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真実

 後日お父様からきちんと説明された。

 前回にはなかったことだから、やはりあの振る舞いで正解だったのだろう。


「この間は突然紹介するような真似をして悪かった。あの後キャサリンに怒られた。ティアナは年齢よりもしっかりしているのだからあのような不意打ちの真似をするべきではなく、きちんと話すべきだと。これから私が話すことを聞いてティアナがどう思うか私に正直に伝えて欲しい」

「はい、お父様」

「私とキャサリンは大昔恋人同士だった」

 やはりと心の奥底が冷える。

「だが勘違いをしないで欲しい。それは大昔に終わったことだ。私とキャサリンは大昔お互いの親の反対に合い、交際を辞めた。そしてお互い別々の人と出会い結婚した。私はティアナのお母さんと。キャサリンはギーズ男爵と」

 ん?

「お互いがお互いのことを忘れ幸せに暮らしていたのだが、ギーズ男爵が新しい女性と仲良くなってしまい、二人の間に男の赤ちゃんが出来てしまってね。そちらの女性の方が地位が上だったのもあり、キャサリン親子は身を引いたのだよ」

 おや?

「彼女達親子は弟夫婦が跡目を継いでいる実家に戻っていたのだが、あまり裕福ではないので肩身の狭い思いをしていたようでね。そこで私が三人の後見人という立場で引き取ろうかという話になったのだよ」

 おやおやおやぁ。

 前回には知らされなかった裏話が出てきたわ。

 え、ちょっと待って・・・。

 私は考えて口を開いた。


「それではキャサリンさんはお父様の愛人で、あの二人はお父様の隠し子ではなかったのですか?」

 OUCH!と叫んでお父様は目を掌で覆った。

「キャサリンの言った通りだった。絶対ティアナはそう誤解しているはずだと。私はティアナがそんな難しいことを考えるはずがないと一笑に付したが、言って良かった。キャサリンが正しかった。ティアナ、私はお母様と結婚してお前を授かってから二人を裏切ったことはない。それは確かだ信じてくれ」

 あ、らー。

 なんてこと。じゃあ前回の私の怒りはまるで見当違いだったのね。


「待って、お父様。お話をまとめると、つまりギーズ男爵が位の高いお嬢さんと不倫して生まれた子供が男児だったから、キャサリンさん親子はもう不要だと追い出され、それを知ったお父様が手を差し伸べたってことなの?」

 お父様が顔を引きつらせて頷く。

「よくもまあそんな難しい言葉を知っているね。身も蓋もない言い方をすれば概ねそんな感じだ。だが、別に私は同情だけで手を差し伸べた訳ではないぞ。私やティアナにもメリットがあると思ったからだ」

「私のメリット?」

「そうだ。私がいつまでも独身でいるのは良くないとここ数年それはしつこく周りから再婚を勧められていてね。いい加減うんざりしていたんだ。確かにティアナが大きくなったとき女主人の手本を見せる存在がいるのといないのでは大違いだ。だからこの結婚は双方に利があると思ったんだ。向こうは生活の安定をこちらは女主人の存在を。お互いwinwinだろう」

 合理主義のお父様らしい言い方にクスッと笑みが浮かぶ。

「なんだい?なにかおかしいかな?」

「いえ、素直に昔好きだった人が困ってるからなんとかしてあげたかったって言えば良いのになって思っただけです」

 私の言葉にお父様は図星を指されて頬が赤くなった。急いで横を向いて無意味にゴホンと咳を一つする。


「事情は話した。ティアナの意見を聞かせてくれ」

 ふむ、と私は考え込んだ。

 あの三人がお父様の愛人と隠し子ではなかったことで私の怒りはなくなった。

 あとは私があの三人を受け入れるか受け入れないかだ。

 もしかして私がここでNOと言えば別の道が開けるのかもしれない。前回と違ってお父様も強行ではないし。前回は私がろくに話も聞かず無礼な行動の数々をあの三人にやってしまったことでお父様も意地になってしまった部分もあるのかも知れない。頑固なところはお父様も私に引けを取らないから。私も前回はお父様が何を言おうが絶対聞かないっていう態度だったし。

 受け入れない道もあると分かって私の心にも余裕が出来た。

 だから私はにっこり微笑んでお父様にこう答えた。


「是非キャサリンさんをおかあさまとお呼びしたいわ」

 と。


 私の賛成もあって数日後三人が我が家へやって来た。

「ようこそキャサリン、カイル、クレア。これから私たちは新しい家族だよ」

 お父様が両手を広げて三人を歓迎する。

 私も前回とは違い笑顔で迎え入れる。

 確か前回は階段の上からやってきた三人を睨み付け、『この泥棒親子!』と罵って自分の部屋に乱暴に戻ったんだったわ。

 ははは、昔を思い出しても恥ずかしい。

 こちらが歓迎ムードなこともあり、何も険悪なことにならずに初日がスタートした。

 簡単な紹介が終わったので私は自室に戻り、後ろ手にドアを閉め息を吐いた。

「お戻りなさいませ、お嬢様」

 そう言うとサラは私を鏡の前に座らせて乱れた髪を梳かし始めた。

 サラは私の髪を梳かすのが好きだ。私も梳かされるのは嫌いではないので、黙って大人しくされるがままになっている。

 私は梳かされながら、目を閉じて心の中で誓った。


 大丈夫、今回の私は失敗しないわ。

 絶対あんな未来をたどったりしない。


 何も愛人や隠し子じゃなかったからあの三人を受け入れたわけじゃない。全ては私の首ちょんぱルートを回避するためだ。

 その為には出来るだけ知っているルートをたどった方が有利なんじゃないかと思ったのだ。

 あの三人を排除してもお父様の口ぶりだとお父様は遅かれ早かれ再婚する羽目になる。それならば、未知のルートを進むよりもあえて踏破済みのルートに足を踏み入れた方が未来が予測できる分回避しやすいんじゃないかと思ったのだ。

 

 頑張ろう!私は小さく拳を握り込んだ。

 

 しかし私はこの時の私の考えは実に甘かったと後々後悔することになる。

 小さな怪獣クレアによって。  

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