Orange
オレンジ色が目に染みて、わたしは目線を落とした。わたしの右手は彼の左手と握り合っていた。
「それで斎藤の奴が、田村に喧嘩売ってさー、どう思う?ひどくね?」
「あっ、うん、そうかも。」
「あのさー、人の喋ってるときはちゃんと聞けよな」
うわの空で話を理解していないわたしに、彼はいらだってるようだった。
「ごめん、志望校のこと考えてて。」
彼は困ったように目を細めた。
「なあ、どこ受けんの?」
「関東の、私文。就職がいいらしいから。」
「ふーん。」
わたしの答えに、彼は曖昧な表所を浮かべた。しばらく無言の時間があり、それから彼は口を開いた。
「俺たちさ、もう一年半付き合ってるけど、卒業したら別れんのかな?」
「わかんない」
「俺はその、一応というか、いや、かなりまじめに、たぶん、まあ、好きなんだけど・・・」
「わたしのことを?」
「いや、まあ、うん、そうだけど」
「そう、ありがと。わたしも」
わたしの口をついて出てくる言葉に、彼は少し照れていた。
「でもな、だから、なんていうか、お互い好きなら、別れないほうがいい気がするし」
「そういうこと、考えたことない」
「なんで?やっぱ嫌いなの?」
「重い関係が嫌いなだけ。あなたとのこと、頭で考えたくない。」
彼は顔高く上げて夕日を眺めながら、笑って言った。
「そうだよな。いままでどうり、考えずにやってこうぜ」
「うん」
わたしたちは、それからずっと、二人でオレンジ色に染まっていた。