再会
入学式から数日が経ち学校生活にもある程度慣れてきた。
クラスの皆とは普通くらいだと思う。
鋼とはそれなりに仲良くやっているもののあいつがぐいぐい来るせいで若干押され気味になっている。
何より一番の問題は神崎先輩だ。
家が隣同士で、通学時間もほとんど一緒、この間なんて同時に家の扉を開けるという偶然だってあった。
そのため、良く一緒に歩いていることが多い。
そのせいで一部の間では俺が一つ上の先輩と付き合って居るなんて噂も立っている。
俺は一人の高校生としてそう思われて先輩の事を意識しない何てことは無い。
はっきり言おう、気になっていると。
逆に先輩はどう思っているのか。
昨日たまたま帰りが一緒だったため、綺麗な流れで遠回しに聞いて見た。
「先輩俺たち最近変な噂立ってますよね。 どう思います?」
「あー、え? 何か噂になってたっけ?」
この人本当に言ってるのか?
俺この間一個上の全く誰かわからない先輩に聞かれたんだぞ。
そんな段々広まっている噂を耳にしない分けないだろ。
「あれですよ。 俺と先輩が付き合ってるかもしれないって噂」
「あー、あれね。 九十九君はどう思うの?」
「ど、どうって……。 ま、まぁ悪い気はしないですね。 別に悪評って分けでも無いですし。 それに、先輩ならだ、大丈夫かなぁって思いますから……」
最後の方、自分で言いつつ恥ずかしくなって段々声が小さくなっていく。
一体何を言っているんだ俺は、恥ずかし過ぎるだろ。 流石に引かれそう。
先輩の様子を見ても、きょとんとした表情でこっちを見ているだけで何かリアクションする雰囲気は無い。
一人で恥ずかしくなっている事に気付き更に恥ずかしくなってしまう。
「先輩はどう思うんですか?」
「うーん。 内緒かな」
「えー……。 あ、ちょっ、なんで急に走るんですか」
という事があったわけで、実際にどう思っているかは聞けなかった。
ただ、あの時の先輩の笑顔に俺は見とれていた。
どことなく嬉しそうに笑っていたように見えたあの笑顔は脳裏に焼き付いて今も離れない。
くだらないことを考えている間に身支度を終わらせ家を出る。
階段を降りていると駆け足で降りてくる人がいた。
もちろん言わなくてもわかるだろう。 神崎先輩だ。
「先輩おはようございます。 そんなに急いでどうしたんですか?」
「あ、おはよう九十九君。 逆に君は何でそんなに落ち着いていられるの? 急がないと電車乗り遅れるよ」
「え、もうそんな時間ですか?」
慌てて携帯を取り出し、時間を確認する。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまう。
今時、時間を見間違えて慌てる人がいたのかと。
俺たちが乗る電車は36分の電車なのだが、どうやら26分の電車だと見間違えていたようだ。
と言うか、あと一分なのに走っても間に合わんでしょ……。
「九十九君? 何してるの、早く行くよ」
「先輩、時間見間違えてますよ」
「えっ?! あ、ほんまや……」
先輩がはっとしたように口を押さえる。
つい出てしまった関西弁に対して口を押さえたのか。 それとも、単純に時間を見間違えていた事に恥ずかしくなったからなのか俺にはわからない。
「ね、ねぇ、九十九君……」
「なんでしょう?」
「なんで、先に言ってくれなかったの〜!」
「なんでって、勝手に見間違えて焦ってたの先輩じゃないですか」
「九十九君だって、慌てて時間確認してたじゃない」
「いやだって、そんなこと言われたら誰だって焦るでしょ」
「そ、そうかな……」
「そうですよ」
はぁ……。 疲れた。
なんか変な言い争いみたいになっちゃったし、今何時だこれ。
「うえ!?」
思わず変な声出してしまった。
「せ、先輩!」
「なによ……」
「落ち込んでる場合じゃないですって。 ほんとに乗り遅れそうですよ」
