが尽きてしまったのか、お父様はう~んと唸って降参と手を挙げた。

「マナーとお勉強の家庭教師を派遣して欲しいのです」

「家庭教師?今の先生方に何か不満でも?」

「いいえ。私のではなくカイルお兄様とクレアにです」

「「え!?」」

 お父様とキャサリンさんの声がダブる。

「失礼ながら二人はまだ正式にそういう勉強をしたことがないと聞きました。これから社交界で必要になるものですし、必要ではないかと」

 お父様とキャサリンさんが呆然と私を見る。

 何か私変なこと言ったかしら?言い訳は完璧だと思ったのだけれど。

 カイルにはさっさと社交界に必要なマナーだの侯爵領を繁栄させるための勉強とかしてもらって私の老後の安定を図りたいし、クレアに至っては猿から人間に進化してもらいたい。私の身の安全のためにも切に!

 かといってこの事情をそのまま話してだから家庭教師を雇ってくれなんて言ったら反対されそうだし(主に私のハッピー隠居生活が)、これが一番信用される言い訳だと思ったのだけれど失敗したかしらと思っていたら、キャサリンさんがワッと泣き出した。


 え?え?なに?

 これってそんなに酷いことだった?


「あの、まだ早かったですよね。ごめんなさい、やっぱり今のはナシで・・・」

 やっぱり言い訳が不自然だったのだ。私のやましい感情がどこかで露呈していたに違いない。

 急いで前言撤回するが、涙と鼻水で一杯のキャサリンさんにガシッと手を握られた。

「ありがとう!」

 へ?

「カイルとクレアの為にそこまで考えてくれたなんて、ティアナさんはなんて優しい人なの!?」

 へ?

 いや、私自分のことしか考えてないデス。

 横からお父様も私のことをガシッと力強く抱きしめてきた。

「ティアナ!お前はなんて良い子なんだ。クレアはまだしもカイルのことは確かに近々家庭教師を付けた方が良いと思っていた。でも、お前を傷つけてしまうんじゃないかと思って二の足を踏んでいたんだ」

 へ?私が傷つく?どうして???

「カイルお兄様に家庭教師を付けるとなぜ私が傷つくのです?マナーは紳士の必須要項でしょう?今までならまだしももう侯爵家の息子になったわけですし。マナーのなってない兄だなんて私が嫌ですわ」

 私の言葉にキャサリンさんはとうとう泣き崩れた。


 だからなんなのよ!


「カイルの事を兄と・・・兄と呼んでくれるなんて・・・」

「ティアナ、私は知っていたぞ。ティアナが世界一優しい女の子だということを」

 買い被りです。お父様。私基本自分第一の我儘娘です。


 私の思惑とは裏腹になぜか感動と感激の嵐がお父様の部屋をうずまいた。部屋の隅でお父様付きの侍女までも涙ぐんでいる。

 なんでよ。


 お父様は目の端に残った涙を拭って宣言した。

「よし、ティアナの願いどおりカイルに家庭教師を付けよう」

「ありがとうございます、お父様。クレアにもよろしくお願いいたしますね」

「・・・クレアにはまだ早いのではないか?」

「いいえ、お父様。教育に早すぎると言うことはありませんわ。クレアには今こそ必要です。真っさらで何も知らない今だからこそ教わったことをすぐ吸収できるのです。下手に大きくなって自己流で学んでからでは遅いですわ。今です!今すぐです!」

 私の気迫に押されてお父様はクレアの家庭教師の件もOKした。

 ふぅ、やれやれ。これで変な知識を元にした行動はなくなるはずだわ。 

 私の安堵をなんと勘違いしたのか、お父様がぬるい笑顔で私を見つめて来る。

「・・・なんですか?」

「いや、ティアナがよくクレアの面倒をみてくれるから助かるとカイルが言っていたのを思い出してね」

 はぁ?

 いつ私がクレアの面倒を見たと言うのです?

「ティアナはずっと一人っ子だったからね、妹が出来てお姉さんになったのが嬉しかったんだね」

 はぁぁぁぁ?

 確かにもっと小さな頃は弟か妹が欲しいと思ったこともあるけれど、お猿さんを妹に欲しいと思ったことなど一度もありませんわ。お父様の勘違いです。

 しかしそちらの勘違いよりも、先ほど聞き捨てならないことを聞いた。

 カイルが助かるとかどうとか。

 そうか、そういうことだったのね。

 おかしいと思っていたのよ。前回は私がクレアにちょっかいを出すとすぐにカイルがすっとんで来ていたのに、今回に限っては私がクレアに絡んでも中々カイルが現れないから。

 ・・・カイルの奴私にクレアを押し付けてたのね。

 私がクレアに無害だと分かったから、あのおてんば娘を私に押し付けて自分は部屋でのんびりしていたんだわ。

 ムキー!!

  

 私の内心の怒りを知らず、キャサリンさんがにこにこと私に話しかけて来た。どうやら感動の号泣は治まったらしい。

「クレアはね、いつもティアナさんの事を嬉しそうに話しているのよ。今日は美味しいクッキーをくれたとか、絵を褒めてくれたとか。ありがとう。でも、無理していない?クレアは少しやんちゃだから」

 キャサリンさんはさすがあのクレアを5年も育ててきただけあってクレアの暴れっぷりを理解しているらしい。

 やんちゃなんて可愛いぶるいではない気がするけれど。

「ええ。とてもかわいらしいですわ」

 私はにっこり微笑んで頷いた。

 うっかり喉の上まで「迷惑よ、あなたの猿娘!」って言葉が出かかったけど、セーフセーフ。

 ギロチンロードを歩むわけにいかないのよ。

 危なかったわ。でもこれでもう大丈夫。あとは家庭教師にお任せしてしまえば良いのだ。クレアに関わるのもあと少しの我慢よ。

 家庭教師選びには私も参加して厳しいと有名な先生方を厳選しよう。

 あの猿娘を人間にしてもらわなければいけないのだ。緩い先生では無理だろう。


 私は次の日からお茶会などでご令嬢たちから厳しいと有名な先生方の名前を聞きだして、お父様に候補として伝えた。

 かくして無事にカイルとクレアに家庭教師が付くこととなった。

 やれやれこれで一安心。


 ・・・そう思っていたのに、その考えが甘かったことに私はすぐ気が付くこととなった。

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