サイカイ その八
一週間後。
俺は自分でも信じられない事に二つ直面していた。
「今学期から皆の仲間になる転校生の伊達正美さんです」
これから担任となる男に紹介され、俺は嫌々ながらも教室を見渡しながら一礼する。
「達正む……伊達正美だ、よろしくお願いします」
ざわつく教室「金髪?」「可愛い」「当たりだ」とかそんな声が耳に入る。
坂比良の生徒だったら坂比良に入ってそこから近づいた方が早く、もしザンビディスがホッケーマスクを思いだし、坂比良に乱入したりするかもしれないという点。
考えうる最悪のケースは坂比良の制服を着ていた人をゲームの対象にしてしまった場合を考える事だ。
……などとニーズは言っていたのだが。
俺の気のせいなのかもしれないが、ニーズと不死子は、俺がこの状況に陥っている事を面白がっているようにしか思えないフシがある。
見渡す限りの同年代が決まった服装を着用し、規則的な生活を想起させる整然とされた教室を埋め尽くしている。
淳也の卒業式の時に学校の中に入った事はあるが、稼働している状況を実際に目にするのは初めてで、知識としては持っていても目の当たりにすれば面食らう。
普通しかなく、自分も普通にならなければならない。
普通とは何なんかと哲学的に思う事はあったが、実際に足を踏み入れるとなると、どうやら相応の覚悟がいるようだ。
理由はどうであれ俺は仮初めでも坂比良高校の生徒となってしまったのだから、少なくても学校生活を送らねばならないのだ。
しかし、俺よりも気の毒のは敦也である。
敦也も一緒に潜入させられたのだが、敦也にしたらつい半年前に高校を卒業して、もう一度高校に行くハメになるとは思わなかっただろう。
ちなみに長瀬篤と偽名を使って、今日付けで俺とは別のクラスに転入した。
「それじゃ、伊達さんの席は。そこの裏辺の後だから」
その何気ない担任の一言に俺は戦慄を覚えた。
偶然と奇跡の違いなんて俺には理解できないが、俺のために用意された窓際の席。
その席の前にはあの夜のホッケーマスクをしていた女が、気だるそうに座っていたのだ。
しかも、名前は裏辺。
こいつが裏辺治彦と繋がりがあるかどうかは知らないが、どうにも無関係とはどうも思えない。
素顔を見たのは一瞬だったが間違えるはずもなく、どうすべきかと考えたが、初日から問題を起こすわけにもいかない。
俺は裏辺と呼ばれたホッケーマスクの正体である女を睨みながら席についた。
裏辺は窓の外を眺めて気がつかないようなふりをしていたが、気がついてないという事はないだろう。
そう、気がついていないはずがない。
しかし、裏辺は俺が席につくとすぐに後を振り帰り、そしらぬ顔で手を差し出してきた。
「タマ、裏辺タマ。よろしくね」
「ああ」
敦也の事を言えたもんじゃない、俺は特に警戒もしないでその手を取った。
一見すると人畜無害なこのタマは、だが間違い無くホッケーマスクだ。
とにかく、俺は新しい環境で、早くも目的の女の再会した。
普通の学園生活を送らねばという、俺の考えはどうやら杞憂に終わりそうである。
現の責任 第一話 サイカイ
了