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分解・再構築・物質変換

 ゲームを始めた。

 エルダー・テイルという名の、そのゲームはMMORPG、つまり大人数で参加して楽しむロールプレイングゲームだ。

 キャラクター名に、恭介 と入力。

 メインは、武闘家。スピードと小技がメインの、前衛職。

 サブは、生産系サブ職業の錬金術士を選択。アイテムの分解や、錬成による別の物質の構築なんかができるらしい。


 さて、俺は、この世界でなにをすればいい?









 大災害。のちにそう呼ばれる事となる変異は、恭介にいまいち実感はなかった。

 エルダー・テイルをプレイしていたユーザーが、完全にゲーム内に取り込まれるように自分のプレイキャラクターと同化した変異。いままでモニターの向こうにあった景色が、現実の質感をもって目の前に広がっている。

 それは一部の熱狂的ユーザーにとっては、好意的に受け止められた。ゲームの世界に自分の身体が投射されているのだからそうである。いわゆる現実逃避の一つとしてゲームをプレイしていたユーザーがコレにあたる。

 しかし、時間経過にともなってそんなユーザーでも気づくことになる。

 現実世界、つまり通常の日本へと帰る方法がないのである。

 通常であればログアウトのボタンをクリックするだけで数秒のタイムラグの後、ゲームは中断される。しかし、この世界では、押してもボタンはエラー音と共に振動するだけでログアウトはできない。

 現実への復帰方法がない。皮肉にもそれは、現実逃避を目的としたユーザーであったとしても、中々受け入れられない事実であった。




 しかし、恭介にその実感は、まるでない。

 なぜならゲームを開始したら、すでに異世界だったので既存のユーザーに存在する比較元、つまりゲーム画面での先入観が一切ない。これが、エルダー・テイルと突然言われてもすべて納得してしまう。

 ゲームを開始して3時間。いわゆるチュートリアルを順調に消化しゲームの基本的な事を学んだ。戦闘の基本と応用、各種モニターできる情報の確認方法、アイテムの使い方、貨幣について、モンスター撃破時に得られる報酬、サブ職業について、などなど。

 イロイロNPCと思われるキャラクターに教わって、逐一関心する恭介。


(大したもんだ、こんな質感溢れるゲームが、もう日本にあるってだけで驚きだ)


 そんなどこか場違いで頓狂な事を考えつつ、チュートリアルを終えてアキバの町中にに出てみると、どうにも周囲の雰囲気が悪い。

 そこら中で顔を暗くした人間が下を向いてうなだれており、少しの知り合いが居る連中についても同様で暗い顔でこそこそなにか会話を交わしている。

 なにか悪いことでも起きたのだろうか、と首を捻りつつアキバの外へ向かって歩き出す。簡単なお使いレベルのクエストを、チュートリアルの最後で受けたから、そのためにモンスターを狩る予定だ。


「ちょっとそこ行くおにいやん」


 関西弁で呼び止められて振り向く。そこにはとんでもない巨乳をぶら下げた金髪のお姉さんがいた。なんというか、とんでもないのだ。それは果実で表現したくなるようなたわわなやつだ。

 お姉さんと言っても、恭介と同じぐらいの年頃だろう。ただなんというか世話やきが好きそうな人懐っこい雰囲気を無償で漂わせていて、それは少女のイメージではなく母性のイメージ。そこからのお姉さんという表現になったわけだ。


「レベル低いみたいやけど、もしかしてルーキーなん?」


 道頓堀の橋の上で聞いたら、ケンカをふっかけているのかと思えるような文章だが、心配そうな顔をしている彼女の声からは敵意をひとつも感じられない。


「ルーキー?」


「初めてまだ間もない冒険者は、ルーキーって言うんよ。あんま詳しくないやろうにこんなんなってなんか困ってるんちゃうん?」


「ああ、なるほど。大丈夫ですよ。ちゃんとチュートリアル受けましたし。ちょっと外行って、モンスターと戦ってきますわ」


 恭介は慇懃にそう言い切ると、そそくさとその場を離れた。それはもう、あの驚異的な脂肪に目を奪われないように、必死に。







「ま、こんなもんか」


 一人でモンスターが出る辺りをうろついて、出くわすモンスターを倒す。恭介はそれを延々繰り返していた。

 そこはアキバの街にほど近い少し開けた場所。そこら中に廃棄された乗用車やらなんかが転がっているような野原だった。苔むした感じがエルダー・テイルという作品の時代背景を構築している。

 ダメージを受けたらちょっとそこらに座って体力回復。まだMPを消費するようなスキルが少ない初期のうちは笑えるぐらいサクサクレベルがあがる。場所が低レベル向けの場所のため、プレイヤー同士で戦闘することも禁じられている。といっても、見渡してみても自分しかこのフィールドにはいないようだ。

 ひとけのないフィールドでひとりごちした恭介はあたりを見回すと、また地べたに座り込んで休憩する。周囲を見回すも敵の気配はない。


 あらかた倒したというのもあるが、このあたりのフィールドはモンスターがそもそも少ない。のんびりできることを確認すると、中空にメニュー画面を表示する。

 拡張現実の極みのこの世界。いちおうメニュー画面にデジタル時計がついているもののずっと見ているわけにもいかないので時間感覚も欠如する。そうこうするうちに腹もすく。試しに、と、チュートリアルの途中で受け取ったアイテムのコッペパンを懐から取り出してハモと口に突っ込んでみる。まずい。せんべいをふやかしたような食感と味で、味わえたものではなかった。後でアキバの街に戻ったらまともなものを食おうと心に決めて、マズいコッペパンを我慢しながら口に押しこんだ。


 次は、とサブ職業関連項目に目がいく。サブ職業のスキルである錬金術。『様々な物質や人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成する試み』と、説明文にかかれていたが、まだまだ低レベルのうちはできることも限られているようだ。<分解>というスキルだけが、今のところ使えるだけだった。といっても錬金術のサブスキルは、分解の他にもう2つ枠があるだけで終わり。全部で3つだ。金を錬成するのが目的の学術のはずだから、ここには<再構築>とか<物質変換>が入るんだろうなぁと思い至る。

 なんか<分解>してみるか、とアイテムバッグを漁ってみる。まだゲームを開始して数時間。まともなアイテムはチュートリアル中にお情けでもらったようなアイテムがばかりで、まともなものはない。バッグを占有しているのはさっき倒したウサギモンスターの牙とか、蛙モンスターのキモだとかいう素材アイテムばかりで、実際こいつらの使い道はいまいちわかっていない。だから取っておいてあとでアキバの街の誰かに教えてもらおうと思う。目についたのは、コッペパンの袋である。紙袋。ただの茶色い紙袋。

 ・・・ゴミだな。 とわざわざ指差し確認して紙袋を地面にパサッと置いて、メニューの錬金術を開き、錬金術をタッチ。


「対象に、コッペパンの袋・・・・・・・・・って対象はどやって定めればいいんだ?」


 頭にハテナマークを浮かべつつイロイロやるもうまくいかない。メニューに対象を表示する部分がないわけだ。困りはてて指一本紙袋にトンと指を落としたらその一点を中心に一瞬光りが広がった。黄色い光で魔法陣が地面に描かれると、またたく間に紙袋が1枚のA4用紙になった。

