幼馴染
結局カイルは私に復讐の手伝いをしてくれとは言わなかった。
それどころかカイルはその日以降男爵家に行くこともパタリとしなくなり、クレアや私との時間を取るようになった。
おかげでクレアの被害を私だけが一方的に被ることもなくなり、クレアも自分がへまをすると類は家族に及ぶと理解してくれたおかげで、前ほどではないが中々良い感じに仕上がって来た。
キャサリンさんとも良い関係を築いていると思う。
これなら私が将来学園を卒業した後隠居生活を送りたいと言っても問題なく行けるんじゃないかと喜んでいたある日、訪問客があった。
お父様の親友のランチェスター侯爵だ。一人息子のイアンもいる。
思わず懐かしくてイアンに駆け寄った。
「久しぶり!イアン。小さくて可愛いわぁ」
思わず頭を撫でてしまって、イアンに驚かれた。
「え、どうしたのティアナ。そんなに言うほど久しぶりだったかな。それに小さいって君と僕とは同じ年でしょ」
そうだった。
つい前回の記憶がごっちゃになってしまった。イアンとは幼馴染で昔から良く一緒に遊んだ。
イアンは大人しくて私の言うことを良く聞いてくれていたから、私もイアンがお気に入りだった。
仲の良い私たちを見て大人たちは身分も釣り合うし、将来私たちを結婚させても良いかもななんて笑い話をしていたものだ。
それがいつの間にかイアンと仲が悪くなって一緒に遊ぶことも話すこともなくなってしまった。
どうしてだったかしら?と遠い昔を思い出そうとするけれど、基本的にイアンは私にとって無害な存在だったからどうにもこうにも記憶が薄い。
なんか私がイアンに腹を立てたような?と頭を捻っていると、ランチェスター侯爵がお父様の肩を組んで話しかけた。
「もったいぶってないでいい加減新しい奥方と子供たちを紹介しろよ」
「やっぱりそれ目当てでやってきたな。もうすぐお披露目パーティーがあるんだからそれまで我慢できなかったのか?」
「おやおや、大親友の私とその他大勢を一緒にしようとは随分と友達がいのない奴だ。先に紹介しておいた方が後々良いと私は思うがね」
「分かってる。ちゃんと紹介しようと思っていたさ。キャサリンと子供たちを呼んで来てくれ」
お父様は傍にいた侍女に頼むとランチェスター侯爵と共に応接間に向かった。
私とイアンも流れで一緒に付いて行く。
「おじさん再婚したんだって?」
「うん」
「新しい奥さんってどんな人?」
「どんなって、いい人よ」
と言った所で記憶の何かが引っかかった。
なんだろう、この会話前にもしたことがある気がする。
その時私なんて答えたんだっけ?と悩んでいる間に3人が応接間にやってきた。
ランチェスター侯爵は笑顔でキャサリンさんと会話をし、私はカイルとクレアをイアンに紹介した。
「こちらは私の幼馴染のイアンよ。イアン、私の兄のカイルと妹のクレアよ」
「よろしく」
イアンは何の屈託もなくカイルとクレアに握手した。
カイルとクレアが低い身分の出だと分かっているだろうに、気にせず接するイアンは凄いわよねと感心したところで思い出した。
そうだ、私がイアンと喧嘩した原因はこれだった。
前回もランチェスター侯爵に連れられてやってきたイアンに私は不満をぶちまけたのだ。
『あんな生まれも下品、育ちも下品な人たちと一緒に暮らさないといけない私の不幸がイアンあなたに分かる!?もう最低よ。毎日が不幸よ。イアンもあの二人を見たらきっと吐き気がするわ。本当に酷い人達なんだから』
そう言って、イアンに二人の悪口を刷り込んだ。それでも善良なイアンは私の言葉に惑わされず二人の本性を的確に見抜き、悪口を言う私を咎めてきた。
『あの二人は何も悪くないよ、ティアナ。突然兄妹が出来て混乱している君の気持ちも分かるけど、ちゃんとあの二人を良く見てあげて欲しい。ティアナならきっとあの二人の良さが分かるから』
そう何度も何度も私に進言してきていた。
その時の私に必要だったのは私の味方をしてあの二人を一緒に悪く言ってくれる友達だったから、真逆な態度を取るイアンがウザったくて仕方がなかった。
ある日いつものように私を諌めてくるイアンに私はキレた。