「えっ、ほんとだ!」
「走りますよ!」
「ま、間に合うかな……」
「間に合わせるんですよ」
俺は先輩の手を取って駅まで引っ張って走った。
「ぜぇ……ぜぇ……ま、間に合ったぁ……」
「ギリギリだったね」
「ほんとですよ。 そんなに自分の手を見てどうしたんですか?」
「あ、いや。 何でも無いよ」
「そうですか」
二人は電車の中でこれ以上の会話は無かった。
単に話題が無いだけなのだが、疲れてたせいもあると思う。
30分ほど電車で揺られ二人は電車を降りる。
丁度通学する学生がこの時間は多く色んな学校の生徒が歩いている。
中には恋人同士なんだろうなって思う人達もちらほらといる。
他の人から見れば俺たちもそう見えているのだろうか。
ふと先輩の方を見ると、目が合った。
何故か、目を逸らされてしまった。
「おーい、九十九〜」
少し低めの声で俺の名前を呼ぶ声がする。
声が聞こえた方を向くと俺から見て少し大柄の金髪の男が近づいて来ていた。
間違いなく鋼だ。
相変わらずチャラそうな見た目してるよな。 見た目通りチャラいとこはあるから違和感は無いけど。
「おはよう」
「おはよう! お、この人が噂のお前の彼女?」
「だから、違うってこの前も言っただろ」
「じゃあ、誰なんだよ」
「最寄り駅がたまたま一緒なだけだよ」
「でも、最寄り駅が一緒なだけなら一緒に帰ったりしなくね」
「そ、それは色々あんだよ」
「やっぱあるんじゃん」
「そんな気になるみたいな顔されても教えてやらんからな」
「んだよ〜」
家が隣なんです。 なんて言えるかっての。
「てか、あいつらが鋼のこと呼んでるぞ」
「お、わりぃな。 んじゃ、また教室で」
「おう」
あいつ、ぐいぐい来すぎなんだよなぁ……。
いつの間にか先輩もいなくなってるし、何処行ったんだろう。
とにかく周りを見渡しても見当たらないし、一人で学校に向かう。
それからしばらくの間先輩と会うことは無かった。
電車でも一緒にならないし、学校でも会わない。
わざわざ家に行く必要なんて無かったからほんとにここ数日会っていない。
別に、何も問題は無いのだがこんなにあっていないのは嫌われたようにしか思えない。
「はぁ……」
不意にため息が出てしまう。
「なぁ、九十九。 マッグ行こうぜ」
「急だな。 今日部活は無いのか?」
「あー、部活な。 俺辞めたんだ」
「え、なんでだよ」
「まぁ、色々あってな」
「そうか」
「それで、マッグ行かね」
「いいよ。 行こうか」
何処か行こうって誘われるのはなんだかんだで初めてだな。
いつも、昼食一緒に食べてるのにな。
ある意味、新鮮だ。
「なぁ、お前彼女とは別れたの?」
「は? いや、そもそも彼女じゃ無いからなあの人」
「あんなに毎日一緒に学校来てりゃ、誰だってそう思うだろ」
「最近会ってないけどな」
「そうなの?」
「そうだよ。 若干混んでるな。 俺席探して来るわ」
「席探し俺行って来るから並んでて。 あ、もし俺が戻ってこなかったらハンバーガーのセット頼んどいて」
「はいはい」
席を探しに行った鋼が人混みの中に消えていく。
あいつ絶対並ぶのめんどくさかっただけだろ。
にしても、ここのマグド広いな。 二階もあるのか。
あいつ戻って来る気無いだろ。 もう、レジ前まで来ちゃったよ。
「あ、すいません。 これとこれください」
「かしこまりました。 料金はこちらになります」
あいつの高いわ……。
ちゃんとあいつの分は返して貰うけどな。
支払いをしようと財布からお金を取りだそうとしたときに、財布の中に入れていた一枚の写真が落ちた。
「おっせぇなと思って来てみたら今支払中か。 ん? 何か落としてるぞ」
「ん?あぁ、悪い」
「これ、何の写真?」
「後で、話してやるからお膳くらい持て」