 どうやら、メニューのボタンを押して、ものに触れることで非素材アイテムが素材アイテムに分解(見た目的には変化なわけだが)されるようだ。アイテムからアイテムに変換される、ということだ。

 周囲の気配がまたざわついてきた。モンスターがまた出始めるのだろう。恭介は真っ白な紙一枚をバックにしまうと、パンパン尻を叩いてから拳を握り直した。








 たった数時間でレベルが10まで上がった。ゲーム開始当初はこんなものだろう。初めはサクサク、後で苦労する。それがRPGの基本てもんだ。

 アキバの街に戻ると、出て行く時と同じで恭介には理解できない倦怠感が街を支配していた。街を出た時となにも変わらない。なにかを諦めた人間が放つ、あの感じだ。

 なんだか嫌だなぁと思いつつ、見つけた宿屋に入る。コンクリート打ちっぱなしの廃ビルを住人が管理して、宿屋として運営しているようだった。入口すぐのところに食堂があった。掲げられた価格と、自分のステータス画面の金額を比較して、そこそこの値段がするんだなぁとか考えながらアジフライ定食を注文する。結論として同じ味だ。せんべいをふやかしたようなあの食感と味。結局これか、なんなんだこれ。


「あんちゃん諦めろ。ここの食事は全部こんな感じみたいだ」


 隣のテーブルで水を飲んでいた男が声をかけてきた。恭介がしかめっ面をしているのを見て、苦笑いをして話しかけてきたようだ。


「このゲームはこういうものなのか?今日初めてゲーム始めたんだけど」


「今日初めて!?そりゃあ災難だったな」


「何が?メシが不味い事か?」


「・・・もしかして、お前ゲームの頃のエルダー・テイルやってないの?」


「ゲームの頃?いまもゲームだろう?なに言ってんの?」


 二人の会話が成り立たない。

 男は頭をかきむしると、会話の端々をイロイロ言葉を端折っていた自分の過ちを認め、一つ一つ説明する事に落ち着いたようだ。

 実際のエルダー・テイルはパソコンを使って、画面上のキャラクターを操作する形のゲームであること。

 それなのにそのプレイヤーが、画面の中のキャラクターに自分がなってしまっていること。

 ゲームを終了しようとしても、ログアウトができず強制終了なども不可能であること。

 この世界では食事という食事がこんな感じで、味のしないせんべいのような感じであるということ。


「と、こんなもんか。わかったか?」


「わかった、ありがとう。でもなんか困ることあるのか?」


「困ること、って。そらあるだろ。普通の生活はどうするんだ。こんなとこに閉じ込められてて、現実の仕事はどうなってるんだとか、家族はどうしてるんだろう、とか」


「いやいや、そういうことじゃなくて。取り急ぎってことさ。腹が減ったらこのふやけたせんべい味食ってれば、死なないんだろう?」


「なんだか器の大きいやつだな、お前。死ぬ死なないだけじゃないだろう大事なことって」


「んなもん全部人生のついでだ。このゲームで死んだらどうなんのかね、戦闘でモンスターにやられてしまう、とか」


「わからん。まだ誰も死んだことはないらしい」


「そらまた……でも怖いか確かに」


 可能性を考えてみると、確かに怖い。男は指を一つずつ折りながら予想を披露する。



 ・死んだらこの異世界から開放されて、現実のパソコンの前で意識が戻る

  →一番ポジティブな予想

 ・死んだらゲームの頃と同じく神殿で蘇る。

  →一番可能性があるとされる予想

 ・死んだら現実のパソコンの前に居るはずのプレイヤー自身も死ぬ

  →一番ネガティブな予想



「大枠で予想はこの3つだな」


「『実際死んじゃうかもしれないけど、いっちょ死んでくるわ!』って猛者はまだいないのか?」


「いないわい。そんな怖いことできるかよ。お前できんのか?」


「はは・・・できない」


 と、ここで恭介は気づく。


「そういえばチュートリアルで言ってたぞ?死んだら神殿で復活する、って」


「ほ、本当か?」


「おう。表情の乏しいお姉ちゃんがそんなこと言ってた」


 大ニュースだ、とばかりに慌てて男は立ち上がる。


「いいことを聞いた、みんなに伝えてくる!」


「まあ、それでも確定じゃないから参考程度になー」


 宿屋から出ていく男を見送って、恭介は残りのアジフライ(ふやけたせんべい味)を腹に押しこんだ。

 チュートリアルの情報の真偽はわからないが、公式からの情報であることは確かだろう。少しは役に立つかもしれない。

 結局、この異世界からの脱出方法ではないようなのだが。







 翌日。

 金の回し方がわかった。錬金術というものが、中々便利なサブスキルであることが理解できてきた。字が表す通りに金が錬金できる、というわけではないが、有利な経済活動を構築できるようだ。

 モンスターを倒した時に、ドロップするのは少々のゴールドとアイテム。ゴールドは本当に少量のためゴールドだけだとその日泊まる宿屋の代金ぐらいにしかならない。もちろん宿屋にもピンキリはあるが、恭介的基準でそれなりなものを選ぶと、一日中アキバ周辺のモンスターを倒したゴールド総量と同じぐらいになってしまう。それだとアイテムや装備に使う金が手に入らない。そこでアイテムを何とかして金に変えることができれば、冒険が楽になるんじゃなかろうか、と考えたわけだ。

 錬金術を利用したアイテムの分解。先日行ったパンの包装用の紙くずを錬金術を使って紙1枚に変換したように、他のアイテムでも同じように変換が行われた。アイテムによって、錬金した方が値段が上がるものがあることに気づいた。それも一晩夜を明かしてからやっとプレイヤーの運営する店舗を利用することで、複数の買取価格が存在することを理解したからである。

 たとえばモンスターの落としたアイテムは、プレイヤーの営む商店とは売買できないのである。サブクエストやゲームの進行なんかに絡むため、アイテム自体にプレイヤー同士での売り買い禁止のアイテムというのは想像以上に多い。そこで、そういったアイテムを一度錬金して素材アイテムにする。その素材アイテムは、NPCの商店に売るよりもプレイヤーの商人の方が高額で買い取ってくれるというわけだ。

 逆に素材アイテムに分解してしまうと、売値が付かないものがあるということもわかってきた。そういった場合はNPCに錬金前の素材の状態で、捨て値でもいいから売る。そういった流れがわかってくるとみるみるうちに金が溜まってくるという具合だ。懐も温まってきたのでアイテム武器防具アクセサリもいろいろ買い揃えてみて、戦闘を行うフィールドも2日目朝時点で、広がって来たのである。


