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リナリア

作者: 伊月煌

二作目も花言葉のお話です。

よろしければ是非。

俺には日課がある。

それは朝食後自室に戻ってから必ずやることだ。

「……今日は、黄色、か。」

ベランダに出て、いつも置かれている一輪の花を回収すること。それが俺の日課。

 ベランダに置いてある花はいつも同じ形の花。毎日一輪ずつ、違う色のそれが置かれているだけで誰が置いているのかもなぜ置かれているのかも全く分からない。ちょっと怖い話だと思ってはいるものの、花に罪はない。実害もないからかわいいいたずらだと思って毎日回収している次第だ。

 拾った花を今日も花瓶に生けて、窓際に花瓶を置いておく。多分この可愛い悪戯を仕掛ける犯人に今日もちゃんといただきましたよ、と伝えたいが故の行動なのだと思う。

「失礼します。」

 ふと、ノックの音とともに1人のメイドが入ってきた。いつもこのタイミングで来る、若いメイドだ。

「紅茶をお持ちしました。」

「ああ、いつもありがとう。」

 彼女は、メイドの割にあまり愛想がよくなかった。周囲に愛想笑いと媚がうまいメイドばかりしかいなかった俺にとっては彼女の存在はかなり面白かった。

 彼女が自分の座っているデスクに近づいて、ティーポットとソーサー、マグを置いた。彼女が俺の脇を通ったとき、嗅いだ覚えのある、柔らかい匂いがした。

あれ……?

「……失礼致します。」

「あ、……ありがとう。」

俺がにっこり笑うと、彼女は相変わらずの真顔で深々と頭を下げた。


 次の日。

 朝食をいつもより早めに取り終えて、自室に戻った俺はデスクに座って読みかけの本を開くポーズをとった。

 ふと、ベランダに目を移すと小さな影が動いているのが見えた。動きたい衝動を抑えてじっと待つと、その影がゆっくりと離れた。俺は本を閉じて、素早くベランダの戸を開けた。

「なっ!?」

戸を開く音に吃驚して小さな影が振り向いた。

「やっぱり、君だったんだ。」

その影の正体は、いつも紅茶を持ってきてくれるあのメイドだった。

「戻っておいでよ。」

俺がそう言うと、彼女はゆっくりとベランダの前に戻ってきた。

 昨日、すれ違いざまに嗅いだ匂いは回収している花と同じ匂いだった。だから、もしかしたらとは思っていた。それを確認したくて早めの朝食をとったのだ。

「君が育てたの?」

「は、はい……。」

おずおずと、彼女が答える。

「これ、なんて花?」

 生憎、花に関する知識は皆無だ。俺は彼女に尋ねた。

「り、リナリアといいます……」

「ふぅん。なんでいっつもこの花なの?」

 重ねて尋ねた質問に彼女が顔を真っ赤にして長考した。自分のした只の悪戯がバレてしまったことが恥ずかしいのか、それとも……。

後者の選択肢がそうだとしたら、嬉しいなとふと思ってしまった。自惚れもいいところだ。

「じゃあ、こうしようか。」

 俺は彼女に笑ってこう提案した。

「君はどうして俺がこの悪戯の犯人が君だと分かったのか、推理してね。」

 あまりの唐突の提案に彼女はきょとんとした。

「俺は、どうして君がこの花をいつも置いていくのかを推理する。勝ったほうの言うことを負けたほうが1つ聞く。どう?」

 俺が尋ねると、そんな!と彼女は驚いた顔をした。

「わ、私が貴方様に勝負など……それに、命令なんて!」

「俺の退屈しのぎに付き合うんだと思ってよ。そんな大げさな話じゃなくって。」

 俺は笑いながら言った。すると、彼女はわかりました、と頭を下げた。

「じゃあ、明日まで考えておいてね。」

 そう言って俺は、足元にあった花を拾って部屋に戻った。今日はピンク色のリナリア。

「さあて、何から調べようかなぁ。」

 頭の中で思考を始める。それと、叶えてほしいお願いも。

 彼女がいつもよりふてくされた顔をして、これから持ってくるだろう紅茶を楽しみにしながら、俺は本棚を漁り始めた。


不完全燃焼感やばいです……。

Twitterネタ。個人的に好きな話です。

後日談も書けたら(書ける余裕があれば)書きます。

お付き合いいただきありがとうございました。

伊月

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