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第八章「ロック」―1

 その日――すでに文化祭の熱も冷めやり、中間試験も乗り越えてようやくいつもの平穏な心身を取り戻したが、いよいよ空気が冷たくなってきていて、朝起きるのが億劫になりつつある十一月の第四日曜日――、僕はさっきから七時になったとわめいている目覚ましの頭を小突きながら、布団から起きだした。

 見飽きたいつもの六畳一間。

 あくびをしながらカーテンを開けると、視界が一気に白くなった。ガラス越しにひんやりした空気は感じるが、その冷たさをかき消して余りあるくらいの日光が差し込んでいる。外出日和と言っても差し支えない晴れ具合だろう。

 食堂の開始時刻である七時半に間に合わせようと、僕は寝ぼけ眼をこすりつつ歯ブラシとタオルを抱え、部屋を出て共同の洗面所に向かった。

 鏡に映るぼんやりした顔を眺めながら、顔を洗って歯を磨いてと、毎朝繰り返している身支度を淡々とこなす。他の生徒も考えることは同じようで、僕と大体似たタイミングでこの洗面所にわらわらと集まってきた。そりゃ誰だって、朝ご飯くらい落ち着いて食べたいだろう。日曜は授業がない分、八時半頃から食堂が込み始めるので、みなそれを見越しての早起きなのである。

 ただし僕には、早めに起きた理由はもう一つあり、それはすなわち今日は外出する予定だからだ。

 前回二週連続で外出したら「遊びすぎじゃないか?」と注意されたわけだが、まあ、一ヶ月も間を取れば十分だろう。先週出しておいた申請書もつつがなく通った。今日は、テスト期間中に溜まった鬱憤を外で思いっきり晴らしてくるつもりである。

 今日の行動予定をシミュレートしつつ、部屋に戻って着替えも完了。そろそろ食堂へ向かおうかと思って立ち上がった瞬間、

 コンコンッ

 ドアがノックされた。

「はいはい」

 と応えつつ、その声の主が誰なのかまったく予想できないままなんじゃらほいと扉を開けると、その向こうに立っていたのは木内だった。

「……おい、粉雪、知ってるか?」

 見てる僕を不安にさせるくらいの深刻な表情をした木内は、朝のあいさつもなしにいきなり聞いてきた。

「知ってるって、何を?」

「昨夜のことだ」

 重々しい語気で言いながら、木内は僕の断りもなくずかずかと僕の部屋に入ってくる。

僕はドアを閉め、木内の方を向きながら、

「昨夜って……何か問題でも起きたのか?」

「問題なんてもんじゃねえよ。問題は問題でも、大問題だ。俺もついさっき西岡に聞いたばっかなんだが、信じられねえよ。ありえねえ。ありえねえって。いくら『魔術』の学園だって、起こっていいことと悪いことがある。常識でも非常識でもありえねえ」

「だから、何が起こったって言うんだ?」

 なかなか核心を話さない木内に、僕がやや声を荒げて言うと、


「教師が全員消えちまった!」


 ……………………え?

「教師がみんな、人っ子一人消えちまったんだ。それだけじゃねえ。理事長も、事務の人も、警備委員も、寮の管理人も、職員が全員いなくなっちまった。この学園にいるのは、もう生徒だけだ」

「……いや、何言ってるんだ? そんなわけ――」

「本当だ! 俺もさっき学園中を色々見て回ってきたが、本当に大人が誰もいねえんだ。警備員の待機室だって空っぽだった。信じられねえって言うなら、管理室見てきてみろよ。本当に誰もいねえから」

「……な、何でそんな、いきなり――」

「わからねえよ。聞くところによると、昨夜の点呼で女子寮の管理人を見たのが職員を見た最後だって話だ。その後、その寮の生徒が用があって十一時くらいに管理人室を訪ねたら、もう誰もいなかったそうだ」

「……いや、いやいや、仮に本当にいなくなってたとしても……でも、だったら、一体僕達どうするんだよ? 警察には伝えてあるのか?」

「警察に言えるわけねえだろ。『魔術』絡みかもしれねえのに。余計混乱しちまう。恐らく上の研究機関に伝えることになるんだろうが。とりあえず今は、生徒会と自警委員が色々調べてるらしい」

 生徒会と――――自警委員。

 乖離、一本木先輩、そしてクルト先輩か……。

「くそっ、一体何が起こってやがるんだ!」

 木内がうめきながらバリバリ頭を掻いた瞬間、


 ピーン、ポーン、パーン


 いきなり、廊下の方から木琴の音が聞こえてきた。一瞬理解が追いつかなかったが、これは放送だ。このタイミングで流れるなんて、ソレに関係することに決まってる。

 慌てて廊下へ出ると、他の生徒もバタバタと部屋から這い出してくるところだった。みんな顔に不安を滲ませている。この話は、すでにみんなに広まっているんだろう。

 実際は一秒にも満たなかっただろうが、数分に感じるくらいの時間、物音立てずに耳を済ませていると、

『生徒会から、緊急の連絡をします』

 壁についてるスピーカーから一本木先輩の声が聞こえてきた。声音が鋭い。その雰囲気から、事の重大さが感じられる。

『心して聞いてください。深刻な事件が起きました。この学園の教職員全員が、目下行方不明です。生徒会及び自警委員で調査したところ、職員百二十五名全員の失踪が確認されました。これについて、生徒会主導の元、すでに機関には通達済みであり、返答を待っている状況です。またそれに加え、さらなる事件の発生を警戒して――


 ――この学園を、完全に閉鎖します』

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