 だがしかし。金が溜まってレベルも装備も上がってきたが、開始2日目にして頭打ちを感じ始めていた。

 少しレベルの高いフィールドに行くと、敵が連携を行ってくるようになったからだ。自分のレベルと相手のレベルについてはほぼ同等か、恭介のレベルの方が上なのだが、それでも大量のモンスターに一斉にまたは波状で襲い掛かられると、なかなかにシンドイ。

 そもそもMMORPGというゲームの性質上、仲間を募って冒険をするのが主なゲームのはずだろう。そう考えつつアキバの街を見回してみても、冒険をしているのは仲間うちでパーティを組んでいる連中ばかり。ソロ(単独)で戦闘へ向かうような連中は恭介以外に見かけなかった。

 全然知らないもの同士でも同じ目的でメンバーを募って冒険に出発・・・というのが通常の状態なのではないのだろうか?未だにこの異世界化したゲームに対して慣れていないユーザーが多く、アキバの街でただただ時が過ぎるのを待っているような人間も見かけられる。

 活気のないアキバの街を後にした恭介は、自らの狩場へと足を向けた。






(まあ、確かに普通のゲームプレイヤーには、この現実感はキツイかもしれない)


 「書庫塔の林」。古い書店や図書館研究所などが多く散在するゾーンで、いくつかのダンジョンゾーンにもつながっている。敵は弱いがお宝として魔法書や秘呪書を落とすことが多いので、駆け出しの冒険者には美味しい稼ぎ場所として有名な場所らしい。

 だいたい現実の日本であれば御茶ノ水から水道橋にかけてのあたりだろう。川のそばに中央線の残骸のようなものがそこかしこに見受けられた。現実の古書店街をモデルに、周囲の大学などの研究所を取り入れてこのゾーンが設計されているようだ。敵のレベルが20を超えるこのぐらいのフィールドになると、プレイヤーによるプレイヤーの討伐、つまりプレイヤーキルについても警戒しなければならないため注意が必要だ。しかしアキバの街を出てから20分ほど歩いたが、プレイヤーは一人も見かけなかった。

 朽ちた本棚や建物の影から、緑色したゴブリンが襲い掛かってくる。手には斧。斧は錆びているし、いつ付着したのかわからない血痕がそこかしこについて赤黒くなっている。結局のところ普通の人間にとっては13日の金曜日に出てくるジェイソンと同じ存在なわけだ。つまり殺人鬼。

 いくらレベル差があり、攻撃が自分にヒットしたとしても実際に死ぬほどの痛みは受けないとはいえ、現実に感じるのは相手の息遣いと吹きつけられる不潔な悪臭。見た目は画面でデフォルメされていた時とは違い醜悪で見ることすら耐えられないようなユーザーもいるだろう。

 そんなゴブリンを、恭介は拳を振るい、蹴りを繰り出し、華麗なステップで相手を滅多うちにする。


(普通ゲームプレイヤーなら、なんだけどな)


 恭介はもともと普通のプレイヤーではない。どちらかというと普通のゲームはほとんどやらない。本腰上げてやりはじめたのはこのゲームが初めてと言ってもいいだろう。

 コントローラーだかキーボードだかをガチャガチャやってプレイするゲームなど、一度もやったことがない恭介。体を動かして敵を討伐するというこの状況は、恭介にとって非常に受け入れやすいものだった。

 戦闘については、システムが自動的に命中を認識して、武器の基本攻撃力+プレイヤーの基本攻撃力を足したものが大枠としてあり、様々な補正をかけて計算され敵にダメージを与える。

 そして、現実の世界で武道に精通している恭介にとって、この『様々な補正』という部分が大きい。

 武闘家のパッシブスキルに、素手での攻撃時に攻撃力の補正というものがあり、ナックル系の武器を装備するよりも単純な攻撃力は素手のほうが攻撃力が上がる、というものがある。素手の場合は二刀流と同じく1行動2回攻撃の判定も行われるため、手数が多くなる。ただし本来であれば武器に付帯した効果としてのサブ効果(たとえば対象を毒にする、属性攻撃)などは、装備しないわけだから恩恵を得られないということになる。

 さらに恭介本人は気づいていなかったが、現実化した恩恵的なものが多大に恭介の戦闘能力の向上を実現していた。それはクリティカル率算出の計算式による。

 ゲームの時、クリティカル率の算出は、武器防具とプレイヤー自身の幸運値により、1ヒットづつ計算していたものだった。例えばクリティカル率が1/6だとしたら、1ヒットする度にサイコロを振って1の目が出る度に、クリティカルと判定され、攻撃力が数倍になる、という事だ。

 しかし、異世界化した今、クリティカル率の算出はその攻撃に対する正当性も含まれることになった。つまり実際の物理法則に則ってクリティカル算出もされるようになったということなのだ。例えるなら今まではフェンシングルール(触ればOK)だったのが、剣道ルール(当たりは判断するが、浅いと判定されたらクリティカルにはならない)になり、その攻撃の勢いや入射角度、反動などを考慮してクリティカルダメージが乗算されるわけだ。

 そしてこれは防御側にも当てはまる。

 今までは、敵の射程距離内に自分が居るだけで、敵の攻撃が的中するかどうかの判定を行って攻撃のヒットを判定していた。それが、的中しなければダメージ判定もしない形に変更されたことになる。今までは範囲内に居るだけで当たるかもしれなかったのが、異世界化したことにより範囲内にいても回避できればダメージゼロということになる。


(もし絶対に命中する、という攻撃があるのであればぜひ見てみたいものだ)


 戦闘中の移動速度を底上げするスキルで回避力を上げ、先述した素手による攻撃力アップ。それに加えて元々恭介の持っている古武術による高効率の攻撃により、実際には通常のルーキーがソロで行ける範疇をとうに超えている現在でも、恭介は一人で戦うことが可能だった。







 太陽が頂点をちょっと過ぎた頃。恭介がフィールドで一人『ふやけた煎餅のような』昼食を腹に詰め込んでいると、冒険者が同じフィールドに入ってきた。

 魔術師と戦士の二人組だった。どうやらパーティを組んでいるようで、二人でなにかを話ながら恭介の方へと歩いてきた。

 ボケーッ昼飯を食べていた格好の恭介だが、眼球だけ動かして周囲を見回して、遮蔽物を確認する。


「ああ、警戒しないでください。こちらに害意はありません」


 一瞬でこちらがプレイヤーキルを警戒している事が結局相手にバレた。声をかけてきたのは、魔術師の方で優しげな声をしていた。しかしまあ、メガネの下の三白眼がその優しさを台無しにしている風情がある。これは目つきで損をしているタイプの人間だな、と恭介は判断し警戒を少しだけ緩める。


「悪いね、こちらも悪気はないんだがやはりプレイヤーキルは怖いもので。恭介だ。そちらさんは?」


「シロエと言います」


「直継だ」


 魔術師と戦士が順に名前を告げた。


「低レベルの方がこんなところで何を?」


「低レベルで悪かったな……。することが無いからレベル上げてるんだよ」


「することがない、って。この異世界で?」


「ゲーム始めたらこうなってたんだ。身を守るために情報収集よりも自衛手段としてもレベル上げ、って感じかな」


 目を丸くする二人。よっぽど珍しかったらしい。


「そういう考え方をする人に、初めて会いました」


「知り合いも一人も居ない状態で、おたくの言う異世界に放り出されちまったからな。頼る人間も居ないし、なにが本当かも分からない状態だ。そうなったら自分しかないだろう、信じられるものは」


