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第七章「スクリーン」―1

 時計塔が消えてから、今日でちょうど二週間が経ったことになる。

 あの後、担任倉林教諭にも聞いてみたが、「そんなものは知らん」の一言でつっぱねられた。それでも食い下がって「だったらこの学校の図面を見せてください、もしくは工事費の決済でも」などとあまりにしつこく聞きすぎたため、結局先生にまで色々心配されることになっってしまった。職員室で、僕について変な噂が流れてなければいいけど。


 しかし今までの十四日間、変わったことはそれだけなのである。


 僕のどこかがおかしくなってしまったとか、変な『魔術』が発動しているとか、その後のことについてもそれなりに覚悟はしていたが、他には変なことは何一つ起こっていない。いまだに僕は、しがない閉鎖された高校一年生ライフを継続中なのである。

 だから余計に、分からなくなる。

 朝も昼も夜も授業中も休憩中も夢の中でまで、僕は時計塔が消えたことについてとくとくと考えていた。頭をひねり、首をひねり、過程の過程の過程まで分析し、仮定の仮定の仮定まで推測していった。

 しかし結局、その答えは諦めるしかなかった。

 いかんせん、理由も目的も何一つ見えないのである。考える取っ掛かりが掴めない。もう僕に、この謎に立ち向かう手立てはなかった。

「――はあ…………何なんだか」

 と廊下を一人とぼとぼ歩きながら、うつむきつつ嘆息したところで、

「あ、粉雪君っ」

 前の方からお呼びが掛かった。そっちに視線を移すと、廊下の向こう、眼鏡の下にテンション高めの笑顔を張り付かせたすだれが、こっちへ駆けて来るところだった。

「ちょうど良かった。ね、ね。今日の夕方あたり、暇?」

 行き交う人たちをぴょんぴょん避けながらこっちに寄って来たすだれは、言葉に質量があったら吹き飛ばされてしまいそうなくらいのイントネーションで言ってくる。

「……何だ、藪から棒に? 暇だったら何だって言うんだ?」

「あ、暇なんだね、よかった。実はね、うちの映画研究部がね、自主映画を上映するらしくてさ。西校舎の視聴覚室で。ほら、パンフのここ、ここ。書いてあるでしょ? でね、しかもこれがまた幼馴染の恋愛ものみたくってさ、もーこれは見るっきゃないって感じで――」

「――いや、僕はまだ、暇とは言ってな――」

「――だからさ、せっかくだから一緒に見に行こうと思って。こういうのって一人で見るのもアレでしょ? だから二人で見ようよ。でもあたし、フリーマーケットでちょっとお買い物しときたいし、占いにも行ってみたくてさ、そこまで粉雪君を連れまわすのも悪いじゃない? んで考えたんだけど――」

「――いや、だから僕はまだ――」

「――上映開始が四時からだからさ、そうだねえ、三時五十分あたりに、西校舎の玄関で待ち合わせって事でどうかな? いや、三時半にしとこっか。いい席取られちゃうと困るし。うん、そうしよっか。じゃあ、三時半に西校舎の玄関前に集合ね? いい?」

 ここまで言い終えると、すだれはこれ以上ないくらいの満面の笑みを僕に向けてきた。これからの人生にはもはや希望しかないと信じて疑っていない純粋無垢な子供のような視線。その瞳の輝きに、僕は顔を背けずにはいられなくなり、

「……わかったよ」

 息を吐きながら答える。

「よかった。それじゃ、また夕方ね」

 そう言って、スカートを翻しながらフィギアスケートのようなターンを決め、すだれはすったかと去って行ってしまった。

「……ま、いつものことだ」

 呟きながら、僕は手元のパンフレットに目を移す。そこには、でかでかと『那頭奈学園文化祭案内』と書いてある。


 そう、今日は文化祭なのである。


 しかし、この『那頭奈学園』の文化祭は、一般的な高校の文化祭とは趣が異なる。

 普通、文化祭と言えば生徒が露店を出し、地域住民が遊びに来て、ワイワイガヤガヤ日常とは違った華やいだお祭りを催すものである。だが、この閉鎖された学園で「ワイワイガヤガヤ」なんてものは実現さるわけがないのだ。

 結局今日も、閉鎖されていることには変わりない。

 外来の客なんて誰一人いないのである。つまりこの『那頭奈学園』の文化祭は、文化部の部員達が他の学生に向けて日頃の活動の成果を発表する、いわば発表会みたいなものなのだ。

 よって今日催されるイベントは、映画研究会の自主制作映画上映や美術部の絵画展、合唱部や合奏部のコンサート、軽音楽部のライブ、演劇部の劇の上演、家庭科部の喫茶店、囲碁将棋部のトーナメント戦など。露店はない。

 地味と言えば地味だが、それでも普段に比べれば少しは活気づいているもんだ。ある程度は学生のテンションを上げるに足るイベントなのである。その熱に直に当てられたのが、さっきのすだれだったりするのだが。

 木内は腕まくりしながら将棋のトーナメントに参戦しに行ってしまい、将棋のルールがまったくわからない僕は「勝手に行って来い」と送り出したため、現在一人でパンフ片手にウロウロする羽目になっているのである。

「……さて、どこに行こうかな?」

 そう呟きながらイベント開催場所の見取り図を眺めた僕は、ちょうど腹時計が鳴ったことに気付き、

「――まずは、家庭科部か」

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