『イアンはバカだからあの二人に騙されてるのよ、あの二人は身分卑しい存在なのよ。善良な訳ないじゃない』
『そんなことないよティアナ。身分高い人が善良で低い人が悪人なわけじゃないでしょう、人間の本質は身分に関係なくあるものだよ。身分が低くても心が綺麗な人もいるし、身分が高くても心が卑しい人もいるじゃないか』
それを言われて私はカチンときた。まるでカイルとクレアの心は綺麗で私の心は汚いと言われているかのようだったから。
それで私はイアンの頬を思いっきり叩いて泣いて家に帰った。
泣いて部屋から出ようとはしない私にお父様は何があったのかを聞きだし、私はイアンに心が汚いと言われたと泣いて訴えた。
当然事実確認をしにお父様はランチェスター侯爵家に行き、イアンは善良な人間だったからティアナの事を言ったわけではなかったけれど、誤解させる言い方をしてしまったかもしれないと謝罪しにきた。
それでも幼かった私は半ば下のようにみていたイアンに諌められたことも許せず、学園に入ると同時にイアンを仲間外れの対象にした。
元々イアンは優しいけれど人とコミュニケーションを取ることが苦手で気が小さいし少しオドオドする癖がある。その為男子からは嘲笑の対象になりがちだった。それでもはじめは侯爵子息という高い身分のおかげであからさまに苛められることはなかったけれど、同じ身分の私がイアンの悪口を積極的に言うおかげで、まるで免罪符を手に入れたかのように他の男子生徒はイアンを苛めだした。
イアンは学園で親しい友を作ることも出来ず孤独に卒業していったはずだ。
・・・まずいわ。ここにも前回の悪女の被害者がいる。
でも幸い時間が巻き戻ったおかげで私はイアンを苛める前に戻れた。
よし、今回の目標は3人と仲良くなること+イアンを苛めない事!
そして無事に田舎で楽隠居すること!
これよ!
人見知りのイアンがカイルとクレアと仲良さそうに話している。
うんうん、カイルとクレアの魅力は人を惹きつけることよね。話しやすいし楽しい。カイルもクレアも頭の回転が速いから次々言葉が出て来るし、将来社交界で中心となるのも分かるわ。
嬉しそうにクレアと話しているイアンを見て、そう言えばイアンって多分前回クレアの事好きだったのよねーと思い出した。だからなおさら私からクレアを庇っていたんだろうけど。
前回苛めてしまった負い目があるとはいえ、残念ながら今回もイアンの応援は出来そうにない。
だってクレアには王子と結婚してもらわないといけないから。前回もクレアはイアンじゃなくて王子を選んだわけだし。
イアンにはどこか可愛くて優しい女の子を見つけて紹介してあげるから、クレアの事はどうか諦めてねと心の中で手を合わせた。
「ティアナ、どうしたぼーっとして。こっちにおいで」
カイルがコイコイと手を曲げている。
「あ、うん」
とことこと3人の元に歩いて行く。
「子供たちも仲良さそうで良かったな」
ランチェスター侯爵が私たちの姿を見て目を細めて言う。
「ええ、ティアナさんはとても優しい方だから、クレアもすっかり本当のお姉さまのように懐いているんですよ」
キャサリンさんが嬉しそうに報告する。
私はそれを聞いてカイルの腕に自分の腕を絡めた。
「カイルお兄様とだって仲良しですよ。私カイルお兄様の事本当のお兄様だと思ってますもの。ねーお兄様、大好き♡」
コテッと頭をカイルの肩に乗せて仲良しアピールをする。
さあ、大人達よ皆見て頂戴!
カイルは私の兄!つまりこの侯爵家を継ぐのになんら問題はないのですよ!実の娘である私が認めてるんですよ!!
しかし全員の反応は私の予想とは少し違っていた。
大人たちはほぉという反応をし、ランチェスター侯爵に至っては「ライバル登場か?」と訳の分からない発言をしていた。
クレアは私に負けじとなぜかカイルではなく私に引っ付いて来るし、カイルは顔を真っ赤にして手を口で押えている。
イアンに至ってはちょっと膨れた顔になり、なぜか私とカイルの間に割って入ってきた。
なに、皆のこの反応?
良く分からないけどどうやらカイルに侯爵家を押し付けよう作戦は失敗したようだ。




