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乙女ゲーム、壊れた。 ~バタフライ効果は、侮れない!~  作者: 灯乃
『西』

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西條綾香 後編 ☆

 それから一年という月日が経っても、綾香と黎の関係は特に何も変わらなかった。

 高等部に上がった頃からますます忙しさの増した黎は、あまり西條の屋敷にいることもなくなった。

 それでもたまに顔を合わせれば、黎はやっぱりいつでも優しく笑ってくれる。


 綾香がわがままを言わなくなっても、黎の部屋に愚痴を言いにいかなくなっても、変わらず穏やかに――いつもと同じに、笑っていた。

 無茶とも言えるような両親の期待に完璧に応えながら、いつも、いつも。


(あぁ……。そう、だったのね……)


 今までのように盲目的に黎を慕うのではなく、一歩離れた距離から眺めてみれば、それはあまりにも明白な事実となって綾香の胸に落ちてくる。


 ――黎の笑顔は、仮面と同じだ。

 どんな感情もその下にきれいに隠して、決して誰にも素顔を見せることはない。

 綾香が慕ったのは、黎が完璧に作り上げた強固で美しい鎧のようなもの。

 とても美しく輝くそれは、見る者を惹きつけてやまないけれど、決してその内側に触れることは叶わない。


 そう気づいたときには、腹が立った。

 自分を騙していたのかと、そんな偽りの顔でずっと自分に接していたのかと、憤ろしくて仕方がなかった。

 どうして、そんなことをする。

 いつもそばにいる妹の自分にまで、どうしてそんな笑顔しか見せてくれないのかと、泣きながら詰ってやりたかった。


 ……そんなことなど、できるわけがなかった。

 ずっと偽りの笑顔しか見せてもらえなかったけれど、綾香はずっと、黎が何をしているのかを誰よりも近くで見ていたのだ。

 西條家の後継として常に高すぎる水準の要求を突きつけられ、それに応え続けてもなお、黎はそれ以上のものを求められていた。


 もし自分が黎の立場だったなら、なんて少し考えただけでもぞっとする。

 冗談でもなんでもなく――頭がおかしくなる、と思った。

 自分には、とても黎のしていることなんてできない。

 だが黎の姿は、もし彼が西條家の後継に相応しくないと判断されていたなら、間違いなく綾香がそうあるべきとされていた姿だ。


 自分に向けられていたのは仮面の笑顔でしかなかったけれど、それでも与えられた言葉だけはいつだって本当だった。

 黎は綾香が迷ったり困ったりしていたときには、いつも優しく導いてくれた。

 黎がわがままを言わせてくれたから、厳格な両親に対しても同じようにわがままを言えた。


 そうやって――ずっと、黎に守られていた。

 この西條という家の中で綾香が自由に息をしていられたのは、黎がいつだって穏やかに笑っていたから。

 何ひとつ自由にならない立場を押しつけられながら、それでもずっと、黎は笑顔で綾香を守ってくれていた。


 そう気づいたとき、綾香は泣いた。

 自分は本当に子どもで、何ひとつ知らなかったのだと思い知った。

 せめてもう少し早く生まれていたら、もう少し早く黎の笑顔の本当に気づけていたなら、何かが変わっていただろうか。

 あんなふうに、黎が子どもらしさなんてまるでなくした顔をしなくてもよかっただろうか。


 ……そんなことを考えても、ずっと黎に対して『わがままを言う』という接し方しかしてこなかった綾香は、これからどうしたらいいのかもわからなかった。

 黎にそんなふうに笑うのはやめろ、なんて言えるわけがない。

 彼が自分を守るために作り上げてきた仮面を、鎧を、そんな自分のわがままで壊してしまうなんてできるわけがない。


 だからせめて、黎にこれ以上迷惑をかけないよう、ちゃんと自分のことは自分でしようと思った。

 そんな綾香のささやかな努力を見た両親は「少しは大人になったようだ」と嬉しそうにしていた。

 けれど、自分などよりもずっと黎の笑顔を見ていたはずなのに、我が子の本当に何ひとつ気づこうとしない彼らに失望した。


 両親にとって大切なのは子どもたちの気持ちでも心でもなく、『西條』という名前を正しく継ぐための人形なのだと理解した。

 黎は、この家のすべてを受け継ぐ者として。

 綾香は、西條の威光を背負って他家に嫁ぐことで、その家とのパイプを一層強めるための道具として。


 ――上等じゃないか、と思った。

 黎はきっと、もう逃げられない。

 幼い頃からずっと西條家のためだけに生きてきた彼は、今更築き上げてきたものすべてを捨てて逃げ出すなんてできない。

 そんなことをしたら、きっと多くの人々が黎を責め立て、彼の人生を本当に潰してしまうだろう。


 けれど、綾香には何もない。


(……ありがとう、お兄さま)


 黎はずっと、偽りの笑顔で綾香を守ってくれた。

 そんな彼の心の中に、おそらく綾香の居場所はない。

 それでいい。

 いつか綾香がこの家を捨てて出ていっても、きっと黎は傷ついたりはしないだろう。


 だから、このままでいい。

 黎が綾香に向ける笑顔は、仮面のままの笑顔でいい。

 自分たちを繋ぐものは、血の繋がりだけでいい。

 心は繋がないまま、綾香は黎の代わりに外の世界を自分の目で見て、自分の耳で聴いて、自分の手で触れて、自分の心で感じてこよう。


 そしていつか、見せてあげたい。

 この家から逃げることを許されない黎に、世界中に溢れるきれいなものを、そのかけらを、ほんの少しでも教えてあげたい。

 だから――黎が守ってくれた自由な心のままに、自分は広い世界に飛び出そう。


(愛してるわ、お兄さま)


 たとえ黎が綾香のことを愛してくれていなくても、自分にとって彼はたったひとりの兄だから。


 だからいつか――どうか、笑って。

 自分を守るための笑顔ではなく、どうか心からの笑顔を見せて。

 あなたが心から笑ってくれるくらいにきれいなものを、私は世界のどこかで必ず見つけてみせるから。





綾香「まずは、英語とフランス語をきちんとマスターするのです(気合い充分)!」

黎「あ、綾香がいきなり留学するとか言い出した……(応援するけど、お兄ちゃん心配)」

斉希「隠れシスコンも大概にしろや(そのうち黎の好きなショコラティエの新作を送ってもらおう)」




西條綾香


ゲーム設定:

重度のブラコン。妹系ロリキャラなので、髪型はロングのツインテール(笑)。天真爛漫な愛されキャラだが、兄の黎に関することではわがまま放題の小悪魔小姑に変貌する。ゲームヒロインが西條ルートを選択した場合、「そんなこともご存じないの?」とふんぞり返って高笑いするコンパクトキュートな姿が、一部のコアなマニアをときめかせる。


現在:

重度のブラコン。由緒正しい家柄のお嬢さまなので、髪型はごく普通のストレートロング。中等部を卒業後はスイスの寄宿学校に留学予定。その後フランスの写真学校に入学し、卒業後はフリーのカメラマン志望。兄と同じく、大自然の造形美を捉えるセンスには非常に恵まれている。いつかノルウェーでオーロラを見るのが夢。黎からは普通に妹として愛されているが、兄の『完璧な笑顔』に気づいたときにはまだ中学生だったので、その微妙な変化までは読み取ることができなかった。

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