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断頭台

 私は今断頭台の前に立っている。

 王族の中でも地位の低い者達から次々と断頭台に登らされ、命を狩る刃が振り下ろされている。

 無情な刃が落ちるたびに民衆は歓声を上げて喜んでいる。

 

 私はうつろな瞳で現状とは場違いな青い空を見上げた。


 一体どうしてこんなことになってしまったのか。

 私になんの罪があるというのか。

 私はただ私の国に留学していたこの国の王太子に見初められて是非にと乞われて嫁いできただけなのだ。

 それがたった3年でクーデターが起き、祖国に逃亡しようと図ったところ、どこからか計画が漏れ民衆に捕まり牢屋に入れられる羽目になった。

 国を捨てようとした王族というレッテルを張られ、あっという間に処刑が決まった。


 自慢だった金色の髪は首を切るのに邪魔だからと顎の位置でばっさりと切られた。

 適当にナイフで切られたせいで長さも適当でざんばらだ。

 

 クーデターが起きたのだって罪は現王と歴代の王たちの浪費のせいだ。私のせいじゃない。

 なのにどうして私がこんな目に遭わないといけないのか。

 私は民衆に酷いことなど何もしていない。


 何度も何度も牢屋でそう訴えた。

 私は無実だと。


 大体は無視されたけれど、ある一人の若い門番は私を見て鼻で笑った。


「あんたに罪がないだと?散々俺たちの税金で贅沢しておいて、自分に罪がないとよく言えたもんだな!」

 憎々しげな瞳で睨まれて私はたじろいだ。

 けれども私の声に耳を傾けてもらえるチャンスだと私は訴えた。

「私は何もしてないわ。この国の王太子妃としてふさわしい衣服や装飾品を身に着けていただけに過ぎないわ。そのどこに罪があるというの?」

「・・・あんたの足元に転がっているパン、どうして食べないんだ?」

 そう言われて私は欠けた汚い皿にただ無造作に置かれた固い物体を眺めた。

「だってこれ食べ物じゃないわ。固くて歯が入らないのよ。いくらなんでも酷いわ」

「ははっ、それだよ!」

 門番は私を指差して嘲笑った。

「え?」

「俺の妹はな!そんな安物の固いパンでさえ手に入らなくて、たった5歳で餓死して死んだんだよっ!お前らが毎晩贅沢な食べ物を食って酒を飲んで良い服着て笑ってる時になっ!俺の妹だけじゃない、もっと多くの老人や子供がお前らが贅沢している陰で飢えて死んで行ったんだっ!!あんたに罪がない?笑わせてくれるぜ、あんたの着ていたドレス1着でどれだけの人間がパンを食べれたと思っているんだっ!!!」

「そんなっ、だって私知らなかったし・・・」

「そうだな、上の人間は下の人間がいくら死のうが興味なんかないよな。でももうあんたは上の人間じゃない。処刑されるのを待つだけの俺たち民衆より下の人間だ。だから俺もあんたが死のうが気にもしない。お互い様だろ」


 冷たく言い捨てられて私は足元から冷える思いがした。

 この国の人間は私が死ぬことをなんとも思っていないのだと。いや、むしろ自分たちを苦しめてきた元凶がいなくなることを心から望んでいるのだと。


 この国の人間にいくら訴えても無駄だと分かった。

 ならば望みは祖国だ。

 私は祖国では上流貴族の娘だった。この国の現状は祖国ブール王国の耳にも入っていることだろう。私のお父様はブール王国でも上位の貴族だし王様の信頼も厚い。その娘の一大事なのだ。お父様が王様に訴えてブール王国の軍隊を送って貰えれば、こんな有象無象の民衆など簡単に蹴散らせられるだろう。

 お父様ならきっと私を助けてくれる。

 きっと。

 きっと。


 牢屋の中で『お父様一日も早く私を助けにきて』と願った。

 門番は静かになった私を諦めたのだろうと判断してそれ以上話しかけて来ることもなかった。

 私は歯が入らない固いパンをコップの水につけてふやかして食べた。

 お父様が助けに来てくれるまでは餓死するわけにはいかない。

 ここから無事に出れたらこの不味いパンを踏みつけて、私をこんな目に合わせた者達を縛り上げて打ち首にしてやろう。それまでの我慢だと自分に言い聞かせた。

 

 しかしどんなに祈っても助けは来ず、とうとう処刑の日が訪れてしまった。


 断頭台を前にしても私は心の底ではまだ諦めていなかった。

 きっとお父様は私を助けに来てくれる。

 だから処刑人に背中を押されて断頭台に登った時も私は目の前で喜ぶ民衆のさらに奥を見据えていた。


 きっと来る。

 お父様が引きつれたブール王国の軍隊が、今にもあの愚かな民衆たちの後ろから私を助けにやって来る。

 そう信じてこぼれそうになる涙を我慢していた時、視界の端に黒づくめのフードを被った怪しい長身の男が目に入った。

 大木の影に隠れるように立っているフードの中の顔は私が良く知った男のものだった。


 カイル!!!


 お父様の愛人の息子だ。お母様が死んで大して経ってもいないのに私の家に図々しく親子で乗り込んで来た息子だ。

 なぜあの男がここに!


 一瞬お父様に頼まれて私を助けに来たのかと喜んだ。しかしその歓喜の心はカイルの冷たい笑顔を見た瞬間一瞬にして引っ込んだ。

 あの男はこの状況を楽しんでいる。

 私が死ぬことを喜んでいるのだ。

 足が止まった私を処刑人が突き飛ばして首を乱暴に処刑台に押し付けられた。

 何とか首を上げてカイルを見る。

 カイルは一歩も動く気はなさそうだった。

 ただ私の命が落ちるのを待っている。


 そうか、これが私の罪か。

 乗り込んで来た愛人とその子供たちが許せずに、散々苛め抜いた。

 人前で罵倒して時には暴力を振るったりもした。

 正しいと思っていた。だって私は傷ついているから。被害者だから。

 加害者を攻撃するのは当たり前の権利だと思っていた。

 私は由緒正しい正妻の娘で、向こうは愛人とその子供たちだから。私より卑しい存在だと思っていたから、踏みつけて当然だと思っていた。

 結果人の気持ちを思いやれない傲慢な女が出来上がった。

 自分のやって来た悪行が巡り巡ってこの結果を導いたのだ。


 いつまでも首を上げている私の頭を処刑人が下に押し付けた。

 ふと鼻に甘い香りが漂った。

 これは母が愛した花の香りだ。


 一足先に母が私を迎えに来てくれたのだろう。

 私は大人しく目を閉じた。

 

 お母様、お母様、お母様。

 ・・・私はなんと愚かな娘だったのでしょう。ごめんなさい。向こうで会ったら一杯謝ります。

 お母様。


 シャアアアア!と軽快な刃が落ちる音が聞こえ、私の首は落とされた。

 民衆はまた一人憎っくき王族が死んだ事を歓声をあげて喜んだ。

性格の悪いご令嬢が自らの悪行の末に死んで過去に巻き戻り人生をやり直すお話を書きたいなぁと思って書き始めました。(*^_^*)

のんびり書いて行こうと思います。


ジャンルがローファンタジーであってるのか今一自信がありません。汗

間違ってません?という方がおられましたら是非正しいジャンルを教えてください。<m(__)m>

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