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現の責任  作者: 面沢銀
仮面の少女編
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サイカイ その七

「何ともごちゃごちゃした話だね、私はどんどんやる気がなくなっていくよ……」


「やる気がないって……そんな事を言わないでくださいよ」


 俺達は事務所に帰るととりあえず一眠りし。

 さっきがた起きた俺達は昨日あった事の顛末をニーズに話すと、今にも寝込んでしまいそうな表情でニーズが机に突っ伏した。


 朝だというのに、締め切った窓を貫通して蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 世間で言うところの夏休みとやらが、あと一週間で終わり。暦の上では秋だというのに、この夏の暑さはまだ収まりそうにない。


 不死子と違って魔術師という珍妙な存在でも、ニーズはこういった暑さ寒さを感じるので、山積みになった問題もあいなって、こうもぐったりしているのだろう。


 そんな少女姿の魔術師を健気にたき付ける敦也。

 思えばこの光景はほとんど毎日繰り返されているのだから、今年の夏が暑いからっていうわけではないか。


「だってアレだよ、ザンビディスが明らかに二人に興味もってんだよ、そら頭も痛くなるよ」


 机に顔を押し当てながら手元のペットボトルから水をバシャバシャとこぼすと、指先をチロチロと動かしてその水を宙に浮かしてはキリンを作ったりウサギを作ったりして遊び始めている。


 これはニーズがたまにやる現実逃避の方法だ、大事が近づくと人は部屋の掃除を始めるのと同じようなもんらしい。


「ザンビディスってどんな人なんです?」


「そうだ、少なくてもヤバイというのならどんな奴なのか知っておいた方がいい」


 俺達がそうニーズに言うと、台所から不死子が麦茶を持って表れ。カラカラと乾いた笑いをあげながら俺達の前に麦茶を置いていった。


「いや~、わしの耳にこのような男の存在が入ってこなんだとは、驚きじゃのう。説明もメンドイからの、これでも見るとよかろう」


 言って不死子はビデオの再生ボタンを押した。

 映ったのは朝にやっている情報番組。

 この間、最もテレビに映っているアナウンサーとしてビール会社の発行するびっくり記録に乗った奴がやっている番組だ。


「いや~、日本もセルゲイ事件以降におかしくなったおかしくなったっていってますが、これは酷い。いいですか皆さん、これは昨日の夜中に本当にあった事件ですからね。夏の夜の悪夢、深夜の繁華街で、女性が二十四人惨殺、犯人の外国人男性は未だに逃亡中」


 外国人男性。

 俺と敦也はその言葉にピンとくる。

 大量死はセルゲイ事件以来、こういってしまうと問題があるだろうが、そんなに物珍しい事件でもなくなっていたが、あれは完全に化け物の仕業なのだ。


「これが最初の殺人を目撃した人の証言です、ちょっと御覧いただきましょう」


 画面に映ったのは葉鳥駅と、顔にモザイクがかかった男性。モザイク越しとはいえ髪は金髪だとわかり、服装もチャラチャラしていて、一般人とはかけはなれいているが、声だけはハッキリとしていた。

 まるで嘘のような話を信じてもらおうとやっきになっているかのような、切迫した感覚がその声から感じとれる。


「いや、普通に女の子がベタ座りしてたんですよ。そこの消火栓のところで、こう壁によりかかって。確かに結構荷物を広げて、通行の邪魔かなって感じでしたけど、時間が時間だからあんま気にしてなかったんスけど。そしたら二メートルくらいの背丈の大きな外国人がその子の前に立って、何か邪魔とは思わないのかとか何とか言ってたんすけどね。んで女の子がうるせえみたいな事を言った瞬間にですね。こう足で何か荷物でもどかすように蹴りをいれたんですよ。ってかそれも早すぎてよくみえなかったんですけどね。それでガンっていう凄ぇデカイ音と、あと何っていうのかなパンっていう、ほら縁日の水風船が割れちゃう音、あんな感じの音がして。んで見てみたら女の子の頭がなくなってて、壁に血とかいろいろべちゃって張り付いてて。消火栓の扉がすっごいヘコんでるんですよ」


