弁当
「九十九おはよう!」
「おはよう」
いつもの様に玄関前で待ち合わせて通学をする。
これは、優衣の提案だ。
この間の下校時に朝も一緒に行きたいと言われたのだ。
一緒に行きたいも何も前から一緒に行っているだろと思ったが、敢て言わなかった。
姉弟らしいことって何なのか。
この数日悩み、俺は優衣に弁当を作ってくることにした。
「「ねぇ(なぁ)」」
「先言っていいよ」
「九十九が先に言って良いんだよ?」
「たいした話しじゃないし、いいよ」
「私もたいした話しじゃないんだよ? ただ、お弁当作って来たんだけどって話しなだけで……」
「え、俺も弁当作って来たんだけど……」
「え、えぇぇぇ!!」
「ばか、電車の中で叫ぶな」
「ごめん……」
お互いがお互いの弁当を作って来てしまったこの状況をどうするべきなのか……。
まさか、これが被ると思わないじゃん。
どうすんだよこれ……。
とりあえず優衣の弁当は貰っておこう。
「なぁ優衣、そのお弁当俺が食べるよ」
「じゃ、じゃあ交換だね!」
「え」
「ほら、早く九十九が作ってきたお弁当も出して」
「いや、でも……。 形崩れたりしちゃってるし……」
いざ、このお弁当を渡すとなると恥ずかしくなってしまう。
それに、折角食べて貰うんだしもっと上手くできたやつを食べて欲しい。
だからといって目の前にある手を無造作に振り払うなんて出来ないし。
どうすんだよこれ……。
「不格好でも全然いいよ。 作って来てくれたことが売れしいの。 だから、ちょうだい」
その目はずるい。 黒い澄んだ目で、真っ直ぐに俺の事を見つめてくる。
そんな目で見られたら断るに断れないじゃないか。
「わ、わかった。 渡すからあんまり見つめないで」
「よろしい。 じゃあ、はい」
いや、今渡されても受け取れないんだけど。
まだ、電車の中だからね?
しかも、結構人乗ってるし。
「電車降りてからで――」
「きゃっ」
電車のカーブのせいで優衣が体勢を崩す。
俺にもたれかかって来るような感じになっている。
そのまま倒れない様に俺が押さえている状況だ。
どうやらお弁当は無事らしい。
しかし、この体勢は中々まずい。
何というか、俺が優衣を襲っているみたいな感じになっている。
「な、なぁそろそろ離れてくれないか?」
「あ、ごめん」
「電車降りてから弁当は交換しよか」
「わかった」
危なかった。 近くに、同じ高校の生徒がいたらどうなっていたことやら。
取りあえず人混みを抜けたところで弁当を交換し、登校した。
「よ、九十九」
「おはよ、鋼」
「今日はなんだか元気そうだな」
「そうか? いつも通りだと思うんだけど」
「この間マッグ行った次の日辺りからあんまり元気なさそうだったよ。 まぁ、元気になったのならいいや」
そんな事をこいつから言われるくらい思い詰めていたのか。
学校ではかなり普通にしていたと思ってたんだけどなぁ……。
意外と表に出てたのかもしれない。
少し気をつけよう。
「お前ら、いつまで立ってる。 席に着け。 ホームルーム始めるぞ」
担任が入って来たことで周りが一斉に席に着き始める。
さっきまでざわついていた教室だとは思えないほど静かになっている。
担任の中谷先生は慕われている反面恐れられている部分もあるらしく、皆真面目に話しを聞いていた。
担任が出ていくとまた騒がしくなる。
ごく普通の事なんだろうけど今日は何故か微笑ましく見えた。
退屈な授業が始まった途端身体がだ怠くなってしまう。
毎度毎度この授業は何故か眠くなってしまう。
「じゃあ、38ページの8行目から山神に読んで貰おうかな」
眠い……。
腕を枕にして机の上で寝る体勢に入ってしまう。
まさに、眠りに入れると感じていた時に頭に何かが当ったような感覚に襲われる。
「山神、聞こえているのか」
「え」
「全く……。 毎度毎度、寝て何を考えているのだ。 早く読みなさい」
どうやら俺の事を教科書で叩いたらしい。
そこそこ痛かったが、寝ていた自分に非があるため何も言い返せない。
読みなさいって言ってたけど、一体何処を読めばいいのだ。
何処を読んだら良いのかわからず困っていると、鋼が教えてくれた。
「38ページの8行目からだ」
「ありがとう」
「山神早く読みなさい」
「わかりました」
結局最後まで読まされた。
後悔処刑と言っても過言でないくらいなんか恥ずかしかった。
読み終えた俺に鋼はドンマイと言ってそうな感じで俺を見る。
先生が解説を始めようとしたタイミングでチャイムが鳴り、授業が終わる。
俺に読ませなくていいところまで読ませるからだ。
そんな感じで4限の授業が終わり、昼食を取り始める。
「九十九、食堂行こうぜ」
「悪い。 今日は、俺弁当なんだ」
「え、まじで? 彼女でも出来たわけ?」
「そんなんじゃないよ」
「えー。 まぁ、いいや。 俺、食堂で何か買って来るわ」
「行ってらっしゃい」
彼女じゃないって言った時なんであんなに残念そうだったんだよ。
弁当箱の蓋を開けるそこには整った形のおかずが入っていた。
優衣、料理上手だよな。
でもさ、白飯の上に海苔でなんで俺の名前書いてんだよ!
