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第八章「ロック」―2

 僕ら生徒全員が、グラウンドに出された。

 野球場くらいの広さの土エリアに、千人ちょっとの生徒が集められている。詰めたすしをさらに圧縮したくらいの人口密度。右も左も人、人、人で、僕は身動きが取れなくなっている状態だ。トイレに行きたくなったら、どうすればいいんだろう?

 何でこんな状況になっているのかというと、現在生徒会と自警委員の面々が構内をくまなく『サーチ』しているからである。あの放送があってからゆうに二時間は経っていると思われるが、いまだに機関からの救援はなく、生徒が自ら詳しい調査に乗り出したということらしい。

 別にただの見回りならわざわざこんな大盛況のライブ会場みたいな環境を作ることもないわけだが、今回使う『サーチ』はこの前の球技大会の時のものよりも格段に強力で、人体にあまりよろしくないらしい。強い磁場が発生することが研究で明らかにされているそうである。

 そんなわけで、それに怯まない自己犠牲の精神に満ち溢れた有志のみが空っぽの校舎の中をうろつくことになるわけだが、そうなると必然的に、その人達に部屋の中を覗かれてしまうことになる。

 このことを放送で告げられた時、最初は合唱のようなブーイング(特に女子寮の方から)が聞こえてきていたが、スピーカーを通じた一本木先輩の真摯な説得に段々それも小さくなっていった。女子寮は女子、男子寮は男子の生徒会役員や自警委員が『サーチ』するという断りがある程度の効力を持っていたとも思うが、大半は一本木先輩の人望によるものだろう。こういう時にカリスマなるものが重要になってくるんだなあと、僕は一つ賢くなった気分になった。

 グラウンドに立ち尽くしたまま、朝食を食い損ねて空っぽのままの胃袋を出掛けに持ってきたせんべいを放り込んで満たしながら、『サーチ』が早く終わらんもんかと思っていると、

「しかし、『サーチ』したからって、何か見つかるもんなのかね?」

 僕の隣、地べたにあぐらをかいて座っている木内が話しかけてきた。

「……まあ、こんな大々的な現象は十中八九『魔術』がらみだろうし、調べりゃ何か出てくるんじゃないか?」

「そういうもんかね? 人を百二十人も消す『魔術』なんて、相当大規模なもんなはずだろ。なのに昨日の調査じゃあ何も見つからなかったんだ。いくら『サーチ』を使ったからって、そう簡単に発見できるもんかね?」

「……さあて、ね」

 僕は適当に答えた。

 しかし、思い当たる節はある。それはつまり、クルト先輩が言っていた〈不審なもの〉だ。赤かったり、青かったり、丸まってたり、角ばってたり。その風体からして『魔術』に関わりがありそうなもの、そして今思いつく限り一番怪しいものである。自警委員も、きっとこれを睨んで調査をしているんだろう。どんな関係があるのかは、僕のあずかり知らぬところだが。

「ったく、早く終わんねえかな。さっさと腹ごしらえしてえ。いい加減、せんべえにも飽きた」

「……人のものもらっといて、何だ、その言い草は。もうやらないからな。…………と言うか、食堂のおばちゃんまでいなくなって、これから食べ物はどうなるんだ?」

「調理場に行けば何かしら残ってるだろ。あとは、家庭科部に期待だな。地下シェルターにも保存食があるらしいし、そこまで深刻じゃないと思うぞ」

 ……地下シェルター? この学園、地下シェルターまであったのか。……初めて知った。

「そうか、お前ホントそういうのに疎いよな。友達少ねえことが証明されたな。こんなの、大概のやつは知ってる話だぞ。そのシェルターってのは、ほら、そこの、トタンの小屋の地下にあるそうだ。『種』の『核』だってそこにあるんだ。いわば『魔術』の心臓部みたいなもんなんだぞ」

「……そうだったのか」

 うーむ。『種』の大元である『核』っていうものがこの学園にあることは聞いてたが、そんなところにあったのか。灯台下暗しというか何と言うか……。一本木先輩に言われた時、ちゃんと探検でもしときゃよかったかな。今度、暇ができたときに考えてみよう。考えるだけで終わりそうだが……。

 ――しかし、

 これだけ大勢の人間に囲まれてるってのに、いつもより気分は落ち着いてる気がする。まあその理由も分かりきったことで、こういう割と自由な時間には決まって僕の周りに現れるすだれが、今日は現れないからだ。

 周りを見渡すと、そこかしこに知った顔の女子も見えるが――もちろん、乖離はいないけど――すだれだけは見つからない。まあ、千人の人ごみの中から目当ての一人を見つけるなんて、無理難題に等しい所業だろう。

 今は、木内と気のない友人トークをして時間を潰すことにしようか。


 ――結局、『サーチ』が終わるまでには、さらにだいぶ時間がかかった。


 せんべいが底をついた頃、僕はようやく寮に入ることを許可され、自室に戻った。

 別に机の上や本棚など荒らされたような形跡はない。朝見たまんまだ。まあ、たかだか数人で千人分の部屋を一つ一つ回ったんだ、そこまでする時間もなかったんだろう。『サーチ』さえすれば目的は果たせるわけだし。

 ふと床を見ると、目覚ましに使っているこの部屋唯一の時計が止まっていた。ふたを開け電池を取り替えてみたが、一向に動く気配がない。『サーチ』でできる磁場にやられたんだろうか? 一体どれだけの強さだったんだろう。

 仕方なく腕時計で時間を確認しようとしたが、なぜか針は九時五分を指している。

 感覚的には、朝起きてから四時間くらいは経ってるはずなのに。秒針はちゃんと動いているし、電池が切れた気配はない。何がおかしいんだろうと思っていると、ふと、さっきグラウンドから戻る際に、飛行機の搭乗ゲートのよろしく生徒一人一人が軽く『サーチ』をかけられたことを思い出した。その時の影響だろうか。

 …………正確な時間がわからなくなってしまった。

 まあしかし、この目覚ましは元々安物で単に買い換えればいいだけだし、腕時計も後で合わせ直せばいいだけだ。僕は気にしないまま、今日の予定が白紙に戻ったことを思い出しつつ、しょうがなく布団にもう一度横になった。

 

 ――僕がこの謎の渦の中に巻き込まれることなど、微塵も考えずに。


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