二人は商品を受け取って、鋼が見つけてきた席に座り食べ始める。
「それで、あの写真なんなの?」
「あれは、俺と俺の姉が写った写真だ」
「え、お前。 姉いたの?」
「一応……」
「なんで、そんな曖昧なんだよ」
「……」
このことを言うべきかどうか少し悩む。
別に、隠しているとかそう言うわけではない。
ただ、上手く説明出来る自信が無い。
それに、話しが重くなるかもしれないと思うと少し話しにくい所もある。
悩んでいる時に鋼は俺の事を心配そうに見ている。
「はぁ……。 ちっちゃい頃に離ればなれになってそれ以来会ってないんだよ」
「そうだったのか。 変なこと聞いて悪かったな」
「別にいいさ。 それに、俺が東京に来たのは姉を探すためだしな」
「そうだったのか。 見つかると良いな」
「あぁ、俺の唯一の家族だからな」
この話はここで終わりにした。
鋼に変に気遣われるのは気まずいし、そんな話をするためにわざわざここに来たわけじゃ無いからな。
その後は他愛の無い話しばかりした。
主にクラスの話しが多かった。
何より驚いたのが柊さんが鋼と中学一緒でそれなりに仲が良いってのは驚いた。
聞いてて、素っ気ない人なのかと思いきやそうでもないらしい。
鋼はクラスメイトとそれなりに仲良くやっている話しを聞いていると、こいつはクラスのムードメーカー的な立ち位置にいるのかもしれないなんて思ったりもした。
そんな話しをしていたら時間はあっという間に過ぎて行ってしまった。
「もう、こんな時間か。 そろそろ解散するか」
「そうだな。 今日は楽しかったよ」
「おう、また明日な」
「また、明日」
お互い駅前で別れ、それぞれの家に帰る。
案外楽しい一日を過ごしたような気がする。
友達と遊ぶのが久しぶりだったせいもあるかもしれないが、良い一日だったと思う。
後日の放課後、最寄り駅前で俺は何故か先輩の手を掴んでいた。
掴んでいるのには理由がある。
鉢合わせした様な感じになったのだが、俺に会った途端先輩が逃げようとしたんだ。
それを止めようと反射的に手を掴んでいた。
絵面的には完全女の子を無理矢理襲おうとしている男の図にしか見えない。
「離して!」
必死に振り払おうとする先輩の手が先輩の鞄に手が当たり、バランスを崩して二人が転けてしまう。
そのせいか先輩の荷物の中身が出てしまっていた。
俺は慌てて荷物をかき集め先輩に返す。 その時、一枚の写真がひらりと地面に落ちた。
写真を拾って返すときちらっと見えたものが見覚えのある写真だった。
「先輩、その写真何処で……」
「何処でって、これは私の写真だよ」
「え?」
「なんで聞き返すのよ」
これが、正しいならこの人が俺の姉になるんだけど……。
「ちょっと、聞いてるの?」
「あ、ごめんなさい。 先輩、これ」
「うそ……」
財布にいつも入れてる写真を写真を先輩に見せた。
信じられないという表情をする。
当然だ。 こんな奇跡があって良いのだろうかと思うほどだ。
俺だって、未だに信じられない。
探すために来た東京で、最初に会った人が姉だったなんて。
誰がこんな奇跡を信じるのか。
だけど、お互いの持っている写真が何よりの証拠だ。
「姉ちゃん……?」
「ほんとに、弟なの……?」
「多分……」
お互い幼少期に離ればなれになってしまっているためほとんど記憶が無い。
唯一の頼りがこの写真だったわけだ。
未だに信じられないという顔をする二人。
余りの衝撃に言葉が見つからない。
再会出来た喜びは少なからずある。
ただ、どう接していいのかわからなくなっていた。
お隣さんが、姉だったなんて誰も思わないだろ。
はい、恋夢です!
回収ですね。 早いほうが良いと思ったのとあらすじで既にばらしていたのでここからが本番って形だと思ってます。
頑張って毎日投稿続けれたらなって思います。
それではまた次の作品でお会いしましょー!