 画面に映ったのは大きなトマトを勢い良く壁にぶつけたような、放射状に飛び散っている赤い血の跡と、丸太でも担いで突っ込んだような外れてまるまってしまっている消火栓のドア。


「ね、これ。これって人間ができるような事なんですか?」


 アナウンサーが専門家みたいな奴に話を振ると、専門家も少し戸惑いながら答える。


「いや人間の脚力でこんな事はできないですからね、人間型の怪物が現れたという事なのかもしれません。最初彼女と話したっていうあたり人語を理解しているとしたら、もう私達が思っているよりも奴等は私達の日常に入りこんでいるのかもしれません」


 その専門家の言葉を聞いてアナウンサーも意見を言う。


「人間型の化け物、恐ろしいですね。人間にしても化け物にしても、何より恐ろしいのはこの殺人犯が街をまだ捕まらないで平然と街の中にいる、これが恐ろしいですよね」


 そこで不死子がピッとビデオを止めた。


「そうか、それでザンビディスが僕達の前に現れた時に手足が真っ赤だんたんだ」


 敦也はそう軽くいうけど、ニーズも不死子も重きを置いているのはそこではなかった。


「重要なのはザンビディスが余計な事をしたせいで、日本には化け物じみた人間がいますよって報道されちゃった事なのよ、昨日も話したでしょ」


「日本は化け物の国、日本人は化け物。そういう考えが根付いてしまったら外交どころの騒ぎではないぞ、再び鎖国でもするようじゃし、ヘタうったら戦争じゃ」


 そうニーズと不死子に諭されて俺も不死子もハッっとする。


「ザンビディスのゲームの一つよ、こうなるってわかっててザンビディスは仕掛けてきた。ザンビディスが知ってるかどうかは置いておいて、日本には事実として化け物じみた人間がいるわけだしね。警鐘のザンビディス、悪意のザンビディス。少し意味がわかった?」


 ニーズが言うと、少し敦也は怒った様子で聞き返した。


「ゲームって、そんな事を何でするんです?」


「それがJ・F・ザンビディスって男なのよ、ちなみに殺した二十四人は全員がいわゆるギャル。おそらくザンビディスが歩くのに邪魔だったっていう理由で一人殺して、殺しのターゲットをギャルのみっていうルールが昨日のルールだったんじゃない?なんとなく、そんな理由でこんな事をするのがザンビディスなの」


「そんな……」


 敦也が言葉を失う。

 だが、俺としてはザンビディスがどんな奴であれ、倒さなければならないなら倒すだけだ。

 ならわかっているのなら敵の情報はもっとあったほうがいい。


「それで魔術師なんだろ、どんな魔術を使うんだ?」


 俺が聞くとニーズがやっと机から顔を起こして顎に手をあてて考えこむ。


「ん~、これから詳しくは調べるけど……とりあえず人形使い(・・・・)って事くらいしか知らない。でも知人の人形使いに言わせると、人形を使うってのが魔術じゃないらしのよね」


「頼りにならんな」


 俺が毒づくと、今回ばかりはニーズも素直に「申し訳ない」と言った。


「それでつきましては正宗よ、今の情報だけで何とか行動を起こそうと思ってな」


 不死子がなぜか、こっからが本題だとばかりにニヤニヤしながら話を切り出してきた。


「仮面の女子高生もお前達に用があるようじゃし、体現者であるなら押さえておく必要があるからの。そこから潰していこうと言うわけじゃよ」


 言うと不死子はソファーの陰から服を取り出すと着ろとばかりに俺の前に突き出した。


「これは、何だ?」


「坂比良の制服」


 敦也が何か理解できない事を呟いた。

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