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新しい家族

 どうしよう・・・。

 どうすれば良いのかしら。

 お父様は前回同様笑顔で私に3人を紹介した。

「ティアナ、こちらはエモンズ男爵の妹さんでキャサリンだ。そしてその隣にいるのがキャサリンの息子のカイル君と娘さんであるクレアだ」

「はじめまして」


 ここまでは前回と一緒。

 前回私はたまたまお店でお父様の知人貴族と出会ったのだと思って、最初は礼儀正しく挨拶を交わしたのよ。

 問題はその次・・・。


「で、うん。立ち話もなんだから3人ともこちらにきて座りなさい。ティアナ、君もね」

 全員が座ったのを確認してお父様は大きく頷き、コホンと一つ咳をした。


「えー、ティアナ。お母様がなくなってずっと寂しい思いをさせてすまなかったね。私も仕事が忙しくて中々ティアナに構ってやれなくて申し訳なかったと思っている」

「いいえ・・・そんな」

 私の表情が引きつって行く。

 だって私はこの後に続く言葉を知っている。

「だが、安心しなさい。これからはこのキャサリンが君の新しいお母様になってくれる。そしてなんと新しくお兄様と妹も出来るんだ!」

 さもさも嬉しいだろう、さあ喜びなさいとでも言いたげなお父様の顔だ。

 前回はそれを聞いた瞬間あっけに取られてお父様の顔をぽかんと見ているだけだったけれど、2度目となれば幾分冷静に見れる。

 お父様は本当に私に良かれと思ってこの3人を紹介したのだなと。

 前回は折角の私の誕生日に愛人紹介なんて!と憤ったものだけれど、多分お父様は本気で私が喜ぶに違いないと思ったのだろう。

 わーい、新しいお母様。そしてお兄様に妹ーって。

 

 ・・・私をいくつだと思ってるのかしら。そんなの言われて喜ぶのはせいぜい3歳までよ。

 

 お父様の頭の中で私はきっと3歳児並みなんだわ。

 死んだお母様がお父様は仕事以外はポンコツだっておっしゃってて、それを聞いた時はまさかぁと思ったものだけど、本当だったんだわ。


 私は痛む頭を人差し指で揉みながらちらりと3人の顔を見回した。

 3人は緊張した面持ちで私の様子を見ている。

 そこに私に対する悪意は感じられない。心配そうな顔もしていない所を見ると、きっとお父様が3人に私が寂しがってて家族を欲しがっているとでも言ったのだろう。

 

 ハァと小さくため息をつく。

 私はどんな態度を取れば正解なのかしら。

 愛人とその子供を紹介されて喜べるほど幼くはない。けれども前回のように怒りに任せて行動するほど愚かでもない。

 反対しても無駄なことは前回でようく分かっている。

 何度お父様にあの3人を家から追い出してくれと願っても無駄だったのだ。

 むしろ言えばいうほどお父様に疎まれていった自覚はある。


 もうこの3人は受け入れなければいけない。

 仕方ないのだから。

 

 黙ってしまった私にキャサリンさんが声を掛けてくる。

「あの、ティアナちゃんどうしたの?どこか具合でも悪いの?」

 優しく労わる声だ。

 前回私は()()()()()()()と馴れ馴れしく呼ばれたことに腹を立て、とっさにお父様の前にあった食前酒を掴んでキャサリンさんめがけてぶっかけた。

 顔やドレスに紫色の液体が見事にかかり、そのみじめな姿を嘲笑いながら罵ったものだ。


『薄汚い愛人風情が私の名前を馴れ馴れしく呼ばないで頂戴。これは気高き侯爵令嬢であった我が母が名づけてくれたものよ。あなたごときが呼んでいい名前じゃないわ。恥を知りなさい!』

 驚きに目を見張るキャサリンさんと、そんなキャサリンさんを庇うように立ちはだかりこちらを睨みつけてきたカイル。突然の出来事に驚いて泣くクレア。

 

 あの時からすでに私とこの3人の間に大きな溝が出来たのだと思う。

 大体お父様もお父様よ。もう少し前もって新しい家族なんてどうかなーみたいな打診を私にすべきだったのよ。それが喜ぶだろう、サプラ~イズみたいなノリで愛人を紹介されて受け入れられる人間なんていないわよ。

 けれど今回私は受け入れましょう、これは避けられない運命だから。

 私は小さく頷いてからキャサリンさんの方を向いて言った。


「いえ、突然のことに驚いただけです。今日私はてっきり私のお誕生日のお祝いにこのお店に連れて来てもらえたと思っていたので。突然皆様をご紹介されてちょっと頭がついていかなくて・・・」

 私の発言にキャサリンさんがえっ!?と驚いてお父様の顔を見る。


「バーナード、あなたティアナちゃんに私たちの事言っていなかったの?」

「突然の方が喜びも大きいだろう?」

 得意げなお父様の顔。

「ああ、もうっ。あなたって人は昔から。いえ、今はそれどころじゃないわね。ごめんなさいティアナちゃん突然言われたら誰だって混乱するわよね。それに今日は誕生日のお祝いの席だったのね。こんな日に本当にごめんなさい、私たち知らなかったものだから。今日は私たち失礼するわね。さ、二人共帰るわよ」

 キャサリンさんが二人を促して席を立ちあがる。


「え?なぜ帰るんだい?折角のティアナのお祝いなんだから新しい家族みんなでお祝いしようじゃないか」

 一人分かっていないお父様。

 自分の心以外は無関心。無遠慮。これで顔と家柄と仕事が出来なければただの嫌な男よね。

 まあ、貴族の男に大事なのは前者だから良いのかしらね。

「バーナード、後で少しお話しましょうね。さ、カイル・クレア行くわよ」

 カイルは大人しく母の後を付いて行く。しかし幼いクレアは折角美味しいご飯を食べれると思って来たのに帰ろうと言われて半べそを掻いて椅子の上でいやいやと首を横に振った。