開けた時めっちゃ恥ずかしいだろこれは……。
愛情が籠もってるようにも感じるけど、高校生にもなってこの弁当は流石に恥ずかしい。
鋼が帰って来る前に海苔だけをさっさと食べてしまった。
九十九が羞恥で項垂れていたころ優衣は弁当の説明に困っていた。
「優衣さん、今日はおかずがいつもより不格好ですね」
「きょ、今日はちょっと失敗しちゃって……」
「それに、お弁当箱もいつもと違うやつだし」
「こ、これは……。 気分転換?ってやつだよ」
「優衣さん」
「はい」
「意味がわかりません」
この子、今日はなんだか怖いんだけど……。
どうしたのかな。
どう説明したら納得してもらえるのかな。
「優衣さん、あれですか。 噂の彼氏が作ってくれたのですか?」
「ち、違うよ。 これはおと――」
弟が作ってくれた。と言いかけて止めた。
隠したりするつもりは無いが、色々と説明がめんどくさいだけなのだ。
かといって嘘をつくわけにはいかないしどうしよう。
「おと?」
「おと……。 おと、お父さんが作ってくれたの!」
へ、変なこと言っちゃった……。
美琴ちゃんは私が一人暮らししてること知ってるし、嘘だってばれちゃったかな……。
なんなら、家に来たこともあるしね。
「そうだったのですね。 良いお父さんです」
あれ? ばれてない?
何が起こったのかさっぱりだけど、ごまかせたならそれでいいや。
気持ちが落ち着いたせいか、全身の力が軽く抜けてしまう。
「ところで優衣さん。 噂の彼氏とはどういう関係なんですか?」
噂の彼氏?
九十九の事でいいんだよね。
なんて、説明したら一番いいかな。
弟と言わずに一番わかり安い説明……。
あ、あるじゃん。
「あの人は私と同じアパートに住んでてお隣さんなの」
「なるほど。 同じアパートである意味同棲していると」
「ち、違うってば! そんなんじゃないのよほんまに」
何でこんなに疑ってくるのよぉ……。
授業が始まるまでの間乗り切れる気がしない……。
鋼が食道に行ってからそこそこ時間が経ってる気がするが、中々帰ってこない。
空腹に耐えきれずおかずをつまんでいたらもうそろそろ無くなりそうになっていた。
「わりぃ。 食道混んでてさ、時間かかった」
「混んでたなら仕方無いよ」
「おう、早速食べるか……ってお前もうほとんど食い終わってるじゃん」
「そりゃ、空腹には勝てないよね」
「まぁ、そうだな」
昼食の時間も気がつけば終わっていて午後の授業の予鈴が鳴っていた。
今日の学校ももうそろそろ終わり。
気合い入れて頑張るぞ!
なんて意気込んでいたのに2限とも気がつけば寝てしまっていた。
そして担任に呼び出されて説教される始末……。
何故か俺だけ課題を課せられてしまった。
「どうしたの? 何か元気なさそうだけど」
「別に何かあったワケじゃ無い。 ただ、課題が増えただけだよ」
「どうせ授業寝たりしてたんでしょ」
「な、なんでわかるんだよ」
「だって、九十九のお姉ちゃんだもーん」
「またそうやって……」
一体そんな情報はどこから入って来てるんだろうか……。
しかも、またって言ったし前から知ってたみたいな言い方。
何処情報だよほんとに。
あ、弁当のことで優衣に言わなきゃいけないことあったんだった。
「なぁ優衣。 弁当何だけどさ」
「あ、お弁当。 どうだった? 九十九のは不格好だったけど味は結構良かったよ」
「あ、ありがとう。 美味しかったんだけどさ」
「美味しかったなら良かったよ〜」
「ご飯の所に名前書くの辞めて欲しいなって思ったんだけど……」
「あれ可愛かったでしょ? 私頑張ったんだよ。 ……え?」
「いや、恥ずかしいからさ」
「凄く頑張ったのにぃ……」
「あ、ちょっ……。 気持ちは凄く伝わってきたから!」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「じゃあ、また書いてもいい?」
「それは……」
「なんで、そこだけ考えるのさぁぁぁ!」
「あー、わかったわかったからあんまし叫ばないで。 周りの目が凄く刺さってるから」
疲れた……。
まさか、あんなに叫ばれるなんて思ってもいなかった。
明日も一応作って行った方がいいのかな。
そー言えば普段から自分の分の弁当も作ってるのかな。
それだったら、今日弁当二つ食べたことになるよな。
そんなことを考えながらベットの上でごろごろと転がる。
明日も頑張んないと行けないしそろそろ寝るか。
はい、恋夢です!
今回は弁当の話しをメインに書いてみました。
姉と弁当交換したらこんな感じになりそうだなぁ、なんていう勝手な妄想です。
それではまた次の作品でお会いしましょー!