「それはまた悲しい話だな。事実なんだろうけど」


 直継が苦笑して言った。


「どうだ?一緒にパーティ組んでみるか?」


「直継、初対面の人に……」


「いいじゃねえか、他の冒険者を信じられないってのはお互い様だ。警戒しながらでもパーティの組んでみて戦闘をしてみればいいんだ、そっちのほうがこの世界なら身分証明書の代わりになるだろう?知り合いが一人もいないんだったら俺らが初めてでいいじゃねえか」


 大雑把な意見であるが、だいたいで生きている人間なのだろう。お互い気持ちがいい判断というのを熟知しているようだった。そもそもプレイヤー同士はメニューからお互いのレベルがすぐにわかる。恭介も落ち着いてからのんびり二人のステータスを確認したがレベルが遥かに違う。向こうはふたりとも90レベル。こっちは20とちょっとだ。


「いいのか?こっちは強い奴が居るだけで楽ができて万々歳だがそっちに旨味はないだろう」


「ないことはない」


 メガネ魔術師が中指でメガネを上げながら言う。


「あなたはたった1日の短時間で、すでに24レベルになっている。エルダー・テイルを開始したのがあの異世界化と同じタイミングだったとしたら、普通のプレイヤーでは考えられない速度だ。その理由が僕は知りたい」


「そ、か。ものは試しでやってみようかね。どうやってパーティ登録するんだ?」


 恭介がステータス画面をポチポチやりだすのをみて、3人でワイワイ登録方法について話始めた。




 正直、数分たったところで、一切警戒しなくなった自分に恭介は気づく。ふたりとも気さくでいいやつだった。直継は見たまんまの直情いいヤツだし、シロエは腹黒っぽいいいヤツだった。

 シロエ。付与術師<エンチャンター>。レベル90。メガネ。名前の通り格好が白い。

 直継。守護戦士<ガーディアン>。レベル90。短髪、長身、時々アホっぽい言動がある。ふたりとも大学を卒業したぐらいの年齢に見える。

 戦闘は基本的に、直継が3人の前に立ちはだかり、人の盾として攻撃を受け止めつつ、攻撃を行う。シロエが攻撃呪文とその名の通りの付与術式を利用して直継や恭介を強化して攻撃力の底上げをする、という動きになる。

 しかし、レベル差があるため、二人の攻撃は単調であった。おそらく最弱の攻撃呪文であろうエンチャンターの小さな魔法力の塊をぶつける攻撃であっても、先程まで恭介が中々苦労しながら倒していたモンスター達が、一撃で消滅する。直継はもっとひどい。周囲の空間ごとぶった切ってるんじゃないかというエフェクトが掛かって一丸となっている敵グループを根こそぎ殺している。

 恭介はなにをしているかといえば、完全に蚊帳の外の状態だった。直継が敵をひきつけているから、敵までが遠いし、そもそもレベルが高い方に敵も集中する。致死攻撃が見込まれる方を先に攻撃するというルーチンでモンスターが動くのである。レベル90のステータスとレベル24のステータスでは比べるまでもなく直継かシロエへと攻撃が集中するわけだ。

 戦闘というよりも、虐殺といえるような一方的な攻撃。結果恭介は直継の人の盾を乗り越えてシロエを攻撃に来たおこぼれのようなモンスターを相手にすることに徹することになった。




「そうか、レベル差があるから楽なのかと思ったら、そうでもないんだな」


 自分のステータス画面を見て、恭介は声に出して言う。モンスターのドロップを拾う、戦闘の狭間のタイミングでの話だ。


「基本的にレベル上位者の取得経験値に寄るようになっているから、恭介に入る経験値はわずかだろうね」


 シロエが応える。


「まあ、パーティを組むということの経験だな」


「一応こちらのレベルを下げる方法もあったんだが、今日は勘弁してくれ、目的が違ったから」


「目的?」


 直継の言葉にオウム返しの恭介。

 聞けば、今日の目的は戦闘自体が目的だったということだ。昨日異世界化して、今日戦闘を初めて体験する、というわけだ。


「?レベル90なのに?」


「画面の前でやるのと実際に自分の体を動かすのは、やっぱり違うよ。僕なんか現実ではひきこもりの大学院生だもの」


「その割にふたりともすごい運動量をこなしていたな。日本の普通の一般学生がそこまで素早くは動けないだろう」


「そうだね、筋力とかはレベル90のものだろうね。君も十分に早いように思えたけど」


 シロエの話を総合すると、レベル90の動きを再現するために、彼らの体は十分に筋力などが補正されているということだった。実際のプレイヤーの筋力やら体格やらとは関係なく、補正されるということだった。

 恭介自身としては、それに対してあまりにも実感がなかった。プラス補正されていることを今まで感じなかったことはもちろんだが、レベル24の筋力・体格にマイナス補正されていることも感じていない。


「マイナス補正、というのは初めて聞いたな」


「そうか。プラスの補正はみんな感じているのか?」


「街で何人かも同じような事を言っていた。恭介、君は現実世界で何をしていたんだ?」


「ん?正義の味方、かな?」


「警察か何かか?」


「それは国家の味方、だろうな。とにかく敵と戦って悪を粉砕するお仕事さ」


 シロエと直継は目を合わせると目配せしつつ、


「……(ロールプレイか?)」


「……(いや、そうは見えないけど。普通だったら逆じゃない?)」


「ま、いいじゃないの今は。古武術はやっていたから武器が無い方がいいかな、と思って武闘家をメイン職業に選んだんだ」


「古武術。なるほど納得だ。恭介、キミのクリティカル率の高さはそこから来ているのか」


「察しがいいな、シロエは」


 恭介がシロエを褒める。直継が不思議そうな顔をしていたのでそれを受けて簡単に説明をするシロエ。攻撃力はゲーム時代と変わらないが、命中、回避、クリティカル率については工夫次第で上昇させることができる、とかなんとか。

 その話を聞いてすぐに納得して明るい顔で言う。


「それでその成長スピード、ってことか」


 素手での攻撃による攻撃力で、武器による攻撃力の停滞を打破、こんな感じだろうか。攻撃力を得るために希少なモンスターを倒したりして上げる必要が、恭介にはないのだ。

 古武術によるクリティカル補正の激増。

 同じく古武術による命中、回避行動の最適化によって長時間無回復戦闘が可能であること。


「効率で言ったら、ゲームの時の3倍近くのスピードでレベルがあがるだろうな」


 シロエは結論づけた。


「ふたりとも助かったよ、正直経験値が少ないことは痛手だが、パーティを組むこと、ということがどういうことかは分かった。これからも精進するよ」







 最初の緊張感はどこへやら。恭介はシロエ、直継とフレンド登録をして別れを告げた。ふたりともまだまだ情報が足りないと言っていたからまだアキバ周辺をうろちょろすることだろう。

