第1話 原作とは、
世の中には『原作』というものがある。辞書的に言えば、改作や翻訳の元となった作品を指すわけだ。日本で一番改作ネタにされた作品はきっとルイス=キャロル原作の『不思議の国のアリス』なんじゃないだろうか。まあ、アタシの独断と浅見かもしれないけど。
前世って言ってるから分かる通り、アタシは死んだ人間だ。そしてかつて生きていた世界とまったく違う所で再び生を受けた。なんで言い切れるのか? それは魔法があったり、ファンタジー系の漫画なり小説なり伝説にしかいなそうな幻獣が普通にいるからだ。
おいおい、どこの小説だよ、とセルフツッコミをしつつも、第二の人生を棚ぼた的に貰っちゃったから生きることにした。前世の死因が病死で、やりたいこととかあんまり出来なかったので、ラッキーって思って享受している。
ライトノベルよろしく特殊能力とか、オラわっくわっくするぞ! ってかめか●波とか、ファ●ア! とか叫んだのは、黒歴史だ。特殊能力? 知らんわ、ボケ!! 前世で一般人が、いきなり逸般人になるはずないだろ、常識的に考えて。
それでも、お金に苦労しなくて、家族や友人と、健康に恵まれただけ、感謝しなくっちゃね。
四苦八苦しつつもこの世界に慣れた頃、あれ? 何か可笑しいかも、って思ったんだよね。いや、だってさー、やたらめったら美形が多いだよね。
学年六十人いて、八割以上が顔が整っているって可笑しくない? 残りの二割未満にしたって欠点らしい欠点もない。顎がしゃくれてるとか、鷲鼻とか、不細工要素がまるっきりないんだよ。最初はこういう民族なのかなーって思ったんだけど、絵本の挿絵とか、どこの国の肖像画みてもそんな感じ。
それから学生間で噂になる奴の武勇伝とか聞いても、どこの漫画とかラノベだよってツッコミたくなるものばっかり。やれどこそこの戦争で千人切りした魔法騎士とか、やれ行く百の幻獣を従えたとか、いやファンタジーだからかな。
しかーし! うちの国の第十三王子ことヒルデブレヒト王子の衝撃エピソードが噂で聞いた事により、アタシは確信した。
この世界って、乙女ゲー世界かよ!?_____と。
日本で乙ゲーが普通に出回る様になった頃に出た乙女ゲーム『女神の祝福』シリーズは、一部にカルト的人気があった作品である。人気作を手がける敏腕プロデューサーに、有名絵師様・実力派の声優を取り揃えて作られたらしい。秀麗なスチルに、うっとりする声に、魅力的なキャラクターに、大容量かつ面白いストーリー。カルト的人気になったのは当然なのかもしれない。
人気になったゲームとかドラマとかって、大抵続編が出る。勿論、この人気乙女ゲーは続編に擒とかなんかも出したらしい。そこら辺が曖昧なのは、アタシの興味の範疇外だったからだ。友人が乙女ゲー大好きのゲーマーだったんだよね。
アタシがなんで、『女神の祝福』の世界だって気付いたのかって言うと、ファンから変態王子と呼ばれているヒルデブレヒト王子の衝撃エピソードが噂で流れたからだ。曰く、誘拐されて亀甲縛りの状態で発見されたって……………。ゲーム会社は一体何を考えてこのエピソードを入れたんだろう。受け狙い? それともインパクトか? 理解に苦しむわー。
まあ、それはさて置き………………どうも初めまして。アタシ日本人してました、田宮鈴鹿で、今は生まれ変わって、テルマ・ヴァルブルク・シュティフター子爵家の令嬢してます。
どこぞのネット小説よろしく『悪役令嬢に転生して破滅フラグぶっこするお』でもなく、『ヒロインに生まれ変わって愛しのあの人とお近づき♥』するのでもなく、『ゲームの攻略キャラになったからどうしよう』でもない。客観的に考えて、単なるモブだ。
それならば過去に攻略キャラクターのトラウマ改善をしたとか、子供の頃に約束したとか、ゲームの登場人物達の馴染ポジションとかもない。期待した誰かがいたらすまないが、アタシ以外の誰かに求めてくれ。
なんでこんなに消極的か? 自分でやっていないゲームについてなんて知るかよ。それに恋愛とかいらないわー。つかれるし。原作とか知らんアタシが原作通りとか良く分かんないし、そもそも原作イコール今とは限らんでしょう。
いや、それよりも原作キャラって誰だろうね? 何となく攻略キャラクターなんじゃないかなーって思う奴はいる。基本顔がいいは絶対条件でしょう。後は王道っぽく、王子様とか、侯爵嫡男とか、転校生とか、やたらめったら女生徒に人気あるやつとか。
平穏無事に傍観したいわー、本当に。
だがしかし、アタシの願いは基本的に叶わないのだ。アタシがモブだからかね?
____単なる、可能性でしかない。
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