11フレーム目 『ブラックなキミたち』
「私の会社、ブラック企業なの」
「は?」
「今帰ると、明日…今日も朝8時半には出社することになるわ」
「今午前3時だぞ!」
「遅刻は厳禁な会社なの」
「さすがに今日ぐらいは休ませてもらえるだろ!」
「しばらくドロボウの人質になって、自由になりたいの」
「人質に自由にされてたまるか」
「お願い」
テンサは「ドロボウ」に顔を近づける。テンサはスーツなので、椅子に座っているドロボウの視点からは胸元が少しはだけて見える角度になる。
テンサは絶対に美女である。
彼女の黒く長い髪と黒いスーツは抜群の相性だ。足も長いので当然歩けば見栄えもいい。しかし彼女はブラック企業に勤めている。化粧もちょっとさぼり気味だ。髪も傷んでいる。スーツも黒とはいえ、ちょっと皺ができている。とても残念だ。
ボロい雑居ビルの狭い階段を上る。その5階の廊下のどん詰まり。重いトビラを開けたこの部屋がドロボウのアジトだった。
そのアジトの中は、本が乱雑に積まれて、所々に高そうな時計、宝石がガラスケースで保管されているが、テンサには価値はわからなかった。
今、彼女の前にいるそのドロボウはジャケットをラフに着ておりボサボサ頭。一見すると20歳前後に見える。鼻筋が通っており目つきが鋭い。改めて顔を近づけるとちょっとイケメンかも?テンサは思った。
詰んである本ごしに、ドロボウと目が合う。ギロリと睨まれた。
物おじせず、テンサは言う。
「私を帰せば、私はあなたを通報するよ」
「なぜそうまでして、俺の人質になりたいんだ」
「休みたいもん(仕事を)」
「えっ」
「休みたいんだよ(有給カンストした)」
「…(ドロボウも仕事なんだけどな)」
「お願い(めっちゃ休みてえ)」
彼女の圧が強い。
「…わかったよ、ただし期間は数日だ」
ドロボウも折れることがあるのか。
「やったあ!しばらく会社休める!わーいわーい!」
テンサがホコリまみれの本に囲まれてぴょんぴょん飛び跳ねる。そんなに会社が辛かったのか…。
「おい。忘れてもらっちゃ困るがキミは人質だぞ。じゃんじゃん働いてもらうからな」
「えっ?どのぐらい」
「一日10時間だ」
「えっ、余裕」
「えっ」
人質にも劣る労働環境のブラック企業とは。