 恭介はまだ頑張んべ、と息を一つ鋭く吐くと、モンスターがいる方角へと夕闇が落ちてきたフィールドを歩いていった。







 不思議な青年、恭介から少し離れたところで、シロエが直継に話しかける。恭介に声が聞こえないように気を使ったようだった。


「直継、彼はなんだと思う?」


「なんだと、って言われてもな。不思議な男だったな。現実世界では正義の味方、だっけか?ハハッ居るんだな本当にあーいう人間」


「そうじゃない。いや、そこも不思議だったが大事なのはそこじゃないんだよ。プラス補正を感じていないし、マイナス補正が無いことを言い切ったよ、彼は」


「エルダー・テイルのレベルに身体が順応する、ってとこの話か」


「うん。だけどあの体術も異常だろう。ブルース・リーとかそういうレベルの体の使い方だった。あんな身体の動かし方は技の中にないから、あれは通常のプレイ動作なんだと思う。それにプラス補正を感じていない、ってどういうことだ。もともとあんなレベル90クラスの身体能力だった、っていうのか?」


「システム上は、ただの24レベル。だけど体の動かし方は90レベルってことか?」


「現実にあんなのがいたらもう、ハリウッドの映画の主人公だよ。それもひどいSFのね」




「へぎし」


 噂されているのを知ってから知らずか、恭介が一人くしゃみをする。


「さて、どうしたものか」


 先ほどシロエにその場で書いてもらった手描きのメモを見ながら、恭介は考える。

 目の前にあるのは十字路。後ろにいけば、さっきシロエと直継と一緒に戦った書庫塔の林に戻る。アキバも後方だ。

 簡単に言えば、行く道によってモンスターのレベルが10ずつ違う。左が30、正面が40、右が50だ。シロエの地図にはそう書いてあった。地理に詳しくない(現実の日本であればわかるが詳細部が違いすぎた)恭介に、フレンドの証とかなんとか恥ずかしがりながらシロエが書いてよこした地図だ。

 いままでおっかなびっくりで自分のレベルにあった場所を探していた時と比べれば、このシロエにもらったアキバ周辺簡易マップの有無で心持ちもだいぶ違う。ざっくりとしたモンスターの平均レベルが記載されていて、だいたいソロで行けるレベルとこの数字が一致する、ということだった。

 恭介にもだいたいわかってきていた。レベル差がある敵と戦った場合、どの程度のダメージを受けて、どの程度の戦闘時間がかかるのか、ということが重要であるということだ。10分で倒せるモンスターを10回倒すのと、120分で倒せるモンスターを1回倒すことの効率を考える必要がある。ソロの場合戦闘時間も短くせざるを得ない。

 それでもなお迷うのは理由があった。そもそも恭介の現時点でのレベルは24。選択肢は30台、40台、50台の3つだ。悩む必要もなく、背後の道を元に戻り、書庫塔の林でいままで通りレベルがあげて最低でも30レベルまではモンスターを狩るべきであった。

 しかし、シロエを見てしまった。直継を見てしまった。彼らは一流の冒険者のステータスを持っていた。街で見た他の冒険者とはステータスだけでも桁が違った。レベル90だから、ではない。レベル90だとしても、あの能力値は通常ではありえないだろう。

 恭介は直感で感じていた。あのレベルに達しない限り、この<ゲーム>のクリアはありえないと。ゲーム開始直後にも認識をしていた。

 俺はこの世界で何をすればいいのか?その答えへの近道が彼らにあるのではないかと恭介は考えていた。


(やっぱり一段飛ばし、二段飛ばしでレベル上げないと、追いつけないようなぁ。いっちょ、アレ、やってみっか)


 恭介は、右の道に足を向けたのだった。











 シロエたちと共にパーティを組んで、また数日の日が経った。

 夜になった。街に帰って寝よ、と思い一人でポツポツとのんびりアキバへの帰路についたところ、半分ぐらいの道程を歩いたところで、人の声が聞こえて来た。よくよく聞けばそれはシロエと直継の声だった。


「じゃあ、僕たちも行こうか」


「OK参謀。進軍開始だ、おパンツ目指して」


 杖の先にランプほどの明るさの魔法の光を乗っけたシロエと、今日もアホな事を言っている直継だった。


「よ、お二人さん。今日はこっちだったのかい」


 シロエのように魔法の明かりなど武闘家の恭介は持ち合わせていない。原始的なろうそくのランプを軽く振って、二人に合図をした。


「恭介か、久方ぶり」


「恭介さん、お元気でした?」


 直継、シロエとにこやかに挨拶をして、3人で少し前に降った夕立で湿った獣道を歩いて帰る。

 簡単に情報交換のために話しつつ、アキバに向けて歩く。

 情報交換、と言いつつも、恭介側には提供できる情報など何もないのが実情だった。ほとんど直継の思いつきのような世間話を、シロエがいろいろ補足して恭介が吸収していく、という具合だった。

 現実の市ヶ谷のあたりだろうか、地下鉄の廃墟と思われるような風情の景色である。そのあたりで恭介は眉毛をハの字にしてシロエたちに謝った。


「なんだか申し訳がないな、いろいろ情報をもらってしまった。返せるものが無いのが更に申し訳ない」


「……いや、迷惑をかけることになるかもしれない……恭介、避けろ!」


 シロエが突然顔上げて、叫ぶ。

 暗がりの中で何かがうごめくのを感じた恭介は、シロエに言われる前にサイドステップを大きくとり、進行方向に向かって左に10メートルほど飛びすさる。

 見れば、シロエは10メートルの後退、直継は正面に向かって10メートル突進した形で、3人が散開した。


(なんだ?人?)


 恭介は周囲を見渡しながら、手に持ったランプを吹き消す。シロエの出している魔法の光源と2つになると、影がダブって周囲を認識しにくいというわけだ。

 光がひとつになってきたことで見える長い影は4つ。すべて人の形をしていた。


(恭介、パーティに入って)


 シロエからの念話が届く。念話については初めての経験で、頭の中でシロエの高めの声が聴こえるというのはなかなか不思議な体験だったが、緊張感のあるシロエの声にわざとなにも反応は返さずするするとステータス欄を表示してパーティ登録を済ませた。


(シロエ、直継、それと『アカツキ』?誰だ?)


