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第八章「ロック」―3

 学園が閉鎖されてから、結構な時間が経った。

 少なくとも十日以上は経っていると思うが、しかしそう思うというだけで、断言はできない。これはただ、十回以上夜を見たというだけのことなのである。

 いかんせんそこら中の時計がでたらめになってしまったせいで、時間の正確な勘定ができなくなっている。木内なんかに聞いても、やはり同じような状況だそうだ。例えば暗い時間に寝て、起きてもまだ外が暗い場合、自分が数時間寝ただけなのか一日寝てしまったのかが分からなくなってしまうのである。もはや体内時計も当てにならない。

 しかも教師がいなければ授業なんて開かれるわけもなく、つまり生徒全員が宇宙遊泳のように完全に宙ぶらりんな生活を送っているのである。休日の昼間に寝転がってると掃除機でリビングから追い出してくる母親もここにはいないのだ。そんなわけで、余計に規律が狂ってしまっている。

 結局僕も今までの十何日間は、木内や部屋に押しかけてきたすだれと世間話をしたり、図書室で読書したり、たまに外でキャッチボールなんかをしたり、そうでなければ寝て過ごしたりして時間を潰しているだけである。それ以外に、どうしようもないのだ。

 数日前に回覧板のように生徒会からプリントが回ってきて(いつのまにかドアの隙間に挟んであった)、そこにはまだ機関からの連絡はないこと、学園の塀伝いに『魔術』による『ウォール』が張られていて外に出ることは不可能になっていること、その弊害として電話線やコンピューターのネットワークは切断されておりコンピューター室は使用中止になっていること、学園の端の方にある職員専用の寮(と言う割りにマンション並みに広く小奇麗な建物だが)を扉を壊して調査したがやはり誰一人発見できなかったことが記されていた。まあ、半ば予想通りの内容だ。

 まるで、世界が分離してしまったような状況。

 しかし元々が閉鎖された場所だったせいか、あまり困窮することもなかった。電気は変わらず使えてるし、食べ物も少し質が落ちたくらいで足りなくなっている様子もない。地下シェルターにあったストックが十分だったんだろう。まるでこうなることが予定通りだったかのように、生活はすんなり移行している。他の生徒からも、目立った反抗行動もないようである。

 閉じ込められても別段ストレスはなく、むしろ授業がなくなったおかげで宿題に追い立てることもなくなって安心している部分もある。が、だからと言って不安が何もないわけじゃない。

 非常事態のはずなのに、何も進展していない。

 好転も、暗転すらしていない。時間だけが過ぎていく。

 日常から切り離されてしまったかのような感覚だ。このままでいいとは、さすがに僕も思っていない。この状況が続けば、未来が狂ってしまいそうに思える。この前までの閉鎖されながらも高校生の三年間を刻々と消化していた日々に――まあ、あと一ヶ月くらいこの生活を満喫したくらいで――戻りたいと思っている。

 だが思うだけですべてが思い通りになるならばこの世から夢や希望なんて文字は消滅してしまうもんであり、残念ながらいまだに世の中ではこれらの文字が教育者の口から発せられることは止まず、つまりは何か願望があるなら行動せねばならんというわけだ。

 では、僕にできることは?

 コンマ一秒ほど自問自答し、三段論法よりも迅速にすっきりと「何もない」という結論が出てきてしまった。そりゃそうだ、生徒会や自警委員が動いてるんだ。いまさら僕が動いても、猫の手どころかありんこの手以上に期待できないだろう。六本あるわけでもないし。

 僕はただ、傍観していよう。

 そう思いながら、ごろんと自室の布団に転がった――

 ――その矢先、

 こんこんという木を叩く音と共に

「粉雪君」

 という涼やかで控えめな声が聞こえてきた。

 こんなか細い声がすだれであるはずもなく、また音域からして木内のわけもなくて、扉の奥の人物が誰なのか余計にわからなくなりながらも、僕はドアに近づいていって、ノブを回して扉を開けた。

 そこにいたのは、栗色の髪を後ろで一つ縛りにした、やや目つきのきつい――しかし、いつもより生気の薄い瞳の色をした――少女。野中乖離だった。

 乖離は僕の顔を見上げ、不安げな声音で、


「…………粉雪君。……どうしよう?」

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