白の人
零章:光
光とは? 明るい未来?それともタダの明るい物?
いきなりこんなことを聞いた理由は後々わかるが、今は理由なんて気にせずにそっと頭の隅に置いておいて欲しい
あるときふと思い出して全て納得するはずだからね。
光の無い世界を想像したことはあるかな? 光が無いと言っても灯火とかはあるけどね
けどそれは暖かくないしむしろ冷たい寂しい光なんだ
寂しくて冷たい光しかない世界がもしも実在したとしたら、君はそこに行きたいと思うかな?
私は思わないね。だって光が無かったら死んでしまうもの。と、言い切ったが実はその世界にいた人の話を知ってるんだ
これから話すのはそのことだけど、自分もそこに行けるなんて思わないでね。彼女は悲しい人なのだから。
一章:純白の人
とある色白の女性がこう言った
「太陽を覚えてる?」
誰に聞いた訳でもなく、ただ一人で問いかけていた。彼女は人とは少し違う人で、肌が凄く白くて弱い
周りは彼女の肌に憧れるが、本人は自分の肌が嫌いだった、だって光という光が敵となって自分に襲いかかるのだもの
光を浴びると死んでしまう。そんなことを知らずに憧れを抱いている人は哀れだろう。
しかし彼女は光に憧れを抱いていた。大きく眩しい太陽の光に誰よりも強い憧れを抱いていた。
太陽に憧れつつも太陽を見たその瞬間死んでしまう。けれども彼女は太陽を見たいと願う。
願いを唱えるのは夜空に輝く星。太陽の願いと星に届けようとしていた。
二章:束の間
あれから3ヶ月。願いは未だに届かずに光のない世界に閉じ込められていた
悲しみに囚われながら静かに眠りへ行くと、そこは明るい生気に満ちあふれた世界、ずっと夢見続けた世界だった。
眠りに従く間だけは明るい世界へ旅立つことができるようになったのだ。しかしそれは仮初の世界。夢に過ぎなかった
とある日の朝。夢から覚めると体中に痛みがあった。それでも彼女は毎晩ずっと夢の中にある理想郷へ出向いていた
そこにいる間だけが彼女の願いが叶う時間なのだから……。
三章:思い出
夢を見続けて一年が経った日。彼女の体はもう骸同然だった。痛みも増し、それと同じぐらい太陽への憧れも増した
しかしその光への憧れは、もはや自らを蝕む敵と化していた
喉の奥から張り裂けそうな叫びがこみ上げてくる。それは自分に対する怒りと悲しみの叫び。
あの時の暖かさ、あの時の明るさ、あの日あの場所で見た自然の神秘をまたもう一度見てみたいと彼女は叫んだ
その思いは決して実現しないことなんてもう彼女は知っていた。そんなことは最初からよくわかっていた
それでも彼女は願い続ける。それが彼女にできる精一杯の努力なのだから。
四章:終息
彼女はもう動かない。美しく儚い白い肌に血が通うことはもうない。
そうなる直前まで彼女は願い続けた。理想郷へと出向く時間さえも削って願い続けた。
願いは叶わずにただ虚しく散っただけだった。誰の目にも触れずに誰の耳にも入らずに静かに消え去った。
もう彼女の願いが星に唱えられることはない。星はそこに輝いているが願いを聞くことはなかった