 パーティのプレイヤー欄に見知らぬ名前が登録されていた。どういうことかはわからないがシロエに従っておくことにした。

 突然、金属の束を引きずるような低い連続音が響く。鎖をぶん投げたような音、である。

 直継への束縛用呪文であった。体術で避けようとした直継であったが、空中でヒットし、バランスを崩し地面に着地。その後シロエの放った<ディスペル・マジック>で、魔法の鎖は消滅した。

 一瞬の出来事である。シロエはどうやらかけられた魔法がなにであるかをだいたい予想して、解呪を即座に放ったようである。

 先日の仮パーティを組んだ時も思ったが、シロエの能力は異常の域にある。それは未来予測。状況から判断される、次の状況を的確に解決していく。


「直継っ。直列のフォーメーションっ! 敵はPK、人数は視認4っ。――位置を確定しますっ。――そこっ!!」


 シロエの杖から光の球が放たれる。これも恭介は事前に見た覚えがあった。直進する光の球で単調であるが連発が可能で、なんとも使い勝手の良さそうな魔法である。ただまあ攻撃力は大したことはないだろう。

 どうやら光源としての利用だったらしい。あっさりとその光弾は影に躱されるが、みじろいだ影は4つ。

 PK。最近アキバで聞こえてくる噂にそんなのがあったな、と恭介は一人考える。

 プレイヤーが、他のプレイヤーを襲うのである。基本的にモンスターを倒すことで楽しむゲームではあるが、ゲームとしてプレイヤー同士での抗争を禁止するような設定にはなっていない。場所によって、戦闘行為が禁止されている場所もあるのだが、それ以外の場所ではこのように襲うことが可能であるわけだ。襲われる身で感じることでもないかもしれないんだが。


「良い度胸だな。PKだなんて。……おぱんつ不足でケダモノ直行か? 不意打ち気分で祝勝気分とは片腹痛いぜっ」


 直継が威勢よく啖呵を切る。顔がニヤついているのは彼の地金だろう。

 PK自体には旨味もある。倒したプレイヤーが所持している現金すべてと、アイテムの約半分を奪い取れるということだった。大勢に無勢という言葉もあるが、少人数を囲って大人数でやってしまえば、レベルが上だろうが勝算は襲った側にあるということだ。







 影が暗がりから出てくる。影はやはり4つ。

 戦士風が1、盗賊風が2、回復役が1。

 ステータス画面を表示しないと相手のレベルはわからない。装備の高尚さなんかでパッと見でわかるプレイヤーもいるそうだが、恭介には相手のレベルがわからない。全員恭介より上のレベルだろう、PKなんかするぐらいだし。しかし、パッと見でシロエと直継よりは下に見える。なんだろう、にじみ出る下っ端感がそう感じさせるのだ。


「黙って荷物を置いていけば、命までは取らないぜ?」


 三下盗賊用の教科書に載っているようなセリフが出た。


「<守護戦士>に魔術師、それと低レベルの<武闘家>。無駄なあがきをしてみるか?こっちは高レベル4人なんだぜ?」


 低とか高とか、いちいちイラつく言い方をしてくる。取り仕切っているらしい盗賊風の男が言う。腰に吊るされている長刀は2本。二刀流が可能な職業がなにかあったなぁと、職業選択の時点を思い返す恭介だが、いまいちピンと来ない。自分で選ばなかったのだから大した特徴もないだろう。


「……直継どうする?」


「殺す。三枚におろしてからミンチにして殺す。そもそも他人様を殺し遊ばせようって連中だ。当然他人様に殺害されちゃったりする覚悟なんておむつが取れる前から決まってるんだろうさっ」


 二人がそんなことを言い合う。あまりこのゲームに詳しくない恭介としては見学していたいところだが、それは先方が許してくれないだろう。


「直継はPK嫌いだもんね。……僕はお金払っても良いんだけどさ、一度くらいなら」


 おっと、荒事はスルーの方向だ。直継が参謀と呼ぶシロエの言葉だ、どういう流れになるのか楽しみである。


「でも、あいにくお前たちには払いたくない」


「よく言ったぜ、シロ」


 ああ、やるのかと恭介心の中で苦笑。同時に(ごめんね)とシロエの念話が頭に響く。

 その瞬間、つまり「殺る」と多数決が決議された次の瞬間に恭介の身体は地面を駆っていた。地面スレスレを滑るように体勢を低くして戦士職の男に高速で接近すると、一度敵の目前で急停止。寸勁の要領で両の足を地面に踏ん張り右の拳を下段に放つ。狙いは腹。右の拳が相手の鎧の中央に決まる。


「がっ」


 相手の戦士職の男から強制的に息を吐き出されることによって発生する苦悶の声。

 レベル差もあり、ダメージは相手の総HPの3%にも満たないだろう。数字的には大した事はないが、すさまじい衝撃が相手を襲う。体を強制的にくの字に折られた形だからだ。ゲーム上で死ぬほどのダメージを受けても痛覚的には我慢できる程度のものなのだが、衝撃や振動、突如動かされる視点変化については、現実と一切変わらない。揺さぶられた頭は自然と恭介の前に差し出される形となる。

 ちょうど腰だめの辺りに降りてくる相手の顔。振るった右腕の戻る反動を利用して恭介は左の拳を真っ直ぐに突き出す。寸勁からのワンツー。

 そして、発光。空気が震えるような振動と共に青白い光が周囲を一瞬明るくする。恭介の左が相手の顔面に的中した瞬間に光とバチっと紫電が軽く弾け、戦士職の男の顔が血みどろ弾け飛んだ。







「な、なんだ今のは……」


 先程から小うるさかったリーダー格が口にした言葉は、シロエもまったく同じ事を心の内で思っていた。

 武士(恭介には判別ができなかったが戦士職の男は武士でした)がくの字にひん曲がるところまでは理解出来た。

 そのあとだ。いわゆる左フックをぶちかますと、途端にどの戦闘でも見たことのないエフェクトを伴った一撃が見舞われたのである。それこそまるで、先ほど自分が放った<マインド・ボルト>のような、魔術師系列が使用する雷魔法のどれかのような眩しいエフェクト。

 相手の顔は醜く歪み、すでに皮膚がずたずたに破けている。あれは内側から爆発したような形跡だ。頬骨が一部見えててらてらと血を伴ってシロエの魔法光を鈍く反射させている。

 相手のステータスバーを確認すると、一気にHPのバーがゼロの方へとズルズル下がっていく。そう、一撃でダメージを与えたわけではなく、今もなお相手は生存しているというのに損傷箇所からのダメージで徐々にHPが減っていっているのである。シロエも今の今までこの異世界化した世界においてプレイヤーがあんなにやられているところは見たことがないわけだが、あれでは治療不可能ではないのか?