「クレア!」

 キャサリンが少し強めに名前を呼ぶ。

 クレアは一瞬ビクッとしたけれどもぽろぽろと大きな涙を流してテーブルにしがみついた。

「だって、だって。あたしいおねえちゃまができるって。おいしいごはんがたべれるって・・・。おかあちゃまのうそつき!」

「今日はティアナちゃんのお誕生日なの。私たちがいてはいけないのよ」

「どうして?だっておよばれしたのに。クレア、ちゃんとおめでとうっていえるよ。ケーキふーってしたいってもういわないよ。ちゃんとおいわいできるもん」

「クレア」

 困った顔のキャサリン。

「ほら、クレアちゃんもここにいたいって言ってるし、私たちが新しい家族になるのに素晴らしい日なんだから帰ることはないだろう。何をさっきから遠慮しているんだ、キャサリンは。私たちは家族になるんだぞ。今から遠慮していてどうする。二人共座りなさい、これは命令だ」

 お父様がドヤ顔で二人に命令する。

 

 どうせこれから嫌というほど屋敷で一緒に食事をするのだ。例え今日という日からそうなったとしても何の変わりがあると言うのか。

 私は諦めて目を瞑った。

 どうせ前回もお父様にあの後頬を叩かれて泣いて席を立って歩いて屋敷まで帰ったのだ。

 今回は叩かれてもいないし、味はもう分からないかも知れないけれどこのお店で食事は出来る。

 それだけで前回よりだいぶマシではないか。


 何も言わない私と早く座りなさいと命令してくるお父様にキャサリンさんが困ったように私たちを見ていた。

 私から座れとは言わない。それだけは言えない。だから無言。

 それをどう取るかは個々の自由だ。


 決して椅子から降りようとしないクレアと何も言わない私と座ることを強制するお父様。

 そんなカオスな状況でキャサリンさんが仕方なく椅子に戻ろうと足を踏み出した瞬間、カイルが口を開いた。

「痛たたた」

「どうしたの?カイル」

 カイルがお腹を押さえて前かがみになっている。

「すみません母上。先ほどから実はお腹が痛くて」

「まぁ、それは大変!お医者様を」

「いえ、それにはおよびません。家で横になっていればじきに治まると思います」

「そうなの?じゃあ早く帰りましょう」

 突然始まった出来事にクレアは目を真ん丸にして見ている。

「クレア、お兄ちゃんちょっとお腹が痛いんだ。一緒に帰ってくれるかな?」

「おにーたんぽんぽんいたい?」

「うん。クレアが傍にいてお腹を撫でてくれればきっとすぐに良くなると思うんだ」

「じゃあ、クレアかえる」

 ぴょんと椅子から飛び降りて、クレアはてててとカイルの元に駆け寄った。

「ありがとう、クレア。すみません侯爵。折角お誘いいただきましたのにこんなことになりまして」

 お父様に向かって綺麗な角度で挨拶をするカイル。

「いや、体の方は大丈夫なのかね?」

「ええ、少し横になっていれば大丈夫だと思います。大変申し訳ありませんがこれで失礼させて頂きます」

 顔を上げてふとその視線が私に流れてきた。

 ドキッとした。

 最後にカイルの顔を見たのは私が処刑された時だった。


「ティアナ嬢」

「はい」

 何を言われるのかとドキドキする。

 何せ前回は犬猿の仲だったものだから。

 お互い顔を合わせれば皮肉や批判の嵐だったし。どんな辛辣な言葉がきても大丈夫なように心の中で身構える。

 しかしカイルの口から出てきた言葉はとても優しい言葉だった。


「お誕生日、おめでとうございます」

 拍子抜けしてぽかんとする。


「あ、あり・・・がとう、ございます?」

 おかげで疑問形で返す羽目になってしまった。

 だって裏に何か悪意があるんじゃないかと思ったもんだから。

 しかしその言葉のどこにも悪意は感じられない。

 それはそうだ、だって私はまだこの人たちに何もしていないのだから。

 常識的な対応をしたから向こうも常識的に返してきたのだ。

 それに気づき私は急いで席を立った。

「少しだけお待ちになって」

 去って行こうとする3人を慌てて私は止め、傍にいた給仕の人に耳打ちをした。

 給仕の人は軽く頷いて部屋から出て行った。

「ティアナ?」

 お父様が私の行動を不思議そうに見ている。

 暫くすると給仕の人が小さな包みを持って私に渡してきた。

 私はそれを小さなクレアの手に乗せた。


「本日は私のお誕生日のお祝いに来てくれてありがとう。ここのケーキはとても美味しいって評判なのよ。是非お家に帰ってお母様やお兄様と一緒に食べてね」

 はい、と渡すとクレアは小さな顔いっぱいに喜びの笑顔を浮かべた。

「ありがとう、おねえちゃま!」

 キャサリンも笑顔でお礼を言って、カイルも優しい笑顔でクレアを見ていた。

 お父様もにこにこ笑顔で見ていたのが少し・・・かなりムカつくけれども、今回はこれで正解だったと思おう。

 第一印象最悪状況は免れた・・・ハズだ。

年末ですね。年末はちょっと忙しくて・・・なんで私こんな状況で投稿始めたんだろう。。。

気長に読んでいただけると。。。すみません。

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