きみとはなしができたなら『その猫背に。』
その猫背に。
猫背が嫌いだった。
鏡を見て、自分の姿に愕然とする。丸まったライン、前に突き出る頭と顔。隠れる肩甲骨。曲線を描く、立ち姿。
暗く、そうだな、性格も暗くなる。
猫背が嫌い。
こんな歪んだもの、直さなきゃいけない、そう思って意識した。
そうして、私は真っ直ぐの格好いい背中を手に入れた。
それなのに。
それなのにだよ。
私にとって、あなたの背中は特別なんだね。
それはあなたが熟考している時。
椅子に深く腰を掛け、右足だけを立て膝にして、その膝の上にちょこんと顔を乗せている。
まるくまるく、猫のように丸まる背中。
けれど、待って。
その丸い猫背から伸びる真っ直ぐな手の、その中にある、白の石。
熟考したのちの、その指先にある石の行方に。
目の前にある碁盤に向かう、意志の強さに。
黒の陣地を力ずくで奪っていく、容赦のなさに。
粘り強く、自分の陣地を築いていく、その背中に。
私は一瞬で目を奪われて、そして心も。
あなたの丸い背中に、釘づけになる。
あんなにも嫌いだった、猫背のはずなのに……。
そんなあなたの背中を見るたびに。
胸がそわっとして、落ち着かない。
そして、こんなにも。
あなたの猫背に虜になってしまうなどと。
ふふ。
私は薄く、笑うしかないのかな。
あなたへ