「おい!!回復!」


「え、は、はい!」


 突然の奇怪な出来事に一瞬ポカンとしてしまったPKパーティも慌てて戦闘に意識を戻す。


「んじゃ、トドメ」


 後方に向かって仰向けにゆっくりと倒れていく武士の襟元を左手で引き寄せると、やはり顔に向けて右のストレート。先ほどと同じく紫電がかけて光がまたたく。左のアゴに突き刺さった攻撃は、また内側からぶっとび骨がむき出しになる。

 そして、そのプレイヤーのHPがゼロとなった。HPのバーをトドメの間ずっと視界の端で捉えていたシロエは、その動きに驚いた。2回目の発光のあとは、トドメと言う割にダメージが少なかったのである。みるみるうちに減っていくゲージの加速度はまるで変わっていない。相手の回復魔法が発動する前の話であるから、何もしなかったのと同じである。

 つまりトドメと口にしたのは恭介のブラフだ。PKの集団に対してだけではなく、どうやらシロエや直継まで一緒にペテンにかけられたようだった。

 だが、あの光はなんなんだ。光を放って再度攻撃したのは事実。あの武士の右顔もシャレコウベになるまで丸出しになったのもまた事実。

 あの光は、どこかで見たことがあった。

 どこだろうか、自分の使う付与術師の魔法攻撃とは少し違う。光に含まれる荷電量が圧倒的に少ない。実は恭介が武闘家の振りをした魔術師系なのかと考えても見たが、それは不可能だ、他人に見えるステータス欄を欺くような方法をシロエは知らない。

 何度も考える。あの光は、どこかで見たことがあった。

 シロエはまた考える。拳を突き出すと同時に雷属性のアイテムでも使ったのだろうか。敵に押し付ける様にしてにアイテムを使用したのか?いや、それだと右で攻撃した1回目が光らず2回目が光った理由がわからない。トリックはなんだ。手品のペテンと同じでただの視線誘導か?

 あの光は、どこかで

 シロエは気づいた。恭介はアイテムを使ったのではない。サブ職業である錬金術師のスキル<分解>を敵に向かって放っただけなのだ。それなら納得できる、あの光と雷は錬金術による錬成反応。分子が原子に分解されることで発生する事によってイオンが発した紫電だ。生産系のフレンドがあのような光を発生させていたことに思い当たる。




 この攻撃の弱点は、多い。恭介は再確認する。

 まずは、防具には発動しないこと。防具破壊を最初は求めたができなかった。ゴブリンの腹当たりをひたすら狙って発動を試みたが、うんともすんとも光らなかった。分解不能だった。

 次に、素手での攻撃の時しかこの攻撃は発動しなかった。武器をプレイ2日目にしてさっさと諦めたのはこのためだった。素手での攻撃力がブーストされる武闘家特徴を、仕方なく選んだ消去法の末の結果だ。同様の理由で、履物を履いている蹴り技でも発動しなかった。結果として射程は自分の手の届く範囲、と心もとない。

 さらに血液を目的とした分解のみ反応をすることだ。正確には水分。スライムはかろうじてOK、スケルトンは完全にNG。試したことはないが、アストラル系のゴーストなんかにはもちろんダメだろう。人体へは今初めて実験してみたのだが、皮膚越しだろうが動脈静脈にかかわらず爆発させることができた。まあ、動物系のモンスターに効果があったのだから、人間だって大丈夫だろうと予想はしていた。

 弱点はまだある。分解の時に周囲に撒き散らされる光だ。若干の紫電を伴った白い光は闇を照らし、自分の位置を明確に敵に知らせる。ダンジョンで使ったときにダンジョンの奥からわんさとモンスターが襲ってきて大変な目にあったのは数日前の話だ。

 弱点の多さの引き換えは、多大な攻撃能力につきる。瞬間的なダメージは、通常のパンチ1回分ではあるが『がんばらなくても』クリティカル判定される事がすでにわかっている。与えられた外部からの攻撃で血管が内部爆発するわけだから、システム側での判定では、クリティカル判定とするしかないわけである。

 さらに、人体破壊である。腕が飛んでも足が切断されても顔がなくなっても敵の行動は極端に阻害される。足が無ければ動けないし、目がなければ周囲がわからなくなるし、口がなければ魔法は使えない。頭が吹っ飛べば、基本的に死亡判定を受けるまではものの数秒であろう。







「〈アンカー・ハウル〉っ!!」


 腰を落とした直継の裂帛の気合い。

 残り3名が直継に目を奪われる。注意をそらす事を目的とした、このスキルは恭介を守るために放たれたものだろう。レベル差がいくらあろうとも先ほどのよくわからない致死性の高い攻撃を受けたくは無い。レベル差によらず、敵の注目の的になった恭介への援護だ。


(恭介、それは連発できるの?)


「できる!」


 シロエの念話に、地声で答える恭介。その内緒話に大声で答えるスタイルに一瞬呆れたものの、それもそうかとシロエも納得する。彼は念話について何も知らないのだ。優先順位として、念話について彼が知ることよりも今は意思疎通であると、恭介自身が理解し判断した結果が大声での返答だっただけだ。

 考えてみれば、錬金術のリキャストタイムは1秒。あの凶悪な攻撃力を目の当たりにしてシロエは、心中でこれは次回メンテで修正対象だな、とゲーム時代と同じ感想を抱いてしまった自分に苦笑した。

 またレベルに似合わないスピードで接近した恭介は一番近くに居たヒーラーの額の当たりを狙って腕を伸ばす。


「ひいああああ」


 武士の顔が爆発するシーンを傍から見ていたヒーラーは伸びてきた恭介の手から逃れるように自分の両腕でかばってその場にしゃがみ込む。恐慌を起こしたにしても、それはあまりにも意味のない行動であった。


「残念」


 恭介は差し出された形の腕に向けて錬金術を発動。左の手首から先の肉がそっくりそのまま削ぎ落とされる。

 むせ返るような血の臭いが周囲が充満し、返り血で真っ赤になる恭介の体。血液中の水分を爆破することになるため、返り血の方向まではコントロールができないのだ。痛みに顔を歪めながらもヒーラーが右腕一本で杖を振り回すが、そんな気も入っていないスイングに恭介が当たるわけもなく、簡単なステップで避けて距離を離す。


「魔法だ!魔法で、あの武闘家をぶっ飛ばせ!」


 恭介に向けて、敵愾心をむき出しにする相手のリーダー。我を忘れている。<アンカー・ハウル>の効果圏内で、そんなことはできるはずもない。そもそもメンバーに魔法でぶっとばせるようなメンバーはいなかったはずだ。


「残念ながら、なあ主君」


「ああ、もう終わりだ」


 恭介の聞きなれない可愛らしい女性の声に、シロエが応える。

 女性の声の方を振り返ると、そこには150センチに満たない少女のような輪郭の黒い影がいた。真っ黒な装束の戦士だ。少女は2人の魔法使い系をリーダー格の前に放り出すと、両手を腰に当てて呆れたように言う。


「さて、どうする。これで4対3。お前たちの数的優位はすでに逆転したぞ」


「いや」


 恭介は訂正を入れる。


「すでに4対2だ」


 少女に気を取られているうちに回復役の頭をふっ飛ばした恭介は誇らしげに言う。

 へたり込む盗賊2名。








 結局4対3という数的優位とは言いがたい状態で、いわば皮算用的に勝ち誇っていた原因は、向こうに伏兵がいたことだった。魔法使い系の二人を森のなかに潜ませておき、スキを突いた遠距離攻撃で我々3人を殲滅する算段だったのだろう。計算を書き直せば6対3となり、戦力比2倍の楽勝モードだ。

 シロエはすでにそれを予期していて、その前に自分のパーティメンバーであるアカツキ嬢を先行させていた事もあり、相手があぐらをかいた数的優位であると錯覚をさせたままにしておいたことで、自分はそれを少しも感じさせない立ちふるまいをした、というわけだ。

 レベル的に侮られていた恭介が活躍したことはさすがに誰もが予想外だっただろうが、それでも2手3手隠してたんだろうなぁと恭介は一人メガネの三白眼魔術師を横目で眺め見る。







「治安悪くなっているという話は本当だなー」


 散らばったPK達のドロップを回収しつつ、直継が言う。

 シロエが肩をすくめることでそれに応じ、アカツキは周囲に気を配りつつもアイテムを拾っている。

 結果的に恭介達はプレイヤーキラーに対応するため、プレイヤーキルを行った事になる。まあ正当防衛ではあるものの、殺人を自主的に行うのはいくら相手の人間が復活するとはいえ中々シンドイものがある。そもそも正当防衛だと声高で叫んだとしても、この異世界では誰も話を聞いてくれないだろうし、聞いたところでなんにもならないのはわかっていた。

 なんとなく落ちてしまったテンションの中で、拾うのはPK達のドロップアイテム、なんだか悲しい作業ではある。

 といっても、PK側もリスクは認識していた。金はほぼゼロ。アイテムも大したものを持ってなかった。PKを行う前に銀行にアイテムやら金貨を預けたのだろう。預けた分は死んでも減らない。預けなかった分はこうして死んだ場所にばら撒かれるというわけだ。

 恭介はふと思い、疑問を口にする。


「ゲームの頃は、PKはなかったのか?」


「まったくのゼロ、というわけではないんだが、こんなにアキバに近いところでPKをする輩はいなかったかな」


 シロエが答えた。

 大災害から数日が経過し、プレイヤー達の活動がのろのろと広がりつつあった。いつまでもアキバでぐったりしているわけにはいかない、と外に出始めたわけだ。アキバから出たと行ってもごく近所。それは今回のPK発生位置からも伺える。ゲームの頃と違い、秋葉原周辺での襲撃が目立ち、ローレベルプレイヤーもその標的となる状態だ。ローレベル=あんまり財産を持っていない、だからPKの標的にならない、という算段論法が構築されていたのが、小銭でもいいから襲って手に入れてしまおう、という思考で論法が崩れ、アキバ至近でのPKが起きているわけだ。







 それから4人はまた秋葉原の街へと向けて歩き始めた。アカツキという少女が再び先導し周囲を警戒しつつ、男三人で秋葉原に向かってたらたらと歩くという感じだ。


「恭介さんは、ここ数日間は何をしてました?」


「なに?って言われると困るんだが、基本的にはこのサブ職業の<錬金術師>の特性をもっと生かせないかと試行錯誤していた」


「でも、短期間でずいぶんレベルが上ってますよね?」


 すでに恭介のレベルは50を超えていた。先日、つまり前回会った時は24だった。倍、と簡単に言ってしまえばそれで終わりだが普通そこまで早くないだろう。


「なに言ってんだ、シロエがレベルの高い狩場を教えてくれたんだろう。そこに行ってこの<分解>を連発していれば、勝手にレベルがあがるさ」


「<分解>、ってさっきのあれか?ピカっと光って、敵が爆発するあれ?」


 直継が質問を投げかけてくる。恭介が取り出した地図を覗きこむと、確かに以前会った時にシロエが恭介に渡した地図だった。


「弱点も多いんだけど、基本的には攻撃力が数倍になるような感じだから。レベルキャップもないし、汎用性が高い感じでいろいろ使える」


「パーティも組まないでよくもまあ」


 シロエが呆れる。

 確かにシロエが地図を書いてやったのだ。30と40と50のモンスターが出る場所を記載した。シロエ的にはレベルが足りないから行かないように、と禁止とか注意の意味を込めて平均レベルの数字を書き込んだのだが、恭介的には高効率の狩場として認識し戦闘を繰り返し、バグ技とも思えるその<分解>を使うことで非常識なレベル差・戦力差を詰めて大量の経験値を手に入れ続けたのだろう。


「呆れた」


 わざわざシロエが口に出して言う。


「俺もだ、呆れた」


 直継も若干真似をして、それに続く。


「利用できるものを最大限に利用し尽くそう、っていうだけだよ」


 恭介が笑いながら二人に言った。







「つまるところ、バグ、なのかな?」


「バグ、ねえ」


 シロエの横で、並んで歩く恭介が両の拳をグーパー開きながら応える。


「バグ、とは思えないんだけどな。どちらかというと『昔からすることはできたのにそういう動作ができなかった』ってとこじゃないか?」


 現実化によるバグの顕在化、ということだろうか、とシロエは一人考える。カーソルで選択することができない部分を、指で指す、手で指し示す、という方法が可能になったことにより、本来対応しないはずの部分が対応したということだ。


「いまんところ、水分しか効果がないから、取り回すが大変だけどな」


 苦笑する恭介。大発見ではあるものの、今のところ錬金術にしか使えないだろう。他のサブ職業でもこういったものがあるかもしれない。

 シロエは歩きながらズブズブとそんな思考に溺れていった。







「あらら、黙っちゃったよ」


「自分もなんかできないか、とか考えてんだろ。ウチの参謀はいつもそんなもんだ。眉間にしわ寄せて、むむむーってな」


 恭介が発した言葉に、直継が頭の後ろに手を回して気楽に言う。


「どうだ恭介、今後一緒に行動しないか?」


「お、冗談にしてもありがたいお言葉だな。いいのか?直継の好きなおパンツ少女ではないぞ、俺は?」


「おパンツは重要だ!!人生の大黒柱と言ってもいい!」


(言いすぎだろう)


「。。。そうじゃないだろう。それはそれ、これはこれ、だ!お前結構やれるみたいだしな。放っておいても勝手にレベルが上がるんだろうけど、別に<エルダー・テイル>の楽しみはレベル上げだけじゃない。それこそおパンツも至高ではあるが、おパンツ以外にもバカで集まって騒ぐ、っていう楽しみがある。俺も、そこのシロエもそういう意味では楽しみたがりだぜ?」


 意外と本気勧誘してくれている。

 最初は冗談だと思っていた恭介は内心少し驚きつつ、内容を吟味する。そもそも彼らはレベル90の冒険者。そんな人間が自分を仲間に加えると言ってくれている。少々猜疑心も生まれる。


「一緒、というと、他に誰か居るのか?」


「今のところ、さっき居たアカツキと3人だな。でもまあ知り合いも他にいるからな。まったく顔が利かないお前だと、そういった人間関係も大変だろう?」


 まさにそうである。今まで関わったのはほんの数人。まともに話をしたのは、シロエと直継、それと宿屋の食堂で話をした冒険者ぐらいか。兎にも角にも人脈形成の取っ掛かりが恭介にはなかった。

 話を聞いてみれば、心配してくれて世話をしてくれる、という感じだ。ありがたい申し出だった。


「そうしたら、少しの間世話になろうかな。いろいろ教えて下さいよ、直継パイセン」


「オッケー牧場、だっぜ!」

反応をいただけたら、続きを書こうかしら、という風情です。

なんなりとどうぞ。

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